■■ローグ
――・■■ローグ・――
「「――――」」
画面の向こうでは、激闘を終えた両名を称える歓声が上がっていた。
トロフィーを掲げているのは顔馴染み、俺に格ゲーをやめるきっかけを与えたWINという選手だった。
不思議な心地だった。なぜか誇らしかったり、何かわからないが納得していたり、そこに自分がいないことの違和感も……少しだけ。
感慨にふけっていると、IVOの様子を映した配信は次のパートに移行していた。
ひとしきり盛り上がった観客が、打って変わって静かにモニターを見守っている。
それから間もなく、動画が始まった。
真っ黒な背景にメーカーのロゴが映し出される。続いて小気味いい爽やかな音とともに、彼女は登場した。
白く長い髪をなびかせ、光を自在に操る碧眼の少女。
俺がルネを初めて見たのは、IVOの終わりを飾る大々的なPVだった。
『』
『こうしてキミと話すのは初めてになるね』
声がした。
『今日は1つ聞きたくて来たんだ。キミも熱心にやっていたろう?』
紫の……炎。像はぼやけていてよくわからない。
『ねえ、正直さ、次どっちの世界で目覚めたいの?』
わからないなりに、ケタケタといやらしく笑っていることだけはわかった。
『だんまり? キミそういうところあるよね。でもボクは彼女ほど甘くないよ。このままだと、取りうる限り最悪の道をキミに差し出すことになる。無回答ほどつまらないものはないからね。もっと面白くなるように、料理しないとならない』
「あんた、なんなんだ?」
モザイクを上から紫の炎で塗りつぶしたような……いや、モザイクが炎を纏っているのか。いずれにせよ掴みどころのない何かだった。
『そうだなぁ……神、とでも名乗っておくよ。なんで今になって、とか思ってる? 神様は最初に出るべきだって文句なら……ほら、ボク規格外だからさ。邪神っていうか、ただの神と同じじゃないんだな~これが』
俺はどうしてここに……こんなやつと。
『キミが馬鹿みたいに『未練』を使うから、こういう機会ができたのさ』
どういう因果だよ。
『さあ、そろそろ選んでよ。君が目覚めたい世界はどちらなのか。わかっていないようだから言うけど、これは君にとってこの上ないチャンスなんだ。ボクは知っているよ。君がどれほど帰還を願っていたのか。どうやって折り合いをつけたのか。もちろん、こっちの世界も悪くないって思い始めたのもね。だから聞きたいんだ。今の君の答えを。どちらを選ぶんだい? 魔法かゲームか。シアか蓮か。学院かゲームコミュニティか。こう言ってもいい、かつての22年間か直近の2ヶ月か。さて、本当の君は一体どれなのかな?」
邪神は回答を迫る。姿は判然としなくとも、それが愉悦していることは歴然だった。
どうして今になって――
『言ったろう? ボクは邪神だって。今こそが絶好の機会だからだよ』
思考を遮って邪神は言う。
二択。
『愛斗』
『マナトくん』
蓮とシア。
『しゃきっとしなよ! 愛斗っ』
蓮には救われてばかりだった。恩返しもしたいし、言いたいことが山ほどある。
『つらいんだ。昔を、届かない何もかもを思い出して、俺の中には失ったものしかないから……』
あのとき一度、俺は自分の人生を諦めた。もう死んでもいい、むしろ生き地獄になるくらいなら死なせてくれとさえ思った。
自分が唯一できることを取り上げられ、何もなくなった者の末路だった。
本当ならあそこで終わっていた。彼女がいなければ、そのまま。
……だから、この生は俺だけのものじゃない。……もし、彼女が求めるのなら、求めてくれるのなら、俺はこの生命を彼女に費やすのもやぶさかではない。
――どうせ戻っても費やす先は大差ないしな……。
俺は……
「今の俺があるのは、シアのおかげだ。彼女がいなければ俺は死んでいた。……いや、現に木羽愛斗は死んだ。今の俺はただのマナトでしかない。だから――」
それを聞いて邪神は、ニヤリと笑った。
――これは、読み合いだ。




