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――・10・――
中央に大きく開けたフィールドと、それを囲むように設けられた観戦スペース――闘技場は主にその2つのエリアで構成される。
観戦スペースに陣取る俺の視界では、二人の生徒が対峙していた。
向かって右側。銀色のボブヘアを軽く振り払い、少年が力強い眼差しで相手を見据える。その顔に浮かぶは不敵な笑み。敗北の可能性を一切感じさせない、自信に満ち溢れた表情だ。名はたしか……ヒューリー。
対する左側。こちらは打って変わって動きといった動きがない。表情すらもその片目を覆うように伸びる紫髪に隠れ、窺い知ることはできなかった。それでも自信なさげな印象を受けるのは、姿勢の悪さが萎縮しているように見えるからだろうか。
――こっちはたしか……レンカ、だっけ。
状況を整理しつつ、俺はレゼット教官に言われたことを思い出していた。
『模擬戦再開するぞ。マナトもよく見ておけ。軍事科に入るなら必ず通る道だ』
『それは本編入の条件、ってことですか?』
『ああ。正確には三人指名の勝ち越し条件だけどな』
『勝ち越し……』
『見学止まりにするつもりがないなら、今から気合入れとけよ――』
――しかと刮目させてもらいますよ。
「おい新入り。お前ラッキーだな、いきなりトップの模擬戦が拝めるなんてよ」
「…………」
「何ぼーっとしてんだよ」
不意に話しかけられて返答し損ねると、その男は陽気に俺の背中を小突いてきた。
人相からして、顔に気さくと書いたようなやつだった。髪色も茶色と明るい。
――もっと殺伐としてる印象だったけど、こういうやつもいるんだな……。
「すいません。えっと……あなたは?」
「シュミットだ。家名はヘーゼル。――っと、そろそろ始まるみたいだぜ」
まるでその声に呼応したように、フィールドに立つ両者が動きをみせる。
先んじたのは銀髪――ヒューリーだった。大きく掲げた右手を相手へ突き出すとともに、巨大な閃光を放つ。人一人をゆうに飲み込むほどの巨大な光線は目眩ましのように作用し、少し遅れて轟音を連れてくる。
しかしその音が耳に届く頃には、すでに両者の攻撃はぶつかり合っていた。
ワンテンポ遅れて両手を突き出した紫髪――レンカが、ヒューリーに勝るとも劣らない光線で応戦したのだ。
――いや、純粋な大きさだけなら明確にレンカのほうが上か。
魔法同士のぶつかり合いにおいて、それがどれだけ重宝される要因なのかはわからない。しかし、それでもレンカが善戦しているように見える展開は意外だった。
せめぎ合う両者の光線。バチバチと音を立て、大迫力の攻防が繰り広げられる。
「ヒリつくな……」
自然と言葉がこぼれる。しかしすぐさま、隣でシュミットが鼻で笑ったのがわかった。
「新鮮な感想だな」
「というと?」
「まあ見てろって」
俺は促されるままに、一瞬そらした注意を目の前の攻防へと戻す。
だがシュミットの言葉とは裏腹に、両者の拮抗は徐々に崩れ、ジリジリとレンカの光線がヒューリーのそれを押しのけ始めていた。
「もしかしてレンカのほうがうわ――」
「よく見てろ、一瞬だ」
刹那、レンカの光線がヒューリーをその光線ごと飲み込んだ。
「…………」
大きく砂埃が立ち、一変して静寂が生まれる。一同の注目が集まる中、薄っすらと見えてきた人影は……二人。一方が地に這い、もう一方がそれを見下す図だった。
「おいおい、ちっとは成長してくれよ。これじゃ練習相手にすらなりゃしねえっ」
「ゔ、かほっかほっ」
鈍い音がこちらまで届いてくる。不明瞭な視界でも、何が行われているかはわかった。……腹に蹴りを入れているのだ。
「いつもこのパターンなんだよな。全力の一撃をヒューリーがいなして、生まれたレンカの隙を刈り取る。あとはもう、見ての通りだ」
