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魔眼と学ぶ結界術  作者: しゅしゅく
25/93

24話

25日目!

メリークリスマス!

 透が昼食を食べてマリア・ブラッドのことを将嗣や智美に報告すると、案の定朱火や上層部を駆け巡る情報になった。透は内心で、たった1日の間に、自分たちきょうだいのことで、上層部をざわつかせるのは申し訳ないと思いつつ、報告しないわけにもいかないので、ありのままに伝えていた。さらにその騒ぎの最中に、新しい情報が入ってくる。それは、朱火と透の端末にほぼ同時に飛び込んできた。

「珠姫が、誘拐された……」

 透は即座に将嗣に指示を仰ぐ。返ってきた言葉はある程度予測できたものだった。

「今は上層部が動けない。まあ、わかってると思うが……そして、護界局の人員も足りない。つまり、お前が護衛なんだから、お前がいけ」

「だよな……」

「ただし、無理はするな。人数が必要なら、いったん帰ってこい。姫様は殺されることはないだろうからな。改めて救出に行けばいい。今、お前も重要人物だからな。いいな?」

「わかった。気をつけるよ」

 そんなやりとりをしてすぐに準備をして、珠姫に返信をする。今日は戦場に向かうのがわかっているから隊服に着替えた。そして、とにかく走る。妖力を使って全開である。

 誘拐したのが鬼を含むグループなのは、珠姫のメッセージでわかっていたし、位置情報もスマホのおかげでわかっている。やつらは、なぜか人類圏で潜伏しているらしい。妖類圏で活動して、怪しまれるのを恐れたのだと思うが、スマホを没収していない所から考えるに、人間の生活に詳しいわけでもなさそうだし、頭がまわるわけでもなさそうだ。

 透はこれらの情報から、おそらくごろつきのような集団が実行したのだと推測した。恐らく黒幕は別にいるだろうが、そっちに引き渡されると救い出すのは難しくなるだろう。そう考えれば、多少無理してでも救い出しておきたい。

「義父さんには、慎重にやるように言われたけど……」

 とりあえずは現場を見てから決めようと、透はそこで思考をやめた。今ここで考えていても仕方がない。要はさっさと回収できればいいのだ。戦闘にならなければ問題ない。

 透はそう考えて、気配を消しながら、珠姫のスマホの位置情報が示している場所にたどり着く。そこは倉庫の居並ぶ場所で、人間の姿はあまり見られない。妖類の気配をいくつか感じるがまだ遠い。その中に強そうな気配がひとつあるのも感じ取った。珠姫の言った通りである。

「さて、ここからどうやって攻めるか……正面からは突破できないだろうしなあ」

 透は妖類の気配が強い倉庫の付近に身を潜める。気配は10には満たないくらいだ。制圧できなくはないだろうが、強めの気配が気になる。リスクはあまり取りたくない。

「それに、なんだ? 倉庫の奥の方によくわからない反応がある」

 妖類とも珠姫とも違う気配だ。というか、珠姫の気配は妖力が微小すぎて感じられない。耳飾りの効果だろうが珠姫だけをさらって帰るのは難しそうだ。だが、このよくわからない反応の周りに他の妖類が配置されていそうなことを考えると、それを目印にしていけばよさそうである。透はどうにか倉庫の裏手からそこに最速でたどり着くルートを探すことにした。

 そうやって倉庫の近くをうろついていると、妖類の気配と話し声が聞こえた。そちらをみやれば、姿も確認できる。大柄の、しかし、妖力はそこまで多くない鬼である。

「全く、お頭も困ったもんだぜ。姫をふたり捕らえるだけでこっちはかなり苦労したってのに」

「本当だぜ。特にあの天狗の姫は馬鹿力だったからな。5人で囲んで3人やられてやっと捕らえたんだからな」

「お前、そんなに大変な所に配置させられたのか。狐の姫はほとんど抵抗なく捕まってくれたから楽だったな」

「抵抗なく? そんなことあるのか?」

「あったんだよなあ。なんだか知らんが、後で怒られるとか何とか喚いてはいたが攻撃してきたりはなかったんだよ」

「そうなのか。俺もそっちがよかったなあ。いつ俺も蹴りに飛ばされるかってひやひやしたもんな」

 透は彼らの話を聞いて内心で頭を抱えた。珠姫が今日、誰も伴わせずに外出したのは聞いていたからそこは別に驚きではないが、抵抗しなかった所や、喚いていたところに彼女の開き直りを感じる。修行の時も言っていたのだ。「どうせさらわれても、殺されることはないと思うから早く助けにきてね」と。それで怒られるのを自覚していながらそんな行動を取るのだから、透としてはもう少しおとなしくいていてほしいものだと思うわけである。

