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魔眼と学ぶ結界術  作者: しゅしゅく
27/93

26話

27日目!

 透は一合交わしただけで、一筋縄ではいかない相手だとわかった。刀に乗っている力が見た目以上である。確実に妖力による身体強化は会得している。それだけならまだしも、太刀筋が剣術の心得がある者のそれだった。透は錫杖(しゃくじょう)で戦うことがほとんどなので、剣術はわからないが、構えや攻撃の後の隙の無さから、敵の実力の一端をうかがい知った。

「お前、人間にしては強いじゃないか」

 鬼人はにやりと笑う。まだ余裕があるという笑みだ。透は同じく笑いを浮かべて返す。

「そういうあんたは、鬼人にしては弱いんじゃないのか? 俺の知ってる鬼人はあんたより強いぞ?」

「なんだとガキが!」

 鬼人は怒りをにじませて、刀を振るい飛び込んでくる。透はそれに合わせて錫杖を振るい、攻撃をいなしながら、立ち位置を変える。より珠姫たちから離れた場所にステップを踏んで移動したのだ。だが、そこに鬼人の追撃が入る。

 いなされた刀の返した刃が、下方から透の上半身を狙ってくる。透はさらにバックステップを踏んで、なんとかそれを回避する。

「今のは危なかったんじゃないか? 悪いな。お前の策に乗ってやるほど、俺も優しくないんだよ」

「何のことだよ?」

 透は、息を整えながら虚勢を張る。鬼人はにやにやと笑う。

「キレた奴の動きは直線的で見やすいよな。わかるぜ。挑発に乗ってくるような安い相手はそれで簡単に御せるからな。俺も同じやり方で何人か殺したよ」

「余罪がいっぱいありそうな発言だな」

 透はあくまでも余裕がある言動をしながら、内心で舌打ちをしていた。こいつは場数を踏んでいる面倒な敵だと認識を新たにする。

 透はなにも、戦場でバカみたいに相手を煽っているわけではない。ちょっとの事でキレるくらいに精神が安定してない犯罪者を相手にしてきた経験から、武力行使をするときはその方が楽だと考えてそういう行動を取っているだけなのだ。だが、経験値が高い敵には通用しない。今のように。

「そういうことだからよ。正面から()りあおうじゃねえか!」

「【界壁】!」

 調子づいて、刀を構えて突っ込んで来る鬼人の進路に壁をつくり出し、走行の妨害を企む。しかし、【界壁】はいとも簡単に切り捨てられた。

「こんな小細工が通用するかよ!」

「【界壁】!」

 透はそれでも同じく壁を作りながら、ステップを踏む。二枚目の壁も簡単に切り捨てられたが、珠姫たちからは十分な距離が取れたと思える所までは釣りだすことができた。その位置で、とりあえず、刀を受ける。今度は、返す刀を制して錫杖の石突を使って反撃する。刺突のように放たれたそれを、攻撃動作をしていた刀の腹で逸らしながら、鬼人は後方に距離を取った。

「お前、やるじゃねえか。ここから本気って事かよ」

「いや、俺はあんたと真面目にやりあう気はないよ。【刺線条(しせんじょう)】!」

「ガキが!」

 透が放った茨の攻撃は、それを察知した鬼人に避けられる。省略詠唱の結界術を回避できるということは、確実に妖力を感知して戦えているということだ。【界壁】を簡単に切り捨てた時から感じていたが、この鬼人はあまりに戦い慣れしているし、術に詳しい。透は警戒レベルを最大まで引き上げる。

「あんた、やっぱり、なんかしらの術が使えるな? 術を使った戦闘に慣れすぎてる」

「ああ、そうだな。だが、だからどうした? 関係ないさ。俺は上手いこと術が使えなくて、こういう稼業しかできねえ男なのよ」

 透はそれに返すことはせず、男の出方をうかがった。

 鬼人が術に優れているというのは有名である。先輩隊員である仁之助も鬼人で、結界術は透よりも優れている上に、鬼人に伝わる独自の術まで習得している。妖力の扱いを心得ており、武術にも才覚がある者が多いのが鬼人の特徴だ。つまり、ある種の戦闘種族である。

「天狗の方が力は強いがな、鬼人は技術を極める世界なんでね。剣術も俺より上がいて、妖術も落ちこぼれたら、ドロップアウトするしかねえだろう?」

 にやにやとした笑いのまま、そんなことを言ってくる鬼人に、透はますます警戒心を強めた。戦闘中に話術で揺さぶってくる相手は警戒しないといけない。こちらが短気で突っ込んでも負けるし、言葉の合間に術を混ぜられても厄介だ。