呆れ混じりの調子でシュミットがそう言い終える頃には、視界も回復して二人の様子がはっきりと見て取れるようになっていた。……地に横たわるレンカ。彼の反撃を許さないのは、その身体に巻きついた縄状の黄色い光。おそらくヒューリーの魔法と思しきそれがレンカを拘束しているためだった。
「いい加減わかんねぇみたいだから言ってやる。テメェの弱さが俺らのレベルを下げてんだよ。雑魚と戯れる時間はねぇ。一生その実力に甘んじるつもりならよそに行ってくれ」
「…………」
何も言い返さないレンカにヒューリーは背を向け、そこで決着となった。
「あれがここのトップか……」
「まあな。人間性に多少難はあるが、一応今はあいつがトップだ」
「なるほど」
――強さが正義の実力主義ってわけだ。まさに軍事科って感じだな。
そんな風に一人で納得していると、ヒューリーが観戦スペースまで戻ってくる。
「おつかれ」
「おう」
シュミットの声がけに軽く応じながらヒューリーはこちらを一瞥、
「見世物になったつもりはないんだがな」
吐き捨てるようにそうのたまってくれた。
「おいおい、そんなツンケンしなくてもいいだろ」
「お前には言ってない、シュミット。これでも気ぃ遣って、遠回しに言ってやってんだぜ。お前みたいなのが来るところじゃねえってな」
それは暗に「脚もないやつが」と言っているようだった。……いや、こいつは実際そのつもりで言っているのだろう。
「やつあたりか。心はガキなんだな」
「あ?」
「教官の指示でお前は見世物でしかなかったはずだけど? 話も聞けない、自分の機嫌もコントロールできない。そんなやつをガキと形容して――」
ガシャンッ――言葉を遮る形で蹴りが入り、車椅子が横転する。
「おいヒュー」
間に入ろうとするシュミットを腕の動作で制し、ヒューリーは俺を見下す。全力の敵意をその眼差しに込めて。
「黙れよ雑魚。テメェは座ってても頭が高けぇ。転がっても足りねえ」
静かに持ち上げられた足が俺の顔めがけて――
「ジャマすんぜ」
そのドスの利いた声の登場とともに、ヒューリーの姿は目の前から消えていた。
「ここじゃこんなことがまかり通るのか? 学院。人様に見せられたもんじゃねえな」
男は軽々と俺の身体を持ち上げると、直した車椅子に座らせてくれた。
――やべぇな……。
助けてもらったことすら忘れ、萎縮してしまうほどにその男の体格は異質だった。
目測2メートルはゆうに超えるタッパ、筋骨隆々の四肢に浅黒い肌、おまけに髪は緑色のオールバックと奇抜の権化みたいな容姿をしている。まさしく鋼の肉体と称するにふさわしいガタイとは裏腹に、服装は上下ともに緩いダボッとした私服を着用していた。
「弱さは強くなるまでの過程だ。気にすんなよ、お前さん」
それだけ言って大男の背中は遠ざかっていく。その行く先、フィールドにて待つ人物を目にして俺は理解した。
――あの人がヒューリーを投げ飛ばしたんだ。
「助けられたのはたまたまだからな。勘違いするなよ」
「…………」
「言い方はともかく、あいつの忠告自体は間違ってないね。その脚でやっていけるほど、ここは甘くねえよ」
シュミットのトーンを落としたガチの忠告。それまでのおちゃらけた雰囲気は一切なく、それがギャップとなって一段と凄みを生み出す。
――こいつもちゃんと軍事科の一員ってわけか。
「さて、と。言葉はいらねえ。格付けといこうぜ、腕には自信があるんだろ」
軽く身体をほぐしながら歩みを進め、大男はヒューリーの真正面に立ちはだかっていた。
「部外者がなに我が物顔で話進めてんだ」
「オレがスラムだ。教団を背負ってきた。編入者がいるって連絡は入ってるはずだぜ」
親指で自らを示し、ギラギラとした笑みを大男――もとい、スラムは浮かべる。
「たしかに話は聞いている。俺としちゃもっと穏便に紹介したいところだったんだがな」
教官は両者の間に立ち、チラリとそれぞれに目をやった。
