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執着

 ――・執着・――


 考える材料はある。捉え方次第でいくらでも思考を巡らせることはできる。

 でも結果が伴わない。どんなに仮説を立てたとしても、いざ実践で試してみるとまるで進歩を感じられない。

 今自分がしていることは正しいのか、ちゃんと進展しているのか、成長を感じられない時間が続くほど、俺を追い込む懸念が増えていく。

 目に見える結果がでないことによって生まれる焦り、刻一刻と迫りくる期限。こんなにも息苦しい環境に、俺を繋ぎ止めているのはただ1つ――

 強さへの執着に、他ならなかった。


 これは魔法会得の手がかりになるだろうか……いや、そうでもない。後にしよう。

 会得に繋がらない些事に、今は構っている場合ではない。考慮すべきでないことは事前に排除し、脳のリソース全てでもって問題にあたる必要がある。

 ……これも、今は触ってる場合じゃない。


「あれ、そういえば最近アケコン? 触らなくなったよね」

 ある日の晩、シアが気づいたようにそう言った。

 セントラルにいた時期は例外だが、サンドリアにいるうちは毎晩アケコンに触れるのが日課だった。理由は色々あるが、何よりそうしていることで落ち着けたというのが大きい。

 ……だけど。

「触ってても、魔法が使えるようになるわけじゃないから」

 抑揚のない押し殺したような声で俺は告げる。

「でも、まだ大事なものなんだよね?」

「当たり前だ」

「だったらそれ用の時間取ってもいいと思うけどなぁ。息抜きにもなるでしょ?」

「悪いとは言ってないさ」

「それなら――」

「今はそれすら足踏みしてるようで、我慢ならないんだよ」

 安らぎの行為が、いつしか焦燥感を募らせるものに変わっていた。だからやめた。それだけのことだった。

「……なにがマナトくんをそこまで動かすの?」

 静かに、けれどまっすぐにシアは俺を見つめる。……その眼差しの前では、包み隠すのも無理だと悟った。

「俺が弱かったから、シアはあそこまで傷ついた」

 苦虫を噛み潰したように声を振り絞る。

 言うかどうか迷った。いや、言わないつもりだった。彼女の目を見つめてしまうまでは。

「そんなことない。あれは私が――」

「俺を庇って刺されたじゃんかっ」

「…………」

 強さへの執着、その根底にある感情が溢れ出す。

「シアとクロヴィエの単純な勝負なら、ああはなってなかった」

「ううん。マナトくんがいなかったら、多分私は負けてたよ? 最初に意識が飛びそうになったタイミングで、耐えられなかったと思う」

「…………それでも、俺は自分の弱さを呪ったよ」

 全てかなぐり捨ててでも強くなりたい――その想いは、あのとき芽生えたものに違いなかった。


「マナトくんおはよう。あのさ、私なりに協力できないかと思って、これ作ってみたの」

 翌朝、部屋を訪ねてきたシアがその手に持っていたのは、いつか見たペンダントに似た結晶だった。

「魔法の判定機。魔力を集めてぶつけると、割れたり溶けたりするの」

「すごいな。でもちゃんと寝れたのか?」

「私の心配が第二声……ふふっ、大丈夫だって。私を誰だと思ってるの?」

「ああ、そうだったな」

 理想が先んじて、いつしか彼女を守る対象とばかり見ていた。やっぱり俺は少し、気負いすぎていたのかもしれない。

「ありがとう。結局俺の後押しをしてくれて」

「気に障らなかったならよかった。がんばってね、応援してるから」

 眩しいほどの笑顔に鼓舞されて、俺の表情は少しだけ引きつってしまったかもしれない。

「この話の流れでなんだけど……今日さ、一緒に……出かけないか? そう、息抜きに」

「え!? いいのっ! いくよもちろんいく! ちょっと待ってて、すぐ支度するから」

 足早に部屋を出ていく彼女の姿を視界に収めながら、俺はふぅと胸をなでおろした。

 強さを追い求めるあまり、シアとの時間すらも犠牲にしてしまっていた。

 俺が守りたいのは彼女なのに元も子もない。

 そんなことすら気づけないほど狭くなっていた視野を自覚し、俺は自分にリフレッシュが必要だと判断したのだった。

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