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新たな朝

 ――・新たな朝・――


 変わらない天井。

 変わらない脚の感覚。

 慣れてきてすらいる、ベッドから見回すこの部屋の景色。

「…………」

 なんとなく、寂しさのようなものを感じている俺がいる。何かが胸の内から抜け落ちてしまったみたいな……そんな空虚感すら抱いてしまうほどに。

 それでも、毎度のようにこの世の終わりみたいな落胆をしなくなったのは成長か。……いや、それこそがこの虚しさの正体かもしれない。

 コンコン。

「マナトくん、もう起きてる?」

 そんなことを考えていると、ノックとともに扉の向こうから聞き知った声が届いてきた。

「起きてるよ。入ってどうぞ」

「それじゃお邪魔して。おはよ、マナトくん」

 ひょいと顔を覗かせ、軽快な動きでシアは姿を現す。その格好はすでによそゆきのものとなっていた。

「魔法って秒で身だしなみ整えたりとかもできるのか?」

「え、なんで?」

「いや朝からちゃんとしてるなーと思ったから」

 素直な感心を口にしたつもりだったが、しかしそれを聞いたシアの表情は苦々しかった。

「んー、私が楽せず陰ながら努力してるって発想はなかったりする……?」

「むしろ面倒事は全て生真面目にやってるイメージだけどな。料理を筆頭に家事全般そうだし、どこかで手抜いてなきゃキモいってほどには努力してると思うよ」

「それ褒めてるの? 貶してるの……?」

 微妙そうな顔をするシアに、俺は精一杯自然な笑みを浮かべた。

「どっちも」

「得意げに言うことじゃないでしょ。ほら、無駄話もこれくらいにして、朝ごはん食べにいこ。ちゃんと用意してあるから」

 そう言うとシアはベッドの近くまでやってきて、背を向けた状態でかがんでみせる。

「乗って」

「…………」

 背中越しに促してくるシア。だが俺には躊躇があった。

「どうしたの?」

「いや、別の輸送方法はないかと思って」

「輸送って……この際言い方は気にしないけど、どしたの急に」

 まっすぐに目を覗き込まれ、俺は半ば反射的に顔をそらした。

「……いや、やっぱりいい」

「そう? ならいいけど。じゃあ乗って」

 色々落ち着いて、頭が冷えたからだろうか。それまでなんとも思わなかった行為が妙に気恥ずかしく感じられて……とはいえ代替案があるわけでもない。そう自分を納得させて、俺はシアの背に身を預ける。もはや慣れた様子でシアは立ち上がり、俺をおぶった状態で歩き出した。

「なあ」

「なに?」

「あんま無理するなよ」

「……え? マナトくんが私の心配した……?」

 大げさな動きでシアは振り返るも、俺は彼女の死角に顔を隠していた。

「俺の目的に、シアはもう欠かせないから。それだけだよ」

「ふふっ、なんかそういう理由をいちいちつけるのがマナトくんらしいよね」

 そう口にするシアの声色は、かすかに弾んでいるように聞こえた。

「学院のことはなるべく自分で片付ける。今以上に負担をかけることはしない」

「負担だと思ってないし、全然頼ってくれていいんだけどね。でも……うん、がんばって。それじゃ、ごはん食べたら車椅子の様子見にいこっか」



 心機一転。

 決意を胸に、俺は新たな朝を迎える。

 届くことのない過去よりも、届くかもしれない未来へ手をのばす――そう心に決めた俺の目には、世界が少しだけ鮮やかに映る気がした。


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