嫁の爆弾発言
高宮と場所を移動して話した後、俺はこれまでにないくらい動揺しながら自宅マンションに帰りついた。
落ち着きを失ったままインターホンを押すと、いつもどおり先に帰っていたりこが扉を開けてくれた。
「湊人くん、おかえりなさい」
「……た、ただいま……」
「……」
「……」
りこの顔を思わずまじまじと見つめてしまう。
「あ、の……湊人くん……」
「うわっ、ご、ごめん!」
「ううん。……湊人くん、夏期講習の説明書もらえたかな?」
「あ、うん。りこの分もちゃんともらってきたから、あとで用紙を渡しつつ内容を説明するね」
「……その……塾の後って……」
塾の後と言われただけで高宮から聞いたことを思い出した。
一瞬で顔が燃えるように熱くなる。
俺の反応を見たりこは、なぜか世界の終わりに遭遇したみたいな表情になった。
え……!?
なに、この反応……?
「りこ?」
どうかしたのかと尋ねる俺の前で、りこは震える唇を噛みしめた。
「思い出しただけで、照れちゃうなんて……やっぱり湊人くん……あの人と……うっ……」
「……?」
「……ほんとは湊人くんにとってたった一人の女の子でいたいけど……きっと私に魅力がなかったせいだもん……。湊人くんを諦めることなんてできないし、最後には私のところに戻ってきてくれるなら……うん、大丈夫……。私、浮気されても受け入れられる……っ」
「……りこ? いったい何を言って……」
「……っ、湊人くん……! 私っ……! 湊人くんが他の女の子のところへ行ってしまっても、ちゃんとこのおうちでいい子にして待ってます……! だからっ、だからっ……別れるなんて言わないでっ……うっうっうわあああん……」
「なんのはなしー!?!!」
俺は素っ頓狂な叫び声をあげながら、ぺたんと座り込んで手放しに泣き出してしまったりこのもとへ駆け寄った。
◇◇◇
――それから三十分近くかけて、ようやくりこの誤解を解くことができた。
スーパーの帰りに俺を探していたりこは、偶然にも俺と高宮が駅前のミスドで話しているのを目撃してしまったらしい。
そこから一体どんな想像を膨らませたのか、なんと俺が浮気をしているのだと思い込んだのだそうだ。
「ほんと誤解させるような行動取っちゃってごめん。でも、浮気なんて絶対ありえないから」
「はい……。私のほうこそ変な早とちりしてごめんなさい……」
りこはスンスンと鼻を啜りながら、泣きすぎて真っ赤になった目で俺を見上げてきた。
誤解とはいえ、りこをこんなに泣かせてしまうなんて……。
申し訳なくて居た堪れない。
……にしても、さっきのりことんでもないこと言ってたよな……。
浮気されても受け入れるなんて……。
神に誓ってそんなことをするつもりはないし、そもそも世界一の天使がお嫁さんでいてくれるのに、りこ以外の女の子に目移りなんてするわけもないのだけれど、そこまで想ってくれているのかと考えると、ドギマギさせられた。
……そうだ。
りこも落ち着いたことだし、今こそりこの本心を確かめなければ……。
俺が落ち着きを失うほどの状態になった原因。
本当は帰宅してすぐりこに尋ねるつもりでいたこと。
「りこ、高宮とは浮気とかそんなんじゃないってわかってもらえたと思うんだけど、あのとき何の話をしていたか聞いてもらえる?」
「う、うん」
再び緊張した面持ちで、りこが小さく頷く。
「あの……怖いお話だったりする……?」
俺はなんとも言えなくて、少し黙り込んだ。
「俺の話を聞いてりこがどう思うか、俺は正直少し不安なんだ」
「……っ。……わ、私……湊人くんにフラれたり、嫌われたりするの……?」
「いやいやいや! そんなことは永遠にありえないから!! だからお願いっ、涙引っ込めて……!! りこに泣かれたら、どうしていいのかわからなくなっちゃうんだ……!!」
「永遠にありえない……。……っっっ……。もう、大丈夫……! 私どんな話でもしっかり聞けます……!!」
真っ赤な顔でとろんと笑ったりこがそう言ってくれる。
もしかして、俺が振ったりしないと言ったから、こんなかわいい顔をしてくれたのか……?
今までだったら絶対ありえない思考で、そんなふうに思った俺は、ごくりと息を呑んだ。
期待したくなる気持ちが、高宮の話を聞いたときからずっと膨らみ続けている。
りこも許可してくれたのだ。
俺とりこの間にあるものの正体を知るために踏み出そう。
「りこ、俺、中二の時に俺たちの間にあったことを知らされたんだ。俺とりこは、中二の夏の終わりに再会していたんだよね?」
次回は5/7更新予定です。
コミカライズ版のキャラデザができたので、↓に貼っておきますね!
とても可愛らしいので是非見てみてください~!
◇◇◇
感想欄は楽しい気持ちで利用してほしいので、
見る人や私が悲しくなるような書き込みはご遠慮ください( *´꒳`*)੭⁾⁾




