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遠くの空

 ――・遠くの空・――


「少し見ない間に見違えたな」

「あんたに言われると普通に自信になりますよ。俺が箸にも棒にもかからなければ、助け舟なんて絶対出さなかったでしょうし」

「フッ、協力者への印象とは思えない言葉だな」

 闘技場を後にした俺は、クロヴィエに車椅子を押され帰路に着いていた。

 徹夜の突貫工事で臨んだ編入試験。今日はもう休むぐらいしかできることがない。

「「「…………」」」

 気を抜いていると、いつの間にか凄まじい状況になっていた。

 南門をくぐり特区を出たところで、あろうことか俺たちはシアと鉢合わせたのである。

 誰にとっても意外な展開に、必然と沈黙が生まれていた。

「あの、言いそびれてましたけど、助けてもらったみたいでありがとうございます」

 口火を切ったのはシアだった。

「……俺が助けたわけじゃない。助ける判断も、仲間がしたことだ」

「でも日頃から慕われてなければ、マナトくんがあなたの命の恩人として手厚く迎えられることもなかった」

「…………」

「とりあえず、お礼は言っておきたかったんです。それじゃ」

 居心地が悪くなったのか、シアは一方的にそう言って話を終わらせていた。

「なんとも、毒気を抜かれるな……」

 シアの背中にボソリとそうこぼすクロヴィエを、俺は見逃さなかった。

「じゃあ俺も行くんで。今日はフォローありがとうございました」


 それから1月に及ぶ修行が始まった。


「レンカにやられて課題が明確になった。まずは機動力だけど――」

「じゃあ頼むよ。俺のひょろひょろな足よりよっぽど頼りになるもの、期待してるぜ」


「決定力にも欠けたよな……攻撃を磨くとなると――」

「この前見せてくれた魔法の形態変化、俺に教えて下さい」


「暇なときでいいんだけど、回復させに来てくれないか? これから体力の限界まで詰め込むつもりだからさ。頼むよ――」

「イレギュラーにも対応できる柔軟性がほしいよな。安定行動の手札も増やしておきたいし……数こなさないことには始まらないか――」

「俺の練習相手になってくれ。実戦形式の経験がほしい」


 こうして俺は濃密な1ヶ月過ごし、あらん限りの手札を揃えるのだった。


「ついに明日だね」

 噴水に落ちる2つの影。空はいつかのように、夕焼けに染まっていた。

「やれることはやった。あとは勝つだけだ」

「気負ってる?」

「多少はな。でもいい緊張感だ」

「ふふっ、それはよかった」

 ここでシアと言い争いをしたあのときから、随分と遠くに来た気がする。

 不思議と寂しさのようなものはない。むしろ今は少しだけ、失ったものたちに近づけた感覚すらある。それもこれも……

「シアのおかげだよ」

「え?」

「ここまでやってこれたのは、君の支えがあったからだ。ありがとう」

「…………泣くけど?」

 あえて彼女に視線を向けることはせず、俺は静かに笑った。

「声、震えてるぞ」

「もうっ、そういうことは言わなくてもいいじゃん!」


 俺は決戦の日を迎える。




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