「止めても、お前ら別でやり合いそうだな。しゃーない、やっちまえよ。仮にも学院主席と教団主席だ。今後を占ういい機会ってことにしてやる」
「話がわかる教官だぜ」
ドゴッ――スラムが拳を手のひらにぶつけ、その音が闘技場全体に轟く。あまりに規格外なプレッシャーに、遠く離れていても全身が震え上がった。
「教団の人間は部外者に違いねえ。俺がこの手でわからせてやるよ」
間近で対面しているはずのヒューリーだが、その態度が軟化することはなかった。
「まさか小僧が学院のトップとはな。いや、狭い世界でつけ上がった結果がこれか」
「デケぇのは図体だけにしとけ。態度までってなると俺も見過ごせねぇ」
「てゆーと、今日初めてになるのか? 身の程と土の味を知るのは」
「ゴタゴタうっせえな。雑魚は吠え散らかすしか脳がねえのか?」
「「…………」」
両者の視線がかち合い、得も言われぬ沈黙が発生する。そこに火花が散って見えたのは気のせいではないだろう。
「フンッ、そうだな。交わすのはこいつだけで十分だ」
拳を手のひらに打ちつけ、スラムは重心を落とし臨戦態勢に入る。
何も言わずヒューリーは距離を取り、適当なところでスラム同様、腰を落とす。
そうしてどちらともなく、決戦の火蓋が切られた。
「喰らえデカブツ!」
開幕、銀髪をはためかせてヒューリーが特大の光線をぶっ放す。
威力・範囲ともに驚異的な一撃は、しかしスラムに届くことはなかった。彼はその図体からは想像もつかない速さで光線を躱し、縦横無尽に闘技場を駆け抜け始めたのだ。
だがヒューリーも黙って距離を詰められるわけではない。光線を断続的に放ち、体捌きを駆使しつつスラムを退けんとする。
――狙いはおそらく拘束、だろうな。
牽制しつつ距離調整を図るヒューリーと、その牽制を捌きつつ懐まで潜り込まんとするスラム。勝負はそういう図式になっていた。
「まずいな。うちにあんな機敏なやついないぞ……」
シュミットのぼやきが隣から聞こえてくる。その懸念が現実のものとなるのは、直後のことだった。
「捕らえたぞ、小僧」
攻防の果て、先に拮抗を崩したのはスラムだった。踏み込みから一気にヒューリーを射程圏内に収め、その巨体から繰り出される致命の拳を振るう。
「ハッ。捕らえたぜジジイ!」
刹那、スラムの足元から光の束が溢れ出す。瞬く間にそれはぐるぐると巨体に絡みつき、スラムを縛り上げていた。ギシギシと音を立てながらも、振るわれた拳はその拘束魔法によって動きを止める。
「一体誰を捕らえたって? 耄碌してやがんのか!」
一連の攻防を制したヒューリーが言葉による追い打ちを始める。……遠目に見た二人の姿は、まるで鎖に繋がれた囚人とその看守だった。
「いくら主席でも、所詮は負け犬の教団か。ざまぁな――」
ミシィ――何かを強引に破くような不快な音。それが耳に届く頃にはすでに、拘束魔法は音を立てて崩れていた。
「ほざけガキ。……教団を、ナメるなよ」
すぐさまスラムの止まっていた拳が動き出し、ヒューリーの横っ面に到達する。
「コハッ」
一度は勢いを殺され、不十分な体勢から放たれた拳。だが、それでも小柄なヒューリーを吹き飛ばすには十分すぎる威力だった。
地を転がるヒューリーにすかさずスラムは詰め寄ると、その胸ぐらを掴んで持ち上げる。
「テメ、調子に――」
バンッ――振りかざした巨腕は、容赦なくヒューリーを頭から地面に叩きつけた。
「アレ、死んだろ……」
戦慄が走る観戦席。誰からともなくそんな声が漏れてくる。それを皮切りに、ざわざわと動揺が波及し始めた。
「んあ? ここじゃこの程度でくたばっちまうのか?」
「「…………」」
明らかな煽り文句にも関わらず、スラムはそれで全員を黙らせてしまった。
「チッ、学院も大したことねえな。教団のほうがよっぽど骨があったぜ」
動かなくなったヒューリーを最後に一瞥し、スラムは背を向ける。
「誰が、死んだって……!?」
「ほう?」
