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魔眼と学ぶ結界術  作者: しゅしゅく
31/93

30話

31日目!

12月毎日投稿やり切りました!

 シンプルな話だ。珠姫は揚羽の動きに違和感を感じていたのだ。うずくまるだけの状態をやめた珠姫は、揚羽の戦いを覗き込んでいた。彼女は、攻撃をどれだけ躱したり、いなしたりしても、決して下がらないのだ。自分に何か枷を課しているような戦い方をしていた。

 珠姫は戦いの専門家ではないが、そんな珠姫でもわかるくらいに揚羽の動きはおかしかった。彼女は体格差をものともせずに戦っているし、そのために素早い動きで攪乱しているのに、その動きはあるラインを超えて下がることがない。さすがに、おかしいと気づいた。そして、その原因が自分にあることも。

 だから、珠姫は走り出すことに決めた。珠姫が逃げれば、そちらに人員を割くしかない。その間は、揚羽が一対一で戦うことになる。そうなれば、あわよくば倒してくれるんじゃないかと、そう考えての行動だった。

「珠姫さん!」

 もちろん、揚羽はそれを察したが、止めることはできなかった。叫ぶだけで手一杯。

「おい! こら! 待て!」

 相手も当然の事ながら追いかける。見事に珠姫の思惑通りの状況になり、揚羽は明らかに戦闘がしやすくはなった。驚いて、叫んだ一瞬は脳の処理が追い付かなかったが、結局やるべきことは明確だ。

 目の前の敵を倒す。

 むしろ、それをしなければ、揚羽は自分の存在価値を見失ってしまうのではないかと思った。その分プレッシャーは増す。だが、今の揚羽にはそのプレッシャーが力になった。何があっても珠姫のことを守らなければと、そう思うことで揚羽の心は吹っ切れた。

「邪魔だからどいて!」

「邪魔するに決まってるだろ!」

 揚羽の動きが一気に加速する。放たれる鋭い蹴りとそれに呼応するような拳の連撃。鬼は先ほどまでと違う攻撃的な姿勢に面食らい、何発か受けてたたらを踏む。揚羽は即座に体勢を整えつつ、後方にステップを踏む。

「ぐっ、てめえ、よくも……!」

 うめき声を上げる鬼は、拳を握りなおして襲いかかろうと突進してくる。揚羽はそれを見越して、準備をし、詠唱を始めていた。

「大いなる山と大地に祈る。出でよ土くれ。打ち倒せ。【堅土掌底(けんどしょうてい)】!」

 踏み出そうとした鬼のすぐ下の地面から、土で固められたできた掌底が飛び出してくる。それは、思い切り鬼の顎を打ちぬいて、その上半身をのけ反らせた。すかさずそれに飛び込み、揚羽は腹部に一撃を見舞った。

「がっ……は……!」

 口から体液と音を吐き出しながら、鬼は後ろ向きに倒れていく。ズシンと重い音がフロアに響いた。

 揚羽はそれを見届けると、ふう、と一息をついた。

「なんとか、なった。私も、戦えた」

 揚羽にとって術を用いた戦闘は、はじめての経験だった。普通、術と戦闘行為に関する指南は別に行うものである。結界術師のように戦闘を前提として訓練している者ならともかく、揚羽は鍛えさせられてきただけで、形式を取り払った戦闘はしたことがなかった。だが今回、何としても鬼を撃破する必要があると決意した揚羽は、ぶっつけ本番ではあるが天狗の術を使った。そして、揚羽はそれに確かな実感を得た。

「私、ちゃんと、できるはずだ。珠姫さんを、助けないと……!」

 揚羽は拳を握りなおして、走り出した。

 珠姫が逃げた方向はわかっている。鬼が追いかけていったのも見えた。揚羽はその記憶をたどり、倉庫内を走る。

 珠姫の足は、本人が自覚しているように、決して速くはなかった。だが、妖力の放出を閉ざすお守りのおかげで、妖力を探られても見つかることはない。それがよい方に転がり、珠姫は何とか鬼から逃げおおせていた。

「どこ行った! あの女!」

 鬼は珠姫の姿を見失い、大声を上げ、雑然と倉庫に配置されている物品を殴りつけて荒らしながら、場がしている。

 上がる息をなるべく抑えながら、珠姫は物陰に隠れていた。

(逃げることなら私にもできるって思ったけど、やっぱりしんどい……。息が続かない。足が重い。もっと普段から運動しておくんだった)

 内心でそんなことを考えながら、様子をうかがう。ついてきた鬼は一人のようだから、とりあえずは揚羽の役に立てただろうと、一安心する。ただ、珠姫の頭にはここから先のプランがなかった。

