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――・22・――
「なんだって?」
軍事科の空気はこの日もピリついていた。……否、俺がそうさせていた。
「だから、俺にレンカと模擬戦をさせてください」
「…………」
昨日の今日でこの変わりよう。レゼット教官が言葉に詰まるのも無理はない。
「いいですよ、教官。受けて立ちます」
沈黙を破ったのは、俺に指名されたレンカ本人だった。
「ヒューリーが相手のときと随分態度が違うんだな」
「やっぱり君、僕のこと見下してるでしょ。指名してくる時点でわかってたけどさ」
彼は髪に隠れていないほうの目でこちらを睨みつけ、やれやれといった風な態度を取る。
「見下してるのはお互い様だろ? やろうぜ、格付け」
3人指名の勝ち越し条件、1人目との模擬戦がここに始まった――。
一夜漬けではあるが、レンカの対策は講じてきた。
キーとなるのはヒューリーをも勝る光線の存在。あれをどう対処し、決め手となる一撃を浴びせるか――その一点に照準を合わせることこそが、俺にとって唯一の勝ち筋だった。
――狙い目は開幕直後、レンカが放つであろう大出力の光線。…………来たっ。
コマンド――『全展開』。
3つの光球が俺の前に現れ、光線を遮る盾となる。間もなくして魔法同士が衝突、大きな爆風が巻き起こった。
コマンド――『怒気』。
舞い上がった砂煙をかき分け、新たな光球が突き進む。
視界が悪化する前に位置は把握していた。光線の直後動けないレンカに、これを避けることはでき――
「ぐっ」
顔に生じた衝撃が思考を遮る。
気づくと俺は、なすすべもなく地面に投げ出されていた。
「降参してくれる?」
すかさずやってきたレンカに馬乗りにされ、至近距離で手をかざされる。
下手な動きをすれば、その高火力の魔法で俺の顔面は焼かれるだろう。
「……参った。俺の負けだ」
「それだけ?」
「侮って悪かったよ、あんたは強い」
『いつもこのパターンなんだよな』
――どこがだよ。ったくシュミットのやつ適当言いやがって。
あの瞬間、俺は的確に隙を突いたはずだった。いくら付け焼き刃といえど、その精度には自信がある。光線の対処とそこだけは準備してきたのだ。
「あんた隠してたろ? どうしてヒューリー相手に負け続けてる」
「今度は上に見すぎだよ。それに君とヒューリーの攻撃が同等なわけないだろ。思い上がりすぎだ」
「いや、本当にあんたがワンパターンなら俺が勝ってた」
「その揶揄か。……ここだけの話」
吐き捨てるように言った後、声を潜めてレンカは続ける。
「変化はしてるんだよ。結果こそ同じだけど、内容は着実に。君の攻撃を咄嗟に避けれたのだって、そのおかげさ」
こいつを落ちこぼれと評するのは間違ってる――前髪の先にギラギラした本性を垣間見て、俺はそう確信した。
「よく気づいたね。いや、勘付いたのほうが正確かな。まあ残り頑張りなよ」
最後にそれだけ言い残して、レンカは立ち去っていった。
「…………」
甘く見ていた自覚はなかった。実際、ヒューリーとの戦いで見せた光線は警戒していたし、その対策も講じていた。会得から1日足らずならうまくやったほうだろう。
しかし足りなかった。練度も経験も咄嗟の判断も、それらを獲得する時間も何もかもだ。
拳を握りしめ、俺は敗北を噛みしめる。
この感覚――もっと上り詰めたいという衝動に満たされる感じ、久しぶりだ。
「教官、次の模擬戦まで猶予――1月ほどほしいです」
数少ない手の内を明かした上での敗北。残り2人を模擬戦の相手に指名したところで、勝てる見込みはほぼない。だから俺には時間が必要だった。
「そんな特例、認めるわけ――」
「俺が認めよう」
低いトーンの声がレゼット教官の言葉を遮る。声のしたほうへ視線を向けると、そこには頭髪から身にまとう衣服、靴に至るまで全身黒ずくめの男が立っていた。
「悪いがお前が口を挟めることじゃねえんだ、クロヴィエ。いくらセントラルでもな」
「俺は彼を2週間ほど拘束していた。それを無視するのは不公平というものだろう。それに彼の戦いぶりには可能性を感じられた。その芽を摘む行為は、編入試験の原則に反するように思うが、どうだろう――」




