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魔眼と学ぶ結界術  作者: しゅしゅく
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39話

この辺難しすぎるし、マリアはしゃべりすぎ。

「そもそも、“解析眼”が、なぜ“解析眼”たるのか、透は知ってる?」

「いや、そもそも、魔眼にはあんまり……」

「じゃあ、教えてあげよう。“解析眼”は、魔術や妖術などの不可視のものが見えるんだ」

「いや、それは、わかってるつもりなんだけど……」

 そう、術と呼ばれるものが、自分の魔眼で見えているのが、透にはわかっていた。だが、それが妹の件とどう結びつくのかがわからない。

 すると、マリアが笑って言った。

「全然わかってないわ。あなた、まだ術式、見えてないでしょう?」

「術式? 術式って、あの、術を使うときに必ず編まれるっていう不可視のシステムのこと?」

「そう。それ。普通は見えないって言われているそれ。それが、“解析眼”なら見えるはず」

「ま、待ってくれ。本当に見えるのか? 術ってのは、そもそも神と人が近しかった時代に、神が使う奇跡を、どうにか再現しようとしたときにできたものなんだろ? そして、その時に手を貸した神が編んだのが原初の術式だ。それを真似して、過去の人間は術をつくった……」

「そして、神と人間が離れた時、人間に術式は見えなくなった……そうやって教わってきた?」

「え、あ、ああ」

 マリアに言おうとしてたことを引き継がれて、透は勢いをそがれてしまった。そして、あいまいに頷き、にやにやとしたマリアの瞳に見つめられる。

「言ったでしょ? 私は全てを知ることができる。なんでも知ってるの。そもそも、この歴史は全世界共通、嘘でも何でもない。実際に神と近しい関係にある白天なら術式くらい見えているからね。当然、私も見ることができる。今は、私の契約相手の、冥府の神に連なる神々と近しい術式しか見えないけど。それでも、神に近しいと術式は見えるのよ」

「ということは……」

「そう、あなたの“解析眼”は、神に近しい者の瞳。素晴らしき魔眼のひとつ。“看破眼”って、似たような魔眼があるけど、格が違うわ。術式の編み方の全てが見えるのだもの」

 無邪気な笑顔をつくって、マリアは紅茶をすすった。情報を咀嚼している透をおいて、マリアはさらに語り続ける。

「術式が見えるということは、編み方もわかれば、ほどき方もわかるということ。それは、新たな術をつくりだすために大きな武器となる知識だし、知らない術を看破するのに役立つ力なの。どういう意味か、わかるわね?」

「妹の、呪いの術式が、解けるかもしれない?」

「その通り! さっすが、察しがいいじゃない」

「いや、でも待ってくれ。それができるなら、あんたがやってくれればいい話だろう!」

 思わず透は大声を出した。マリアはちょっと困ったような顔になって、軽く目線を下げた。声のトーンも心なしか落ちる。

「ごめんなさい。本当に、それができたらいいのだけど、私が動くのだけはできないのよ。というか、白天とか、ある程度格の高い、自分で祝福や呪いを他者に駆けられるような者たち全員ができない」

「どうして!」

 透は理不尽だと思った。彼らは一方的にこちらに様々な害悪をふりまけるのに、それを解くことは全員ができないなんて、そんなのあんまりだったからだ。しかも、全員がというのがどうにも理不尽だと思った。あの白天すら味方をしてくれないということなのかと、がっかりしたような気持ちになる。

 マリアは、そんな透の気持ちを落ち着けるように、優しい声色で話す。

「ごめんなさい。これは、祝福や呪いをかけられる者たちの鉄の掟なの。自分や他人の産み落とした祝福や呪いには、手を出さないこと。これを破れば、戦争になるから……だから、できない」

「戦争? そんなことで、どうして……」

「そうね、呪いを解くことだけを考えていたら、そう思うかもしれないけれど、呪いと祝福は根本的に同じものだって考えたら、納得するんじゃない? つまり、誰かの祝福を他人が解いたら?」

「それは……」

「明確に対立構造ができる。例えば、どこかの神格が、呪いを解いたとする。呪いだって変わらない原理でできているなら、他人の祝福をはぎとれるのではないかと考える人が出てくるのは自然なこと。その流れで、神や連なるものの加護を求めて、争いが起きる。力をもった上位存在同士だけじゃなく、その下も、庇護を求める人間も、全員が争いだすわ。数の少ない椅子をめぐってね」