立ち上がった男の姿を視界に映すと、スラムは再度向き直り腰を落とす。その姿勢に、優位を意識した慢心は微塵も見られなかった。
「まだ、終わっちゃねえ! 俺がこんな野郎に――」
輝きがヒューリーの手元に集束する。それは誰の目から見ても決死の一撃だった。
しかし――
「無駄だ。立派な才能も、腐らせちまえば凡人にすら及びはしねえ」
瞬時に距離を詰め、放たれる拳。それを前にヒューリー決死の一撃は……
放つ間もなく打ち砕かれた。
拳はそのまま土手っ腹に入り、ヒューリーを膝崩れにさせる。
「――――」
「その味、忘れねえこったな」
「まち……、やが――」
光、轟音。そして破裂音、風圧……うめき声。
俺の理解の外で、瞬く間に全てが起きていた。
「フッ、ジャマが入ったな」
砂埃の向こう側、スラムが笑うのがわかった。
――一体何が……!?
回復した視界が見せる光景に、俺の理解はとてもじゃないが追いつかなかった。
「とはいえ、腐っても主席……か。コホッコホッ」
圧倒的優勢に見えたスラムが一瞬の間に背中に血を滲ませ、吐血するまでのダメージを負っている。
「どうしたジジイ。俺はまだやれるぜ……」
「おいおい、いろんなもんに助けられておいて、よく減らず口叩けたもんだな」
至近距離、息もからがらに膝をついた状態で睨み合うヒューリーとスラム。
――ヒューリーが一矢報いた、ってことなら話は単純なんだけどな……。
あの場に介入したイレギュラーの存在に俺は目を向ける。
「お前らそれなりにボロボロだろうが。まだやるつもりか? 悪いが今日のところは中止にしてくれ。事情が変わった」
スラムたちの側面。背を向けた状態のレゼット教官が、突き出した拳を引き戻しながらそう口にした。彼の視線の先には、”事情”の発端と思しき白髪の青年が立っている。
「あんたがここのトップ?」
身長はそこまで高くない。むしろ教官との対比で小さく見えるほどだ。それでも見劣りせず、むしろより大きな存在感を放っているのは、彼が只者でないことの証だろうか。
「そうだ、と言いたいところではあるんだがな。さすがの俺も、街のトップを差し置いて最強を名乗る真似はできないよ」
「この場で一番であることは否定しない、と」
「まあそうな――」
閃光が言葉を遮る。威力・速度ともに今日見た中で最高の一撃――俺ですらそうとわかる圧倒的な一撃は、しかし一瞬にして霧散した。
――弾いた……のか? 手で?
俺の驚きをよそに、両者はすでに動き出していた。
刹那の攻防。俺には知る由もない読み合いを制し、教官が攻勢に回る。
「怪我する前に退きな」
目にも留まらない体術の連撃。闖入者の素早い対応もその速度には劣り、次第に均衡が崩れ始める――否、俺がそうと認識したときにはすでに、攻撃を捌ききれなかった青年がぶっ飛ばされていた。
「それも無駄だから」
自らが打ち上げた闖入者にさらなる追い打ちをかける教官。ラッシュの末に踵落としがクリーンヒットし、なすすべもなく青年は地面に叩きつけられる。
――いや、あの口ぶりからすると反撃の芽を摘んだのか……? たしかに光線ならあの一瞬でも……。
その素振りすら認識できなかった俺は、異次元の攻防に息を呑んだ。
「面白い! あんたなら――」
「――もうやめておけ」
闖入者は力の限り暴れ尽くす勢いだった。
しかし一声。それが耳に届くと、まるで幻覚でも見ていたかのようにその場は膠着していた。
「悪いなレゼット。うちの連れが失礼した」
現れた男は落ち着いたトーンのなめらかな声でそう口にする。
「おいあれ」「あの制服って……」「まじかよ」「初めて見たぜ……」
身体の大半は黒基調のコートに覆われていた。頭髪も相まり、印象としては黒ずくめ。申し訳程度に白のラインが入っているが……。
――あれこれ、教官のやつと色違いじゃ。
「なんだよく見たらクロヴィエか。セントラル勤務のエリートが何やってんだ?」
――セントラル……!
