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――・18・――
翌日、俺は闘技場に顔を出していた。
目的は情報収集。超人ばかりが集まるセントラルだけでは、さすがに偏りが気になる。俺により近い立場の声も聞いておきたかった。
「…………」
――こりゃ意外な出迎えだ。
模擬戦を横目に観戦席へ行こうとすると、セドリックが立ちはだかったのだ。
「なんの用だ? 真っ先にやってきて無言はないだろ」
緊張感とともに俺は口を開く。
最初は意外と思ったものの、考えてみれば相手はクロヴィエの連れ。今回の一件を……。
「クロヴィエの話は聞いたよ、そっちの連れと引き分けたらしいね」
案の定、と言ったところか。問題はどう伝わっていて、彼がどう受け止めているかだが……表情から察することは難しい。せめてスタンスの方向性だけでもわかれば……。
――いや、こういうのは先手必勝だな。
「そのことなら、もう済んだことだ。当人同士で解決してる」
「その当人に、あんたは含まれてるのか?」
「…………」
的確に嫌なところを突いてくる。
あの場において俺は置物にすぎなかった。「当人」などとは――
「いつか戦える日を待ってる」
俺の逡巡に取り合わず発せられた端的な言葉。しかしまっすぐに向けられる漆黒の双眸が、それ以上を物語っていた。
「俺はそうでもないよ」
格付けなら、するまでもなく明らかだ。未だに向こうはクロヴィエの評価を鵜呑みにし、俺に対抗心を持っているようだが……。
「ただ……そうだな。お前を負かしてやりたいとは思ってる」
ふと頭をよぎった思いつきが、宣戦布告となって口を出ていた。
見かたによっては、これはシアとクロヴィエの代理戦争だ。協力という形で矛を収めたとはいえ、俺もクロヴィエに全く思うところがないわけではない。
――いいじゃないか、代理戦争。……滾る。
漠然と強くなろうとするよりも、「打倒セドリック」を掲げたほうが熱量が高くなる。捉え方次第で原動力になるなら儲けものだ。
「あ、ちょっと待った」
満足そうに口角を上げ、立ち去ろうとしたセドリックを呼び止める。
「聞きたいことがあるんだ。俺と戦いたいなら協力してくれ――」
「聞きたいこと? しばらくぶりに顔を見せたと思ったら、ぶしつけにそれか」
観戦席にいた生徒の一人に声をかけると、非常に感触の悪い反応が俺を迎えた。
「そう言わないでくれよ。こっちも色々あったんだ」
まさかセントラルに行っていたとも言えないので、濁して返答する。
「生憎俺も暇じゃない。ましてや、ずっとサボってたやつに割いてやる時間はねえよ」
――随分と当たりが強いな……。
近くにいた他の生徒に目を向けるも、揃って目線をはずされた。
「なんだお前ら、そんくらい協力してやれよ。同じ軍事科の仲間だろうが」
呆れた様子で話に入ってきたのは、誰もが見上げるほどの大男だった。
「スラム……」
「よぉお前さん、久しぶりだな」
――こいついつも助けてくれるよな……。
てか俺、助けられるような事態に陥りすぎじゃないか?
「仲間つってもそいつは仮だろ、仮。おまけに参加もろくにしてねえんだ。都合よく仲間を名乗ろうってのは違和感あるよなぁ」
スラムの登場によって旗色が悪くなった軍事科メンツに、ヒューリーが加勢する。この2人の間柄は相変わらずのようだった。
「ったくみみっちいな。弱ぇやつは教えてやる余裕もねえか」
「じゃあテメェが勝手にやればいい。俺らを巻き込むんじゃねえよ」
「ハンッ、ようやくオレ以下だって認めたな。気分いいぜ」
「ああん? ジジイお前、あれで勝ったつもりか?」
「あれで負けてないつもりか? 小僧」
「お前ら何やってんだ? っておお、マナト久しぶりだな」
ヒートアップしたところにレゼット教官がやってくる。
「教官! ずっとサボってたこいつに何もなしですか?」
生徒の一人が声を上げる。……俺が最初に話しかけ、協力を求めた相手だった。
「サボったわけじゃねえって。クロヴィエに付き合わされてたんだよ。わかってやれ」
「クロヴィエって、この間のセントラルの……」
さっきまでの威勢はどこへやら、その名を聞いた途端に生徒は口ごもりだす。
「別にお前の態度を報告したりしないから安心しろ。ただ代わりと言ったらなんだが……、俺の質問に答えてもらえるか?」
」
ビビっているところにつけこんで、俺は畳みかけるのだった。
肉と肉、骨と骨がぶつかり合う肉弾戦――その鈍い音が闘技場には響いていた。
「妙なことするよな、お前。しばらく顔出さないと思ったらこんな真似さ……」
一通り聞き回ったところに、シュミットが声をかけてくる。実際、この聞き込みを通して彼以外にも珍しがられることは少なくなかった。
「俺のしてることってそんな珍しいか? お前らだって教官に助言求めたりするだろ」「そりゃ教官が強いからな。だがそれより弱いやつの助言なんて聞いても仕方ないだろ」
「ふ~ん。そういうところは実力主義徹底してんだな」
物事を始める上で情報収集は基礎の基礎だと思っていたが、それはどうやらこの世界の常識と異なるらしい。
――研究が幅を利かせてる世界とは事情が違うってことか。
遅れてると言うと角が立つが、それでも俺の立場からすれば、数少ないアドバンテージになりうる要素だ。その差を利用しない手はない。
――あいつらに勝つためにも、な。
目線の先、スラムとセドリックが体術のみの手合わせをしている。体格差にそぐわず、意外にも対等に渡り合えている印象だった。
目標の高さを改めて感じるとともに、俺は静かに心を燃やしていた。
「――って感じだったよ今日は」
夜。寝室でアケコンをいじりながら、シアへの報告を終わらせる。
「あのさ、1つ気になったんだけど……なんで私には聞かないの? 魔法のこと」
「あー、そういえばまだだったな。じゃあ聞くけど――」
「いや、私は例外だから参考にならないと思う」
「なんでわざわざ聞かせた……」
シアはいたずらっぽく無邪気に笑うと、満足したのかベッドの上をゴロゴロとしだした
まあ俺の中で感覚派といえばの人だ。元からアテにはしてない。
『ビビッとくるからシュピンッとやればできてたぜ』
「そういえば軍事科の教官もシアと同じタイプだったよ。めちゃくちゃ感覚派」
「へぇ~。って、それじゃあ魔法のこと教われないじゃん! 学院に入る意味!?」
「ナイスノリツッコミ。まあ実際、セントラルの人らがいなかったらと思うとゾッとするよな……」
最悪学院に来た甲斐なく、収穫なしなんてこともありえたわけだ。




