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魔眼と学ぶ結界術  作者: しゅしゅく
35/93

34話

よろしくお願いします!

 護界局一番隊隊長である天海(あまみ)流泉(りゅうせん)は妖類の間で有名な男だった。妖類の裏社会にも名が轟き、恐れられた護界局最強の人間である。彼が戦場に現れたことを察した鬼たちは、逃げ腰になり、何人かは既に境界門から消えていった。

「さて、あそこで暴れているのは剛太郎ですか。指名手配中の鬼。しかし、交戦中なのは()ですね。……ふむ、とりあえずは放っておく方向で、報告にあった監禁場所を見に行きますかね」

 天海は、剛太郎をその気になれば倒せる対象だと判断し、それよりもリスクが高い結界装置を見に行くことに決めた。護界局一番隊は、諜報部隊である。その職務に忠実な天海は、犯罪者の逮捕を後回しにし、狸につながりそうな情報を探ることにしたのだ。

「では、まずは彼らの退路を確保しましょう。陽ノ四【水流多層結界】」

 天海が短く詠唱をすると、鬼たちが通ってきた境界門の裏に、滝のような勢いで水流が立ち上る。それは、壁のようにそそり立ち、現在戦闘が起きている大きな通りだけではなく、小道まで含めた周囲の通路という通路を封鎖した。

「この壁……」

「四位階の結界術を無詠唱で使う術師が、なんでこんなところに……」

「逃げねえとやべえんじゃねえのか?」

 鬼の間に動揺が広がる。

 天海はそれを一瞥すると、驚くべき速さで倉庫の方へと消えた。その高速移動、強い妖力が、戦闘中の剛太郎の索敵に引っかかった。手近な化け物を一匹殴り飛ばしながら、ひきつった笑みでつぶやく。

「おおっと、とんでもねえ奴がおいでなすった……また、雲隠れの算段を立てなきゃならねえな」

 剛太郎は、棍棒で化け物をなぎ倒しながら、退却について考え始めた。指名手配されるほど逃げのびてきた嗅覚は伊達じゃない。天海との実力差を正しく感じ取った剛太郎は、とりあえず境界門をくぐるために、戦場を段々と後退していく。

「お前ら! 潮時だ! 死にてえやつだけ残れ!」

 そして、剛太郎はそんな声をかけ始めた。

(この組織からはまた離れることになるだろうが、まあ、無駄死にはよくねえからな)

 剛太郎が雲隠れの達人であるのは、この、判断の速さ、根無し草でいられることが関係していた。今剛太郎がいるギャングのような組織も、ふらっと立ち寄った居酒屋程度の認識である。彼は、ひとところにおさまらないことで長い間追跡を躱していたのだ。裏社会の上の面々もそれを理解しているものが多い。そのスタイルを否定するのは、よっぽど頑固か、自身の腕に覚えがある者だけだ。そういった輩に、剛太郎は未だ出会ったことがない。

「さて、だがしかし、今回は狸がらみだ。この組織が良くても、狸はどうかねえ」

 一人、そんな事を考えながら、剛太郎は化け物をなぎ倒していく。

 一方、倉庫にたどり着いた天海は、現場の把握に努めていた。

「ふむ、戦闘不能の鬼が2。結界術で捕まっている鬼人が1。破壊された結界装置と思しきもの……概ね、収集した情報の通りですが、なるほど。朱火様が目をかけるわけだ。あの若さでこれだけの結界術を使いこなせるのは、素晴らしい」

 天海の興味を一番にひいたのは、透の術によって現れた結界だった。常人には、この結界が茨でつくられた檻のオブジェにしか見えないだろう。中から、うめき声が聞こえてくるのを覗いては。

 天海の右目が青く輝く。

「ふむ、とても強度が高い。術式の練り方も素晴らしい。戦闘時に有用そうな効果を付与しているのは、彼が三番隊だからですかね」

 天海はとある川の神に祝福を受けており、“看破眼”という魔眼を所持していた。多くの者はこれを知らない。というのも、彼が圧倒的な実力をもっているために、その戦闘力に目がいってしまう者が多いからだ。彼がなぜ、これほどまでに実力をもちながら、諜報部隊の隊長でいるのかを考えれば、それに通ずる技能が高いことは察することができるだろうが。

