36話
この章は視点の切り替えが多いと思いますが、3人称で進む小説なので大目に見てください……。
透は、仁之助とともに、羽田空港に来ていた。仁之助は、【完全人化の術】を使って、角もない完全な人間となっている。人類圏の空港に二人がいるのは、海外からの使者を待つためである。
「ヨーロッパの使節団でしたっけ? なんでわざわざ人類圏の飛行機で来るんですかね。妖類圏の怪鳥便とか、ヨーロッパの魔術師ならワイバーンを使った高速航空便もあるんでしょう? わざわざ人類圏の空港使うなんて何がしたいんだか」
「まあまあ、そう言うなって。ヨーロッパの方じゃ、お偉いさんほど、表舞台で人間に紛れて生活してるらしいし、その関係だよ。ほら、戸籍ある人間がいきなり表の世界から消えたらまずいでしょう」
「そうは言っても、俺も珠姫さんも問題なく生活できてますよ?」
「いやあ、一般人と比べちゃダメだよ。相手は、超VIPだから。ほら、来たみたいだ」
仁之助が指をさす方向には、かっちりとした黒服に囲まれた4人の男女がいた。大男が一人にイケメンが一人。女性は、サングラスと帽子をしっかりとキメて、顔がわからない小柄な女性が一人に、見るからにおどおどとして、自信がなさそうな少女が一人だ。
彼らがVIPだということで、こちらもスーツを着用してきた。どうやら、まだ遠いが相手もこちらを視認してくれたらしい。大柄な男が朗らかな顔で手を振ってくれる、透と仁之助は日本人らしく、深々と頭を下げた。再び顔を上げたとき、透は不思議な既視感に襲われた。疑問に思って、目を細める。サングラスと帽子の女性がニヤリと笑った気がした。
瞬間、彼女の姿が掻き消える。ハッとして瞬きをしている間に、透の胸元くらいに帽子が揺れていた。
「やあ、ようやく会えたね。“解析眼”は、モノにできたかい?」
「……っ!?」
聞き覚えのある声だった。息が詰まる。魔眼の正式な名前を知っているのは、一人しかいない。
「マリア・ブラッド……?」
「フルネームで呼び捨てにされるなんて、久しぶりの経験だなあ。会えて嬉しいよ。日下部透」
「なんだ、知り合いなのか?」
気づかぬうちに、上から声が降ってきた。目線を上げると、先ほどの大男が覗いてきていた。透は思わず、喉を鳴らしてしまった。見かねたのか、仁之助が助け舟をだしてくれる。
「ようこそ、日本へ。皆さんを護衛し案内することになっている高野仁之助と、そこにいるのが日下部透です。ただ、護衛は必要なさそうですね」
「確かに。色々とついてきてしまいましたからね。案内だけ、お願いできますか?」
「私はそもそも、護衛なんていらないって言ってたんだよ」
「はいはい、マリアさんはそう言うかもしれませんが、大人の事情というものがあるんですよ」
「私はここの誰よりも年上なんだけどなあ」
イケメンとマリアが会話しているのを横目に、透は呼吸を整えていた。改めて4人の使節団を見てみると、とても格の高いメンバーであることがわかる。あのおどおどとしている少女ですら透と同等以上の実力があるようだ。確かに護衛などそもそも必要ないメンバーではあるだろう。
「そうだ。こちらの自己紹介がまだだったね。ピーター・キングストンです。よろしく」
優雅に挨拶したのは、金髪のイケメンである。瞳は空色で、放つオーラはまさに王子様である。ロングコートが良く似合う長身の彼は、いるだけで空港の人々の注目を集めている。
スッと差し出された手に応えて、透も仁之助も流れで握手をする。それに合わせるように大男も手を差し出した。
「ジェームズだ。ジェームズ・ダンバー。ここのピーターと共に“椅子の騎士”に身を置いている魔術師だ。よろしく」
“椅子の騎士”と聞いて、透の顔にさらに緊張が走る。“椅子の騎士”はヨーロッパの人外社会に置けるトップの人間たちである。ヨーロッパの人外社会は魔法界と呼ばれ、優れた魔術師を頂点に置くことで統治をしている。日本でいう妖類とは、種族ごとの代表者と個別で話をつけているらしい。そうやって治める社会の頂点の一角がつまり目の前にいるということだ。