 だから、こういう時の対処を透は決めていた。

「【刺線条(しせんじょう)】!」

「うおっ!」

 先制で攻勢結界術を放ち、それが回避されても、その間に距離を詰めて近接戦闘に持ち込む。勝算があるとかではなく、相手のリズムにさせないこと。それが、透の経験上大切なことだった。

 案の定、茨を回避してバランスを崩した鬼人に近づくのは容易だった。そのまま、錫杖を振りぬく。

 胴にいい一撃が入る軌道だった。しかし、直前に挟みこまれた刀で上手く受けられる。振りぬいた勢いで、鬼人の身体は吹き飛び、壁に衝突していたが、これくらいでは倒れてくれないだろう。一度ステップを踏んで、反撃に備える。

 と、そのステップを予測したかのように、吹きとんだはずの鬼人が飛び出してきた。透は若干焦りながらも、刀の一撃を錫杖で受けつつ、鬼人の勢いに任せて飛ばされる。地面に身体がつく瞬間、足の先から妖力を使い、軟着陸。ばねのように膝を伸ばしながら、右方向に回避行動を取る。次の瞬間、透が先ほどまでいた場所に、刀が刺さる。

「【刺線条(しせんじょう)】!」

 前のめりになった鬼人めがけて、茨が地面から飛び出す。鬼人は、刀を軸にして身体をひねり、茨を回避した。そのまま、刀を抜いてこちらと距離を取り、茨の射程から外れてしまう。

「ったく、お前も戦闘に慣れてんじゃねえか。器用に術を使いやがって、食らうとこだったぞ」

「軽く避けておいて何言ってんだよ」

「いや、ここまでは小手調べだろうが。お前もわかってただろう? なあ? 楽しくなってきたな?」

 透は内心で、これだから鬼人は面倒なんだと大きなため息をついた。

 彼我の戦力は大体わかった。体術、剣術は相手の方が上だ。だが、妖力は高くない。これは珠姫も捉えていた通りだ。妖力だけなら透の方が上だろう。このことから、戦闘に術を混ぜるスタイルは正解だろうと考えられる。だが、当たりを上手く入れるには、【刺線条(しせんじょう)】では弱いかもしれない。

 こういった素早い戦闘では、詠唱が省略できる術が向いているが、詠唱が必要な術を使っていく必要もあるかもしれない。透はそう思いつつ、次の攻め手を考える。

 しかし、次に動いたのは鬼人の方だった。

「楽しくなってきたからな、俺も全力でいくぜ? まだ死ぬなよ? 唸る血潮。叫び揺れろ我が影。鬼術【鬼の回廊(オニウラミチ)】」

 透は飛び込んで詠唱を止めることはしなかった。妖力が鬼人自身に集まっていたため、自己強化あるいはカウンター攻撃など、こちらが接近した時に不利になるような術が繰り出されると考えたからだ。しかし、詠唱が終わって、透は驚愕することになる。

「消えた!?」

 そう、鬼人の姿が見えないのだ。倉庫の外には月が昇り始めていた。闇が若干深くなったとは言え、簡単に見失うような明るさではない。だが、鬼人の姿はかき消えるように見えなくなっていた。

 動揺を押し殺しながら、透は妖力を探る。見えなくとも、妖力の痕跡をたどれば鬼人の位置がわかるはずである。そう考えて、妖力の探知を始めようとした瞬間、右の後方に殺気を感じた。咄嗟にその場を飛び退く。

「遅い!」

 急に近くで聞こえてきた声を認識した時には、右の腕に刀傷ができていた。流れる血を抑えながら、透は急いで詠唱を始める。

「結ぶ唇。恵みをもたらし、結実せよ。陽ノ四【鷹青薬膏(オトギリノケイ)】」

「回復と止血の結界術か。なるほど。実力者なようだが、そう何度も使えるものでもないだろう?」

 鬼人のにやにやとした笑いは止む様子はない。詠唱の間に追撃してこなかったのも余裕の表れだろうか。それとも戦いを楽しみたいという狂った欲求だろうか。透は後者である気がすると思いつつも、現状に舌打ちをしたい気分でいっぱいだった。

「あんだこそ、姿を消す術なんて、簡単に使えるものでもないだろうに。何度も出せないんじゃないのか?」

 透は体勢を整えつつ言い返したが、鬼人は鼻で笑った。

「これはな、俺はあんまり使えねえが、実力ある鬼人ならみんな使うんだよ。詠唱もなしでな。ったく、期待してたが、まだまだガキだな。鬼人と戦う経験もそうそうねえなら、仕方ないかもしれないがな」

「じゃあ、勉強させてもらうとするよ」

 鬼人の言うことが本当ならば、あと何度かは同じ術を使われると考えた方がいい。とにかく詠唱をさせないことを徹底しようと透は考えた。そして、どうにかあの術を破るか使わせないうちにこの鬼人を仕留める策を必死に考え始めるのだった。


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