 ただ、情報を手に入れられたことは大きい。それに、この二人が奴らの拠点から少し離れた位置に出てきたのもありがたい。透は一気に制圧してしまうことにした。

「玄武の鳴動。捕縛せよ。貫通せよ。芽吹け野バラ。陰ノ肆【刺線条(しせんじょう)(バク)】」

 透がそのように詠唱すると、鬼たちの足元にから鋭利な棘をもったツタのようなものが伸びる。茨である。その茨は、一瞬で鬼たちに襲い掛かりまずは口元を含む顔の下半分を締め付けた。驚愕しているものの、物理的に声の出ない二人の鬼は、直後に両手両足を茨に貫かれ、地面に縫い留められてしまった。恐怖に見開かれた目は、この茨を放った術者を探すが、透は姿を現さない。

「後で、逮捕しに戻ってくるから待っとけ」

 彼らに聞こえないように透はそう呟いて、さらに倉庫に近づく。倉庫の中には、まだ数名の妖類が残っている。おそらく、あの二人が鬼だったことを考えても、こいつらは鬼のグループだろう。中にいる奴らも鬼であると考えて問題ない。そうであれば、妖力による神通力や術の心配はまずない。鬼という種族は、妖力を使った身体強化は得意だが、術などはからっきしという者が多いのだ。透の経験上、肉体だけで戦闘をしようとする妖類はとても強いか、弱いかの二択である。そして、鬼は大半が弱い部類だと思っていた。彼らは数は多いが、知能は高くないために隠れることをせず、人間を襲っていたから、昔話などでもよく出てきて懲らしめられるのだ。妖力をうまく使えないために人間の英雄に倒されるし、気のいいやつも多いが頭の弱い種族だというのが透のイメージだった。

 そのイメージに違わない二人を無力化した透だが、組織だって動いていることと、よくわからない反応があったことが気がかりである。組織的に動く鬼は警戒しなければならない。なぜなら、司令塔に別の頭の切れる種族が存在している可能性があるからだ。よくわからない反応についても、頭の切れる種族の用意したものだとしたら厄介なものである。

「まあ、すべて狸が仕組んだことには変わりないんだろうが、問題は司令塔が現場にいるかどうかだ」

 透は二人の鬼が出てきた方から、倉庫の中を覗く。中は物がぎっしりと詰まっているというよりは、それなりに大きな空間が広がり、大きな荷物でも搬入や搬出ができるようになっていた。その空間の奥には、明らかに不自然な牢屋が鎮座していた。それなりに大きいのと、手前に荷物や機材が置いてある関係で中まで見通すことはできない。だが、鬼たちの話しているのが本当ならば、天狗の姫と珠姫がそこにいるはずである。問題はあの奥まったところに、いかに見つからずに行くかだ。

「内部の様子は大体わかった。この倉庫の持ち主には申し訳ないけど、壁か窓か、どっちか壊して入ることになるだろうな……」

 この倉庫には、2階はなかったが、高所作業用か、あまり頑丈ではないつくりの足場は備え付けられていた。その足場の位置に、窓がついているので、そこから侵入することは可能だろうと考えた訳である。また、倉庫の入り口は今透が覗いている場所ひとつに見えるため、ここから入ったら間違いなくバレる。今だって少し顔を出して確認するくらいしかできなかった。それを考えれば多少強引ではあるが、牢の近くの壁を破壊して入った方が安全に任務をこなせるのではないかと考えたのだ。

 透は、周囲の他の倉庫の高度を確認して、窓から入るのはリスキーだと考えた。脱出の際に足場に出来そうな地点がなく、珠姫ひとりならともかく、2人連れて逃げるのは大変そうだったからだ。そこで、倉庫の裏手に回る。

 倉庫自体はあまり丈夫な素材を使っていないようだ。壁を破壊するのは難しくないだろう。だとすれば、気づかれてから迅速に行動できるかが鍵になってくる。

 倉庫の裏手は特に警備の鬼が立っていることもなかった。ただし、倉庫街の奥まった場所ということで通路は狭く、一本道だ。身を隠して逃げるのは少し面倒に思える。

「少し罠を仕掛けておくか……」

 透はそうして罠を仕掛けつつ、救出作戦決行のために静かに動き出した。


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