ジェームズの言葉に付け足すように、ピーターが話す。
「僕は第2席、こっちの彼女たちは“椅子の騎士”ではないよ。そう緊張しないで」
「そ、そうです。私には緊張されるほどの勝ちはないですよ。あ、わ、私は、第2席騎士団に所属しているメアリー・フォックスです。よ、よろしくお願いします」
緊張が抜けない声で、メアリーは手を差し出した。透たちも応えるように握手を交わしたが、メアリーは触れる程度の控えめな握手をした後に、すぐにピーターの後ろに隠れてしまった。ピーターは、それを見て苦笑を浮かべる。
「すまない。彼女は優秀なんだが、人見知りが激しくてね」
「全く、己の騎士団の団員くらいしっかりと教育しておけ」
「あいにく、ジェームズのところみたいに軍隊を作る気はないからさ」
二人がそんな会話をしている間に、割り込むようにして、マリアが透たちの前に躍り出てくる。
「全く、話の長い男どもだな。私はマリア。真なる吸血鬼の一人にして恐らく世界最古の魔術師よ。よろしくね。特に透」
「あ、ああ……」
なんとなく返事をしたものの、実のところ、彼女との間にどういったつながりがあるのかを透も理解していない。仁之助は当然の事ながら何も知らないため、視線で説明を求めている。だが、ここで離せる話でもないとりあえずは、後で離そうと決めて、使節団に向き直る。仁之助もそれに合わせて案内を再開させる。
「では、とりあえずは私たちの世界の中心地までご案内いたします」
「よろしく頼むよ」
そう答えたのはピーターだった。仁之助を先頭にして、空港を出て、駐車場にやってくる。人気がないのを確認して、あらかじめ用意していた境界門のポイントに移動した。仁之助がひと言詠唱する。
「開け。【境界門】。道を繋げ」
門の形に空間が揺らぐ。輪郭がオレンジに輝き、眩い光が門の内部を満たす。
「いつ見ても素晴らしいな。空間を飛び越える術式は珍しい。日本の土地神という概念がそれを可能にするために強い力を働かせているのは知っているが、できないとわかっていても羨ましいものは羨ましいね」
「確かにな。土地が変われば魔術が変わるのは我々の世界でも重要なことだが、そもそも土地に作用する魔術は少ない。この地の結界術が独自の発展を遂げていることの証だろうな」
「そうなのですね。我々は、魔術を見たことがないので、違いもわからず……」
仁之助は彼らの知見の深さに驚きを覚えつつ、手で境界門の方を指し示して案内をした。
「どうぞ。我々の上司が向こうで待っています」
全員で、境界門を超える。たどり着いた先は、白天の社ではない。霊峰、富士山の頂点にある富士の社と呼ばれる場所である。そこには、白天、玄白、そして、格が高いと一目でわかる幼女が鳥居の前に立って待ち受けていた。
幼女が話し出す。
「ようこそ。異国の皆様。私はコノハナサクヤヒメ。この日本の神の一柱です。異国の神々のような凄まじい力はございませんが、おかげでこうして世界と関われております。どうぞよろしくお願いいたします」
奥ゆかしくお辞儀する彼女に、ピーターが真っ先に応えて、騎士の礼をとった。
「こちらこそ。お出迎えをありがとうございます。尊き神よ」
しかし、その荘厳な雰囲気をぶち壊すように、マリアが仁王立ちで宣言した。
「久しいな! 日本の古き者たち! 今回も、悪魔を狩りに来た!」
ピーターとジェームズはその様子に、苦笑し、頭を抱える。対する白天は、にっこりと笑って答えた。
「久しぶりね。相変わらず破天荒なのはいいけど、今回は色々と話をしなきゃいけないから覚悟してね」
「ほ?」
マリアはその白天の様子に、何かをやらかしてしまったらしいと悟った。
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次回はちょっと間が空いて、1月21日18時に投稿の予定です。
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