31話
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珠姫と揚羽が駆け付けた先に広がっていた光景は想像よりも凄まじいものだった。
地面からそびえたつ、くすんだ緑色のオブジェ。それは、どこか鳥かごのように見えたが、ねじれるように変形しており、中から生々しい苦悶の声が聞こえてくる。そして、その傍らには、出血の跡がある透が倒れ伏していた。
「透!」
珠姫は、声を上げて透に近寄る。
仰向けで呼吸を確認したところ、しっかりと生きているのがわかった。珠姫は安堵のため息を漏らしつつも、透の頬を軽くはたいて声をかける。
「透、起きて。しっかりしてよ。ここから逃げるんでしょ?」
「た、珠姫さん……かなり消耗しているようですし、無理やり起こすのはどうなんでしょうか……」
揚羽は、珠姫があまりに躊躇なく透を起こそうとするので、不安になって口を挟む。だが、珠姫はなんてことのないように答えた。
「大丈夫よ。透が勝ったってことは、まだ動けるはず。何かがあって気を失ったんだろうけど、起こさないと帰れないでしょ?」
「で、でも」
「揚羽ちゃん、こいつのこと、心配してくれるのは嬉しいけど、私たちも逃げなきゃいけない。透がこれだけ苦戦したんなら、次に来る奴には勝てないから。だから、何としても逃げないと。こいつを連れて」
「珠姫さん……」
珠姫が語るのは、朱火から教えられた心得。珠姫自身が殺されることはまずありえない。だが、透の命は簡単に吹き飛ぶ。それも、格の高い相手と戦りあえば。それ故に、逃げると決めたとき、傍に透がいるなら、迅速にその場を離れなければいけない。透に、結界術師としての覚悟が、戦いで命を落とす覚悟があったとしても、その命をどうやって使うのかは、主たる珠姫の責任になるからだ。
朱火の教えは、今の戦えない珠姫に、透を起こして即時撤退を選択させた。
果たして、珠姫の呼びかけにより、透の呻きが漏れる。
「うっ……」
「透! しっかりして。早く逃げないと」
「透さん!」
目覚めた透に、ふたりが声をかける。その声を聞きつつ、透は全身に感じる痛みを振り払うように軽く頭を振った。そして、ふたりに視線を向けて言う。
「よかった。ふたりとも無事でしたか」
「敬語やめる。早く立って。逃げるんでしょ?」
「そう、だな。珠姫さんの判断は正しいよ。何人か、この倉庫に近づいてくる妖力の反応がある」
「え、今ですか?」
揚羽が驚いた声を上げる。妖力による気配の探知は、揚羽も現在進行形で行っていたが、揚羽の探知には何も引っかからなかったからだ。透はそれに答えつつ、顔を上げる。
「そうです。まだちょっと遠いんですけど、なんか、探知の精度が上がってまして」
そう答えた透の右目が深紅に輝いていた。揚羽は驚いて息を飲む。
「魔眼……」
「あ、使えるようになったのね」
珠姫がそれを見て軽く応じる。透も「おかげさまで」と軽く返事をした。揚羽にはそれが信じられなかった。魔眼というのは、とても珍しい才能のひとつと言われているからだ。魔眼を持てる人間は限られている。生まれつき魔眼を持っているか、呪いや祝福をその身に受けたか、だ。しかし、その珍しさを気にしないかのようにふたりは話していた。
揚羽はその理由がわからないながら、逃げるのが先決であるという状況を踏まえて、疑問を飲み込むことにした。
「急いで移動しよう。とりあえず、倒した奴らは放置でいい。珠姫さん、俺が侵入してきた方から逃げよう。気配は全部こっち側に向かってきてる」
「わかった。揚羽ちゃんも」
「あ、はい」
珠姫と揚羽が移動を始めると、多少ふらつきながらも立ち上がった透が詠唱を始めた。
「玄武の鳴動。我が敵を見極め、阻害せよ。陰ノ四【繁茂する悪魔の爪】」
透の目の前の地面が、淡く緑に輝く。その光は、直後に収まり、何の変哲もない地面が残された。
透はその作業を終えると、すぐに珠姫や揚羽と合流した。
「何したの?」
珠姫が合流した透に聞いた。透は静かに答える。
「罠だよ。足止め用の。俺が入ってきたところも同じのを仕掛けてある」
「へぇ。やっぱり、透ってなんか、有能よね」
「そりゃあ、どうも。でも、これくらいは、使う術が違うだけで、三番隊の人たちは普通にやってたよ」
「じゃあ、物騒な組織だってことね」
