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――・21・――
自然な動作で接近し、俺の腕を自分の肩に回させると、彼女はもう片方の手で俺の腰を持ち上げていた。
「思ったより軽いね。これなら全然楽勝」
腹部側面に当たるやわらかい感触。それを意識的に振り払い、俺は口を開く。
「あの、話は?」
「まあまあ。それより先にすることがあるでしょ」
彼女はそう言って俺を車椅子に座らせると、先ほどと同様、杖をあてがって治療を開始した。派手に木々に突っ込み傷だらけだった身体が、見る見るうちに癒えていく。
「わたしはアーリア・カーテフ。そっちは?」
「マナト。軍事科で仮編入生をやってる」
「へえ、軍事科。わたしは普通科で治療系の魔法を専門にしてる。ま、見ての通りだね」
タイミングよく治療が完了し、患部を包む黄緑色の光が消えた。……心なしか、疲労も取れた気がする。
「普通科って、あの誰もいないところだよな?」
「ん、それってどういう?」
首をかしげる動作に伴い、クリーム色の前髪がサラサラとこぼれるように揺れ動く。
「仮編入先を決めるとき、講堂ってところに顔を出したんだ。でも無駄足に終わった」
「あー講堂かぁ。たしかにあそこは人いないね。わたしたち特区の外で実習が多いから、あんまり使わないんだよ、あの場所」
「なるほど、そういうわけだったのか」
「こうしてきみと会えたのも、そのおかげだったり?」
大きな瞳にじっと顔を覗き込まれ、俺は咄嗟の反応に困らされる。
「はっはっは、なーんて。それじゃ本題いこっか。何が聞きたいの?」
いたずらっぽく舌を出して笑うアーリアに、俺も精一杯の作り笑いを披露した。
「それじゃあ質問攻めみたいになるけど、気を悪くしないでくれよ」
「な、なんでちょっと怖い風なのよ……わたし悪いことしてないけど!?」
有無を言わさず、俺は強引に質問を開始するのだった。
アーリアから聞き出せた情報をまとめると、次のようになった。
まず彼女の杖に限らず、魔法を行使する際に用いられる道具全般を媒介と言うらしい。アーリアのように、この杖がなければ全く魔法を使えないという例は極端だが、身近なものでは身体強化も、身体を媒介にした魔法と言えるのだそうだ。
媒介の多くはその人専用の道具となる。アーリアの杖も例に漏れず、他の人にとってはただの大きな棒でしかない。これがあれば誰でも魔法が使える便利アイテム、なんて都合のいい代物ではないらしい。
では彼女がいかにして杖と出会い、それを媒介として用いるようになったかだが……話は単純で、アーリアの家に代々杖が伝わっていたのだという。彼女のおばあちゃんが先代の持ち主で、幼い頃から時間をともにすることも多かったアーリアは、魔法と言えば杖のイメージだったそうだ。
「俺も全く魔法を使えないし、自分用の杖を作るって話になってくるのか?」
「いや、それは難しい……というか、無理だと思う。わたしも予備になる杖がほしくて街を探したんだけど、杖を作れる人はもういないみたいで」
「そうか……たしかに、アーリアの杖はほとんど出どころ不明みたいなものだしな」
「別に杖だけが媒介じゃないし、何か探してみるといいんじゃない? 今のところ心あたりあったりする? 自分にゆかりのあるものとか、日頃触り慣れてるものとか」
「そうだな……」
アーリアの杖に対する思い入れはつまり、心情的な結びつきがあるということだろうか。
となると、幼少期から慣れ親しんでいたというエピソードは、物理的な結びつきと捉えることもできる。
――俺にとってのそういうもの……。
自分なりに情報を噛み砕いてから、俺は脳内を探った。
「――アケコン」




