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魔眼と学ぶ結界術  作者: しゅしゅく
14/93

13話

14日目!

「なるほど。わかりました」

 透はそう返事をしつつ、逃れられない運命に仕方なく心を切り替えることにした。仕事モードだと割り切って、朱火のその後の説明も聞く。

 どうやら、修行の期間も大学には行くことになっているようで、寝泊まりするところが妖類圏に変わるだけだそうだ。透の一人暮らしは結局、一日で中断されたことになる。ふたりとも明日の講義は午後からだということで、今日は解散し、明日の朝に養成学校で集合する運びとなった。

「では、今日はこれで。明日から、ふたりとも頑張ってね」

 母の一言でその場は解散となった。

 珠姫は朱火と透がいなくなってから、母と向かいあっていた。リビングの机で母と向かい合うなんて久しぶりだ。実家はそこまで離れていなかったものの、通学などの都合を考えて一人暮らしを始めて一年半以上が経過していた。今年は夏に実家に帰ったときも、ゆっくりはできなかったから、高校生の時はそれなりにあったこの距離感が、なんだか懐かしくて、恥ずかしい。

「さて、こうして話をするのも久しぶりね」

「そう、だね。リビングがそのままうちのと一緒だけど、ここ、妖類圏なんだよね?」

「そう。妖類圏とか、人類圏とか、その辺のこともきっとちゃんと説明されてないんでしょ? 一から説明しなくちゃね」

「簡単な説明は初めの日に受けたけどね。でも、結局、あの日の記憶もあいまいだし、教えてくれると嬉しいな。あと、お母さんのこともね」

「そう、そうね。ちゃんと教えるわ」

 白天は穏やかな顔をして笑った。白天様と呼ばれるときの顔よりも、知っている母の顔だと珠姫は思った。

「まず、そうね、あの日の話をしましょうか。あなたが呪いを受けたあの日。あなたの誕生日の日だったわね。場所があなたの大学の帰り道だったから事前に察知することができなくて、守れなかった。ちゃんとお祝いもできなかった。本当にごめんなさい」

「い、いや、いいんだよ。まあ、うん、変なことになったなあとは思うけど、まだ、元気だし」

「代わりに透くんが結構傷ついちゃったけどね」

「それは本当に感謝してる、けど」

「なに? 恥ずかしい? 彼に惚れちゃった?」

「もう! そんなんじゃない! お母さん、いっつもこういうことに首突っ込みたがるのやめてよ」

「えー、だって気になるじゃない。かわいい娘が、誰と付き合うのかとか、どんな恋してるのかとか」

 珠姫は思う。自分の母はあまりにも若々しすぎる。しかも、変なところに敏感だ。噂話とか大好きだし。珠姫はこの母が本当に人ならざる者たちの頂点に君臨する人なのかと疑いたくなってきた。

「その話はいいから、早く教えてよ。というか、お母さん本当に狐の妖怪なの?」

「そうよー。耳、尻尾、あるでしょう? 万能ではないけどたいていのことはできてしまうほどにすごいんだから」

「本当? 説明も途中にして、私のことからかうくせに」

「ひどいわねー。でも、そうね。とにかく、あの日、あなたは襲われた。結構大きな妖力だったから、多分、さっきと同じ、銀三郎という狸でしょうね。そして、おそらく今回と同じように連れ去ろうとした奴は、あなたに神通力を使った。その時、あなたの中に眠っていた妖類の血が目覚めて、多分、暴走した」

「多分? 暴走?」

 珠姫は母が疑問形で話をしていることを不思議に思って、聞き返してみた。暴走という物騒な単語もなんとなく怖かったからだ。

「あのね、暴走っていうのは、未熟な妖類がその身に合わない妖力を蓄えちゃったときに身体から妖力があふれちゃう現象のこと。蓄えた妖力が大きければ大きいほど、周りに与える影響が大きくて、で、多分、あなたはめちゃくちゃ強い暴走を引き起こしちゃったのね」

「その、多分っていうのはなんで多分なの?」

「多分としか言えないのよ。私はちゃんと見てないから。私が感じたのは、あなたの妖力だろうなって妖力が膨れ上がったこと、そして、それを覆うように別の妖力が膨れ上がったことよ。まあ、おかげであなたに危険が迫っていることに気づけたわけなんだけど」

「なるほど」

 珠姫は一人納得した。多分という表現は、本当に推測するしかなかったから多分ということだったのだ。だとすれば……。

「じゃあ、私のあの時の記憶があいまいなのはどうして?」

「それは多分、呪いをかけられたからね。あなたの暴走を止めるために、まあ、おそらくは自分が傷つかないようにするために。妖力の暴走っていうのは、人間の感覚でいうと、見えない爆発が起きているみたいなものなのよ。なにか他のもので覆わないと、強烈な衝撃が襲ってくる。これはね、たとえ格の高い妖類でも結構な傷を負ってしまうのよ。なにせ、暴走している本人は、意識もなく、自分の身体が壊れる勢いで妖力を放出しているんだから」

「ということは、あいつはもともと私に呪いをかけるつもりはなかったってことね。しかも、私の身体が壊れないようにする必要もあったから仕方なくって感じなのかしら? 呪いとの関係はわからなかったけど」

 珠姫の印象では、銀三郎という狸は驚くほど強かったように感じた。それに、珠姫とのつながりという意味で呪いをほのめかしてきた。ということは最初からそれが狙いだったのかもしれないと考えてもいいだろう。でも、母の推測を聞く限りではそうではない。母の推測が正しいと考えると、銀三郎がしたかったのは、珠姫の身柄の確保。同時に、自分の身の安全確保になる。