「警察の実働部隊みたいなもんだからなあ。人類圏よりも武力行使の多い世界だし、仕方ないんじゃないか?」
そんな話をしながら、透は結界の発生装置があると思しき場所に足を向ける。結界内の敵は制圧したが、最初に張られた結界は全く弱まっていなかったからだ。魔眼を得た透は、倉庫の周囲100m四方程度が、結界に覆われていることが、あの、オレンジの輝きによってわかっていた。どうやら、透の魔眼はなんらかの術が使われていると、オレンジの光で知らせてくれるらしい。付き合いは浅いが、透は自分の新しい武器の使い方を十分に理解したと思っていた。
「あった。これを破壊しないと俺たちは外に出られない」
「なるほど。これが結界の発生装置ね」
「天狗の里で見たものとはまた違うような……」
「たしかに。一般的な結界装置と何か違う気がするな……」
「そうなの?」
結界装置を見たことのない珠姫は、ふたりが言う一般的ではない結界装置を眺める。木製の枠でできた四面体の中に、青白い球体が浮いている。木枠の一部にはお札のようなものが巻き付けてあり、何かしらの術がかかっていることはわかるが、珠姫にその内容を理解するだけの知識はなかった。尤も、今回は透や揚羽も専門家でないとわからないのではないかという結論に達していたが。
「それで、どうするんですか、透さん。解体、できますか?」
「いや、無理ですね。術式がわからない。一般的なものではないようなので」
「一般的なものなら解体できるの?」
「ああ、一般的な結界装置は、動力を切断して終わりだ。大抵の場合ってやつだけど。ただ、これは動力がおそらく真ん中の球体だってこと以外、その接続がどうなってるかとかがわからない」
「どういうこと?」
「んー、コンセントは抜けそうだけど、パソコンの電源ボタンがどこにあるかわからないみたいなことだよ」
「なるほどね。コンセントを引き抜くのはダメなの?」
「なるべく、したくない。変な作用がいきなり起きても嫌だしな」
透がそのように悩んでいると、珠姫がなんでもないことのように言った。
「追手が来てるんでしょ? もう、コンセント抜いちゃいましょ」
「でも、結構リスキーだぞ?」
「そうですよ。暴発とかしたら……」
透と揚羽が躊躇うような様子を見せるが、珠姫は引かない。
「じゃあ、透が守ってくれたらいいんじゃない? なんの効果があるかわからないけど、これをどうにかしないと先に進めないなら、壊してみて考えないと。ずっと悩んでても意味ないし」
珠姫の言葉に、透は少し臆病風に吹かれていた自分がいたことに気づいた。一手間に合わなければ、負けていたかもしれない相手との戦闘を経て、実力不足を痛感したからだ。何かが起きたらどうしようかというネガティブなイメージが先行していた。これでは、判断が鈍って、かえって珠姫たちを危険に晒す可能性がある。
透は内心で、珠姫に借りをつくったと思った。しかし、どうして、そこまで悪い気分でもない。
「わかった。俺たちを結界で包みつつ、これを物理的に破壊する。即座に出口に走れるようにしておいてくれ」
「私、足遅いからね?」
「珠姫さんは俺が抱えるよ。天狗のお姫様、身体強化しながら、走れますよね?」
「あ、はい」
揚羽はなんとなくお姫様呼びを直させようと思ったが、口を挟む暇もなく透は行動を開始した。
「よかったです。じゃあ、行きます。玄武の鳴動、閉鎖し、箱を成せ、陽ノ三【界壁包囲】」
透は、珠姫と揚羽を自身の陰に隠すような形をとってから、結界術で、装置を囲むように壁をつくる。そして、その内側。装置の真下から装置を貫くように新たに術を発動させた。
「【刺線条】!」
光の壁に囲まれた中で、茨が装置を貫いた。木枠や中心の球がいきおいよく爆ぜる。それらの破片は、壁の内側に、飛び散った。ぱちぱちと物理的に阻まれた欠片が、音を立てる。
壊した瞬間に、透は、ずっと感じていた不思議な気配の力が拡散したのを感じた。それが、どのような意味を持つのかはわからないが、とにかく、これで逃げ出せるようになったはずである。
「よし、破壊はできた。急いで脱出しよう」
「そうね。何かが起きてからでは遅いし、早く逃げましょう」
透の声に珠姫が答え、一同は、透の入ってきた裏の方を目指して走り出した。
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