 天海はその魔眼で、透の構築した術式の悉くを見た。それを理解することができるのは天海自身の見識の深さである。

 彼が看破すれば、妖力や術に関わる事柄の全てが露になる。所持者の知識が無ければ役に立ちづらい能力ではあるが、天海にはぴったりの能力だった。

 透の術式を見て、満足すると、天海は短く詠唱をした。

「陽ノ二【縛氷(ばくひょう)】」

 瞬間、地面にのびていた鬼と、透の結界の中の鬼人が氷漬けになった。うめき声は消え、あたりに、重たい氷が転がった音が響く。

 透がこの場にいれば、驚いた事だろう。結界術には、位置情報を定めてからでなければ、術を発動できないという制約がある。だから、遮蔽物があると途端に精度が落ちてしまう者なのだ。だが、今回、天海は透の檻越しに術をたやすく使った。恐らく、位置情報の特定は妖力の感知による索敵で。しかし、妖力の感知は、視覚情報ほど精彩ではない。耳であのあたりから声が聞こえると感じるのと同じレベルである。それを頼りに術を発動して成功させるというのは、相手に背を向けてキャッチボールをたやすくできるようなものである。

 天海はそんな高等技術を使ったとは思えない落ち着き払った様子で、次の行動を取った。茨の鳥籠に両手をかざす。

「【術式解体】開始……」

 天海の宣言に応じて、透の術によってつくられた茨の全てが、淡くオレンジに光った。そして、複雑な文字列が天海の眼前に展開する。それは、天海が先ほど自らの魔眼で見たものと寸分違わない。この術を成す術式たちである。天海は迷いなくそれらの文字列に手を加えていく。そして、数秒作業して、両手を降ろした。

「完了。ふう。やはり素晴らしい出来ですね」

 彼がそう呟くと、透の術はオレンジの光となって霧散していった。茨に寄りかかっていた鬼人入りの氷塊が、再びごとりと音を立てて転がる。それを一瞥すると、天海は結界装置のほうへと足を向けた。

「なるほど。これが装置。壊れていますが、看破はできるんでしょうか」

 彼の瞳がもう一度青く輝く。天海には、装置の残骸から様々な術式が見て取れた。どれも少しずつ破損しているが、彼にとっては破損による術式の欠損などのノイズを取り除いて理解することは苦ではなかった。

「防御結界機能がメイン……それも外からではなくて中から外への。なるほど。最初から中の者たちを消す可能性を考慮していたのでしょうね。加えて、センサー機能。これは破られたときの通報の意味でしょう。剛太郎が現れたのはこれのせいと考えるとして……問題はこれですね」

 視界の中に術式が散らばっている関係で、直接触れることはできないが、天海の右手はある術式を指さしていた。

()の発生の術式……単純に読めば、周囲の妖力と負の感情の強い霊魂の収集……しかし、そこに何か加えているようですね。これは見たことのない術式。それに、発動には謎の球体が必須……知らないことがここまで多いと逆に面白い」

 天海はそう呟くと、その場に残された装置の一切を大事に回収した。そして、氷塊になっている鬼と鬼人を並べて、さらに詠唱をする。

「玄武の鳴動。来たれ門。異界と異界を繋ぐ門よ。道を繋げ。此は砦に繋がる道ぞ。陽ノ七【限定境界門】」

 鬼たちが出てきたのと同等程度の境界門が姿を現す。そして、彼はそこに上半身を傾け入れた。

「仕事ですよ。逮捕者3名。よろしくお願いします」

「うおあ! びっくりさせないでくださいよ。天海隊長」

「啓くん、もうそろそろ慣れてくださいよ」

「啓くんって呼ぶのやめてくださいよ。もう私は、土門隊長って呼ばれる立場なんですから」

「いいじゃないですか。昔のよしみで」

「昔のよしみで仕事を押し付けられている私としては、それをやめてほしいんですけどね」

 肩にかかる程度のウェーブがかった茜色の髪を、首を一振りして整える。額に一本生える角にかかってしまった髪の束を右手で払った。執務机に肘をついて、短くため息をついた。

「そうは言っても、聞かないんでしょうから、その逮捕者、受け入れますよ。その辺に置いておいてください。後で回収させておきます」

「助かります」

「天海隊長は、この後どうされるんです?」

「ちょっと、雑兵掃除。逮捕者は出てもあと5人もいないと思うから、気にしないで」

「仕事が増えるのは確定なんですね」

 再度ため息を吐いた土門の声を聞かずに、天海は、上半身を境界門の反対へ戻した。そして、氷塊を蹴とばして、境界門の中にいれる。

「じゃあ、パパっと終わらせますか。低級の化け物たちのお掃除を」

 その後、倉庫街での戦闘は3分と経たずに終了した。目撃者はなし。追加の逮捕者は透が転がして捕縛していた2名のみだ。しかし、その戦闘が戦闘とも呼べないすさまじいものだったことは、誰もいなくなった倉庫街が、水浸しになり、氷に覆われていた事から察することができただろう。


評価等していただけると嬉しいです!

よろしくお願いします!


次回は1月14日18時に投稿する予定です。

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