 ただ、呪いのことはよくわからない。呪いによって何が自分の身に起きたのかも。だから、ここは母の説明を聞くしかない。

「そうね。呪いというのは、強い妖力を流し込むことで、自分の力を相手に常に伝えられるようになる行為? と言えばいいのかしらね。常に相手を害し続けるために、多大な妖力を要求されるのだけど、一度かけてしまえば、あとは見えないつながりのようなものができて、そこから常に妖力を供給することができるの。ただね、どちらにしろ、相手との力の差が大きい必要があるから、普通は格が高くても簡単にはかけられないのだけど、あなたは妖力の扱い方を知らなかったし、暴走している最中だったから体内には余分な妖力が混じっていなかったんでしょうね。成功しちゃったみたい」

「みたいって……まあ、過ぎたことはいいとして、問題はそのせいで私がどうなったかってこと。今は特に変化を感じてないんだけど」

「ああ、それはね。耳に着けてあげたお守りの力と、私の祝福がもともとあなたにはあるから平気なだけよ」

「お守り?」

 そう言って、珠姫は自身の狐耳を触ってみる。ふさふさとした毛の感触に覆われた中に、冷たい金属なようなものが触れる。透の話していたアクセサリーだろう。自分で鏡を見たときも、狐耳用のアクセサリーのように見えた。狐耳に穴をあけた記憶はないから、イヤリングだと思っていたけれど、どうやらピアスのように貫通している。ただ、全く痛みは感じない。

「そう、お守り。それは、あなたの中の妖力に関する働きを全部抑制するもの。それをつけている限りあなたは、本当に普通の人間と変わらない力しかもたない人になるわけ」

「私は、それでいいと思ってた」

「私もよ。元々、あなたをこっちの事情に巻き込みたくなかった。だから、何も教えずに育ててきたのに。まあ、そんなこと言ってもしょうがないからね。一回開放されてしまった妖力は簡単には戻ってくれないし」

「まあ、多分そんな事情があるんだと思った。でもじゃあ、なんで今はまだ着けてるの? 確か一回壊されてなくなったと思ったんだけど」

 珠姫は、あの、銀三郎との戦いの最後、狐耳に痛みが走ったのを覚えていた。同時に何かが壊れたのも感じた。だから、このアクセサリーもなくなったものだと思っていたのだ。

「そうなんだけどね。これがないと、珠姫が絶対苦しいから」

「苦しい?」

「感じなかった? このアクセサリーが壊れたときに全身に痛みが走ったか、何か異変があったと思うのよ」

「あの時、耳が痛くて、それが全身に回っているのかと思っていたんだけど、違うの?」

 珠姫はあの時の痛みを思い出す。言われてみれば、確かに耳から発せられるというよりは全身をのたうつような痛みだった。まさかそれが……。

「それが、呪いよ。全身にめぐる妖力を伝って痛みが伝染する。その痛みの(みなもと)とか効果とかは、呪いの質だったり、かける側の妖類の特性によったりするけれど、今回は話を聞く限り、一番弱くてオーソドックスな呪いのようね。痛みが走るだけで死には至らないタイプのもの」

「う、本当に嫌がらせみたいな……でも、かなり痛かった気がするんだけど」

「妖力は人間でいう血液みたいなものだからね。もちろん、妖類も血液がある種族が大半だから、そういう種族は血液が二種類って感じになるのかしらね」

「いや、お母さん、どうでもいいでしょ、そこ」

「ともかく、体内に流れているものが直接痛むのだからしんどいのは当り前よ」

 母のボケっぷりというか、マイペースっぷりにはたまにため息をつきたくなるけれど、段々とわかってきた。要は、私はこのアクセサリーを外したら身体が確実に悲鳴を上げることになる。でも、妖類と関わって生きるからには、お守りはいつかはずさなければならないということだ。

「でも、お母さん、じゃあ、なんで同じく呪いを受けているはずの透は普通に生きてられるわけ? あいつは身体が痛んでる様子なかったけど」

「それは、彼が妖力の扱い方を心得ているからよ」

「扱い方?」

「そう。結局、妖力を介して呪いは発動するから、相手とのつながりを切るまでに至らなくても、妖力をコントロールすることがうまくなれば、呪いの効果を減らすことはできるのよ」

「だから、私は修行が必要ってことね」

「そう。さすが、私の娘、賢い」

 語尾にハートマークが見えるような言い方をした白天は、優しく珠姫の頭をなでる。珠姫はなでられながら、この母は昔からかわいらしくて、それが似合うなあと、若干母をうらやむ思いを抱いた。

「賢い人はね、世の中の物事を“そういうもの”としてありのまま受け入れるのが得意なの。そこから何を思うのかは自由だけどね、一度受け入れるのが得意なの。珠姫、あなたも昔からそうだったね」

「何事もまず受け入れてから、よくよく眺めなさいって教えたのは、お母さんとお父さんでしょ?」

「そうね。じゃあ、私の話をちゃんとしましょうか」

 そう言うと白天は、指を鳴らした。すると、その場にサッと現れた女中が、コーヒーを二人分マグカップに入れて持ってくる。珠姫は、ここにいるときの母の振る舞いに慣れてきたのか、さほど動揺せずにそれを受け取った。

「さ、ソファに行きましょう。長くなるから」

 珠姫は、母の促すままにリビングにある三人掛けのソファに座った。サイドテーブルにコーヒーを置く。この場所は、テーブルで向き合うよりも珠姫と母が長い時間を語らった場所だった。


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