引っかかりを覚えた直後、明かされた事実に驚愕と得心が同時に訪れる。
思い起こされるのは、フレム教官とのやり取りだ。
『異世界転生、あるいは異世界転移という言葉に聞き覚えはありますか?』
『……残念だが初耳だ』
別れ際に投げかけた問い。その返答は芳しくなかった。しかし……
『セントラルなら情報が集まるかもしれないな』
『セントラル?』
フレム教官の口から語られた「セントラル」は、次のようなものだった。
まず前提として、俺らのいるこの街「サンドリア」と同規模の街が他に4つあるらしい。名はそれぞれ「フローシュ」「アスール」「ファルトゥ」そして「セントラル」だ。これら計5つの街こそが「ルモニ」と呼ばれる国家の全容であり、中でも「セントラル」は他4つの街を束ねる中枢としての役割を担っている――と。
『国家として街を束ねる以上、それなりの特権は持っていてね。あそこにはあらゆる情報が集まると言っていい』
『そこなら異世界についても手がかりが……』
『立ち入りを許されているのは一部の優秀な人間のみだ。容易でないということは先に言っておこう』
――あんな釘を刺されたぐらいだ。出くわすのは当分先だと思ってたんだけどな……。
「野暮用ができてね。……ああ、いた。そこの車椅子の彼、少し借りてもいいかい?」
周囲の注目が一斉に集まる。……え、俺?
願ってもない展開に、理解が一瞬追いつかなかった。
こんなにも好都合なことがあるかと、誰より俺自身が驚愕していたのだ。
「断る理由はないが、その前にそいつだ。お前が目を離せばすぐにでも暴れ出すだろ」
レゼット教官は白髪の青年に言及する。先ほどの言葉から大人しくしているが、教官の言う通り、次にいつ敵意を見せるか定かじゃない。
「お前なら問題ない。力ずくで抑えられる」
「その心配はしてないっての。物事には手間ってもんがあるんだ。知ってるか?」
呆れ気味に教官は言う。しかしクロヴィエと呼ばれた男は、顔色1つ変えずに答えた。
「どう転ぼうと、お前にはこいつと手合わせしてもらうつもりでいた。それが遅かろうが早かろうが、取らせる手間に変わりはない」
「……お前、相変わらず一方的なのな。説明不足だ。いっぺん要件を話してみろ」
一度言葉を失ったように見えたが、教官は気を取り直してそう口にした。
「レゼットにはあいつを鍛えてほしいと思っている。無理にとは言わないが、口添えする約束をしてしまっていてね。可能なら俺の顔を立ててほしい」
「ズルい言い方だな。強引なお前にぴったりのやり口だ」
「了承と受け取っていいか?」
「ああ、いいよ。ただやり方は俺流だ。口は挟むな」
「それでいい。むしろ好都合だ。……言った通り彼、借りていくよ」
「名前はマナトだ。用が済んだらちゃんと返しに来いよ」
「ああ。わかっている」
話を終わらせると、クロヴィエはゆっくりとした足取りでこちらに向かってきた。周囲の生徒らは彼の接近にそわついた様子を見せたが、クロヴィエにとっては常のことなのか、全く意に介さず俺の背後に回った。
「場所を変えて話を聞かせてもらう。力むな、というのは無理な話か」
軍事科連中の視線を一点に集めながら、俺は闘技場を後にすることになった。




