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魔眼と学ぶ結界術  作者: しゅしゅく
11/93

10話

11日目!

予約投稿忘れない!

 透の意識は、ゆっくりと覚醒した。まだはっきりとしない意識の中でも、全身に痛みを感じる。アドレナリンが無くなった影響か、戦っていたときよりも痛みがひどいように思った。だが、透はなによりもこの痛みを感じることが生きていることの証左であると感じていた。

「護衛としては失格かもしれねえな」

 ひとりでつぶやいた透は、銀三郎との戦いを振り返って、自分の力不足を実感する。

「最後はきっと義父さんがきたんだろう。あれを追い払えるほどに強いんだからやっぱり敵わねえよ」

 透にとって、師である義父は、未だ越えられぬ大きな壁だった。それなりに実力はついてきたが、透には足りない部分が多すぎた。それを埋めるために手っ取り早いのは、おそらく魔眼の力を使いこなすだけなのだろうが、透にはいまだにできない。

「呪いの妖力をせっかく押さえつけてるのに、蛇口をうまく絞るなんてできるわけないだろうが」

「できるようにならねえとダメなんだよ、バカ野郎」

 透の頭上から聞こえたのは、義父の声だった。透が驚いて、首を回そうとすると、頭と体を優しく押さえられながらさらに言葉をかけられる。

「急に動いたら、傷が開く。さすがに、今回は無理したみたいだな。すまん」

 義父には珍しく、透に謝っているようだった。透は逆に驚いて聞き返す。

「いや、今回は俺の実力が足りなかったのが悪いだろ。どうにか守り切ったからいいものの、正直、やばかった。護衛を任されているのに、守り切れないのは俺が悪い。俺だけで守れないなら、準備ができてなかった俺が悪い。他の人に頼んでなかった俺が悪いんだよ。道具とかなにか別の物を用意しておかないと……」

「お前……」

 将嗣は、透の様子に動揺していた。自分の元に来た小さい頃から、責任感の強い子どもだと思っていた。妹を死ぬ気で守る覚悟が初めからあったのも驚きだったが、小さい頃から、妖類と戦うことあるいは妖類に勝つことを目指していたのも恐ろしかった。だから、ストレスの発散にもなるだろうと、早いうちから戦う方法を教えた。そうでなければ無茶をしそうだったからだ。結果として、不器用だが、仕事にストイックな男に育った。それはいいと思っていた。だが、思っている以上に、透は何かを思い詰めているのかもしれない。

「よし、まあ、それだけ色々考えられるなら、これからの護衛も頑張れ。その前に絞られるだろうが」

 将嗣は透の後押しになることを確信して、こんなことを言ってみた。

 透は不思議そうに反応する。

「え? 俺はこれで解任じゃないのか?」

「いいや、解任じゃないぞ。ただ、白天様から話があるらしい。コネができたんじゃないか? よかったな」

「いや、めちゃくちゃ怖いんだが? 義父さんは呼ばれてないのかよ」

「ああ、朱火様に若干話をされたくらいだ」

「ってことは、個人的な話か。一族郎党打首獄門じゃなくてよかった」

「おいおい、お前、自分が怒られるかもしれねえっていうのはいいのかよ」

 将嗣は苦笑いしながら聞く。

「別に。俺は、まだ子どもみたいなもんだからな」

「ぶは、はっはっは。そうか、確かにまだ子どもだ。白天様からしたら俺だって子どもだからな。気にするだけ無駄だったな」

 将嗣は吹っ切れたように笑った。どうやら、義理の息子は変に打たれ強いらしい。もしかすると、自分の心配もよそに、この一件で大きく成長していくのかもしれない。元々、護界局に入ってからは、やりたいようにやらせるつもりだったし、そうしてきた。だが、義理とはいえ、親心は複雑なものだ。

 透がゆっくりと立ち上がり、寝ていた部屋から出ていこうとしている。将嗣はそこへ声をかけた。

「おい、透」

「ん?」

 透は、振り返って将嗣を見る。透に合わせて腰を下ろしていた将嗣が立ち上がりながら言った。

「ちゃんと、俺や母さんを頼れよ? あと、今週末、千晶が起きる日だからちゃんと帰ってこい」

 透は何を今更とおもいつつ言った。

「ちゃんと頼ってるつもりだよ。あのネックレス、緊急連絡機能までちゃんと使ったんだから。義父さんが来てくれないと死んでたと思うよ。それに、千晶のことは忘れるはずないからな」

「そうか」

 満足げに笑った後、将嗣はにやりと悪い表情をつくって言った。

「ただな、お前を助けたの、俺じゃねえんだよ、すまんな」

「え? じゃあ誰が」

 動揺して目を泳がせる透に、知らない女性の声がかかる。

「日下部透様、主様がお呼びです。奥の間にお越しください」

「え、奥の間? え? ここは?」

 透が困惑していると、女性が答える。

「ここは、白天様のお社です。奥の間で白天様がお待ちです」

 その女性は、狐面に狐耳をつけた妖類だった。そして、その装束は九尾の狐、妖類の頂点の一角である白天様の従者の方の特徴だ。

 ここで、透は自分を助けてくれたのが白天様であることを悟る。そして、義父が来たと思い、自分が放った言葉を思い出す。そして、青ざめた顔で将嗣の方を振り向きながら言った。

「義父さん、やばいかも。助けてくんない?」

「大丈夫だ、行ってこい」

 義父は笑って言った。どうやら助けてくれる気持ちはないようだ。

「どうぞ、こちらに」

 従者の案内を無視するわけにはいかない。透は不敬罪のようなもので最悪殺されるかもしれないという恐怖を抱えながら、びくびくと着いていった。

 白天様のお社は、便宜上“護国会議”の本拠地である。実際に“護国会議”に所属している幹部は、それぞれの仕事場を根城にしているので、このお社は半ば白天様のプライベートな空間となっている。基本的には透のような下っ端は入ることができない場所である。ゆえに、そこを歩いているというだけで透には緊張があった。

 お社のなかは、歴史的な日本の建築方法が混じったような構造をしていた。平安貴族の屋敷風の場所があるかと思えば、武家屋敷の廊下のような板張りも存在している。なんというか不思議な空間であった。だからかもしれない。いっても近代までの造りだろうと考えていた屋内に、急に洋室の扉が現れても透にはそこまでの驚きはなかった。

 先導していた従者の女性が、その扉をノックする。

「失礼いたします。日下部透様をお連れしました」

「入りなさい」

 奥から凛とした声が聞こえた。

 従者の女性は、なめらかな動きで扉を開けて、中に入るように透を促した。透はそれに従って、そろりと部屋の中に入る。

 入った先は、普通のリビングルームだった。家族全員が座れるテーブルがあり、その上には個包装のお菓子の山と、ティーセットが置いてある。椅子には、珠姫と、白い狐耳を生やし、九本の尾をもった女性の姿があった。白天様である。

「よくいらっしゃいました。どうぞ、おかけになって」

 彼女からの言葉で、透はがちがちになりながらも、空いている席に腰を下ろした。

「は、はい」

 彼女の纏う妖力は少ない。だが、とてつもなく濃密な妖力を彼女が纏っているのを、透は感じ取っていた。無意識に、彼女の存在に畏れを抱く。

「さて、あなたには、今回の件でいくつか聞きたいことがあるので、お呼びしました。よろしいですか?」

「はい」

 否と言えるわけもない。透にとっては、地獄のような時間が始まったのであった。


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