「まるで……」

「まるで、見てきたような言い方だって?」

 今度も、透の言葉は先回りされた。マリアは意味深に笑う。透は、きっと彼女の特異な能力の一部か、千里眼でも使ったのではないかと推察した。

 マリアはつまらなそうに目を伏せて、思考する透をよそに話を続ける。

「見てきたんだもん。何千年も生きていると、そういうこともあるから。私、長生きしてよくなかったことのひとつは間違いなくこういう記憶や気持ちをもっていなければならない事だもの。アーカイブする術式も編んじゃったし、抱えて生きるのを決めたはいいけど、たまに辛くなることはあるのよね」

 透は、そう語るマリアが、今までと異なる強いオーラを纏っているのを感じていた。強いけど、寂しそうで、様々な経験を重ねてきたのだとわかる強者の雰囲気。それまで明るくふるまっていた彼女からは感じなかったものを感じたことで、透は気づいた。真の強者は、厚みというか、多層性が全く違うのだと。表に出す顔と、しまっている顔に大きな隔たりがあるのだと。

 白天も同じようなものを抱えているのだろうか。珠姫はそれを聞いたのだろうか。そんなことが頭をよぎった。

 しかし、マリアは透のそんな考えすら吹き飛ばすような明るい声を出した。

「ま! そんなこと、気にしてらんないし! 今考えたいのは、妹ちゃんのこと! 千晶ちゃんは優秀だし、私は彼女にちゃんと大人になってほしい。でも、私と竜の呪いで起きられないのも何とかしたい。その思いは、透と一緒のはず! そこで、これは偶然だけど、私の呪いから“解析眼”を拾い当てた透に、その真の使い方をマスターさせたかったのだ! これが、私があなたに絡む目的」

「なる、ほど」

「理解できたみたいで良かった!」

「話はわかったし、それは嬉しいんだけど、先輩とかへの説明ごとが増えたから、この前みたいに夢に出てきてくれたらよかったのに、とは思ったよ」

「あら、あれは実は結構難しいのよ? あなたの祝福の元であるヤツヒメちゃんの力が強くて上手く入り込めないんだから」

「ヤツヒメ様の?」

「そ。最初はなんでかなあって思ってたけど、今日、白天に聞いてようやくわかったわ」

「そうなのか……」

 透は、自らが契約した弱々しい姿の、小さな神様の事を思い出した。透が呪いと戦うために、咄嗟に掴んだ神様の手。10年前のその日以来会っていないが、彼女の能力にとても助けられてきた。

 竜の災害にあった地の管理をしていたヤツヒメという神は、あまり大きな力をもっているわけではなかった。それ故に、竜に取り込まれかけていた。ぎりぎりのところで、その場にいた人間の子どもと強い契約を結び、竜に取り込まれることは何とか回避した。このような記録が日本の妖類圏には明確に残っている。その人間の子どもが、透であり、透が竜の呪いを受けずに生還できた理由であった。

 どこまでも、透の事を助けてくれる神様である。千晶の呪いの一部を透が身体に引き受けられたのも、彼女のおかげなのだから。

 透は、一生、頭が上がらないだろうなと思いつつ、早く彼女との約束を果たしたいと改めて感じていた。

「ま、ヤツヒメちゃんの契約が重い理由は、透と直接会ったらわかったし、この契約は果たされてほしいと私も思うわね」

「見ただけでまたわかったのか?」

「うん。あの厄災があった山地の復興でしょ? それも、自然とかじゃなくて、呪われた土地の浄化。大変すぎるけど、契約の強度はその分強くなる。ヤツヒメちゃん頭いいなって私は思ったわ」

「あの時は、10年前は必死だったし、子どもだったから、まさかこんなに大変な事だとは思ってなかったけどな」

「あはは、そりゃあそうよね」

 マリアは楽しそうに笑って、クッキーを口に放り込んだ。透も、一息ついて、紅茶をすする。

「でもね、それに関しても、透の魔眼、きっと役立つから。早く修行して使いこなせるようになりなさいな。とにかく、練習あるのみなのよ、魔眼ってやつは」

 マリアは、にやにやとしながら、透の額を人差し指で小突いた。


評価等していただけると嬉しいです!

よろしくお願いします!


次回は、2月2日18時投稿予定です!

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