(この倉庫の出入口は透が戦ってる所だし、さっき透が開けてくれた脱出口は、鬼の方からまわらないといけないし。正直、袋のねずみなのよね。考えられる選択としては、透の方へ行くか、揚羽ちゃんがもう一人を倒して来てくれるのを待つか……。どっちにしても他人任せなのが気に食わないけど……)

 珠姫はそのように考えながら、ジッと身体を縮めていた。足音が近づいてくるのを感じる。いざとなればもう一度走り出すしかないことは、珠姫にもわかっていた。ただ、もう少し時間がほしいというのが本音だった。それに、走り出すにしても、どちらの方向に行くのかも決めあぐねている。

 ただ、そんな現状が広がっているからといって、待っているだけでは状態に変化は生じない。段々と大きくなる足音は、じりじりと迫るタイムリミットを示している。無策で飛び出すのは危険だろう。決断する時だった。

 珠姫はそして、倉庫の出入口へと走り出した。

 急に飛び出してきた珠姫に鬼は反応できなかった。

「あっ、おい! 待てコラ!」

 踵を返して反応せざるを得なかった鬼は、若干のタイムラグの後で怒鳴り散らしながら走り出す。だが、さすがの身体強化により追いすがる速度は珠姫よりも遥かに速い。珠姫は後ろから迫る足音の大きさに内心で叫びをあげたくてしかたがなかった。だが、とにかく前を向いて走った。

 月明かりが段々と強くなっていくのがわかる。出入口が近い。戦闘の激しい音が聞こえてくる。透が、戦っているのだ。

 目の前に、その光景が見えるか見えないかの所で、後ろから腕を掴まれる。

「逃げんじゃねえよ! お姫様!」

「くっ! 離して!」

「離すかよ!」

 腕に酷い跡がつきそうなほどの強い力で、後ろに引っ張られる。痛みで珠姫は顔をしかめる。歯を食いしばって透の方に向かおうとするも、力が強くて抜け出せない。

「透! 透!」

 叫んでも届かないとわかっている。でも、叫ばずにはいられなかった。珠姫のおかれている状況を、唯一理解して守ってくれる人。

(助けを求めるなら、透しか……。いや、違う。今はもう……)

 珠姫は、はたと気づいた。今、珠姫が呼べる名前は、ひとつじゃなかった。

「揚羽ちゃん! 助けて!」

鞍馬堅土鉄槌(くらまけんどてっつい)!」

「あがっ……!」

 鬼の頭が前のめりに吹き飛んだ。頭がもともとあった位置には、大きなハンマーの頭が輝く。月明かりに照らされた黒鉄のそれは、確かな存在感をもってそこにあった。

 珠姫は衝撃で吹き飛ばされ、地面に倒れこむ。視界に入ったハンマーの手元を見れば、凛とした表情の揚羽がいた。

「揚羽ちゃん!」

「珠姫さん! 大丈夫ですか!?」

 声を上げた珠姫に心配そうに揚羽が駆け寄る。珠姫は駆け寄って来た揚羽の手をとって言う。

「ありがとうー。助かったよ……」

「もう! 珠姫さん! なんて無茶するんですか! こんなに腕が腫れて……」

「あはは、まあ、死なないってわかってたからつい」

「ついじゃないです! もっと自分を大事にしてくださいよ」

 揚羽が若干泣きそうな顔をして言うので、珠姫はさすがに罪悪感を覚えた。だが、珠姫としては、これでよかったと思っている。この、年下の女の子が逞しく自分を助けてくれて、珠姫も踏ん切りがついた。

「私、強くなるね」

「え?」

 珠姫が押し出すようにつぶやいた。

「いつか、揚羽ちゃんと一緒に戦えるように。守ってもらう側から卒業できるように」

「珠姫さん……」

「だから、いっぱい教えてね!」

 揚羽の表情を見て、珠姫は強い笑顔で言い切った。揚羽はそれを見て、珠姫に手を差し出す。

「じゃあ、私ももっと強くなりますね!」

 珠姫はその手をとって立ち上がった。

「うん。お手柔らかに」

 珠姫がそう言った所で、外から一際大きな妖力の反応があった。透たちの戦いに何かがあったに違いない。珠姫と揚羽は顔を見合わせて、急いでそちらに向かった。


評価等していただけると嬉しいです!

よろしくお願いいたします!


12月毎日投稿にお付き合いいただけた方、ありがとうございました!

これからの更新は書き溜め次第になりますが基本的には、2日に1回は更新する予定です!

(書き溜めがはかどっていれば、毎日です)

この物語は、プロット上は完結まで見えていますので、1年か2年か、かかる時間はわかりませんが完結までお付き合いいただければと思います!

よろしくお願いいたします!


それでは、よいお年を!

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