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1日の終わり

 ――・1日の終わり・――


「あ、マナトくん。おつかれ」

 特区を出ると、夕暮れを背に笑うシアが俺を迎えてくれた。……その姿を随分と久しく感じるのは、それだけ今日という1日が濃かったということかもしれない。

「待ってたのか」

「うん。近く通りかかったからついでに」

 外から見てわかるほど膨れ上がった布製の買い物袋を両手で握り、彼女はそれをこちらに見せつけてくる。

「持つよ。貸して」

「あ、りがと……って、結局私が車椅子押すから変わらないんじゃない!?」

「じゃあ持つ?」

「いや、やっぱ邪魔だから持ってて」

「なんだそれ」

 軽口に頬が緩む。そんな自分を認識して、俺はさらに心境の変化を自覚した。

「そういえばマナトくん。普通に受け入れちゃったけど、どこから出てきたの?」

「え、普通に……」

 来た方向に振り返ったところで言葉を失った。

 今まさに通ってきた門が、屹然とそこに立ち塞がっていたのだ。

 ――自動ドア……なわけないか。

「出る分には問題なかったんだけどな……」

「くすっ。そっか。少し気になっただけだから、そんな難しい顔しないでいいよ」

 シアはそう言って歩き始める。

 ……それからまた口を開いたのは、少し間を置いてのことだった。

「今日は、どうだった?」

「色々と考えさせられたよ。この世界の人と話したり、実際に適性検査を受けたりして」

「そっか。……検査の結果、聞いてもいい?」

 おそるおそるといった様子で、彼女の声色は強張っていた。

「通ったよ。辛くもって感じではあったけど」

「ほんとっ! よかったぁ……」

 一転して安堵に緩むシアの声に、俺はつい破顔していた。

「でもやっぱり、才能の可視化については少し思うところがあるな」

「通ったのに?」

「いや、むしろ通ったからこそ、かな」

 あれだけ必死に食らいついて結果が伴わなかったとき、こんなことを考える余裕なんてなかっただろう。

「凡人が凡人なりに綾をつけるってのも、それほど悪くない……てか案外、楽しかったりするんだよ」

 俺が元の世界でしてきたことを思えばこそ、そういったことが淘汰されてしまうのはもったいないように感じる。……まあ、勝手な話だが。

「ふふっ」

「……今、笑うところあったか?」

「ううん。マナトくんが自分のことを話してくれるの、なんかいいなって。ふふっ、それだけ。……あ、気に障ったならごめんね」

「いや、別にいいよ。漕がないで済む快適移動に、むしろ上機嫌まである」

 日が傾くまで研究科で休まざるをえなかったほどだ。さすがに沁みる。

「私の気まぐれも役に立ったってことかな。それならよかった」

「滅茶苦茶ありがたいけど、無理はしないでいいから。都合がいいようにやってくれー」

 間延びした口調はあくびを誘い、そこで俺は睡魔に飲まれつつあるのだと理解した。

「うん、そうするね」

 俺たちはそうして帰路につく。

 ひょっとしたら、彼女と合流することで緩むものがあったのかもしれない。そんなことを思いながら。

 夕暮れ時。いつかの言い合いが嘘のように、穏やかで居心地のいい空間だった。


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