さりげなくおそろいにしたい嫁
昼休憩のお弁当タイムは、かなり騒々しいものとなった。
麻倉も澤もりこの作った弁当を一口食べるなり、美味しい美味しいと大絶賛しまくったからだ。
俺の出る幕なんてほとんどない。
……俺も心底美味しいと思ってるんだけど、このくらい声を大にできたらもっとりこに気持ちが伝わるのかな。
でもりこはさっきから赤い顔で、「恥ずかしいからもうその辺で……! ……下心があって作ったから、申し訳ないよお……」と嘆いている。
……どうやらほどほどの喜び方のほうが、りこ的にはいいようだ。
よかった……。
それより下心ってどういう意味だろう?
◇◇◇
山下公園で弁当を食べた後は、中華街に向かった。
来た道を戻ることになるけれど、おやつに肉まんが食べたいと言い張った麻倉の意見と、腹ごなしのために歩きたいというりこの意見が採用されたからだった。
もちろん俺たち男子に異論はない。
しばらく山下公園内の海沿いの道を歩き、それから大通りに出て、少し脇道に逸れたら中華街の門が見えてくる。
さすが観光地。
学生だけでなく、団体行動をする老人グループや、女子旅中の女性陣、デート中の恋人同士などでメインストリートはかなり賑わっている。
りこに案内されて俺たちが向かったのは、横濱媽祖廟だ。
八角形の廊堂は極彩色豊かで、見応えがある。
廊堂の天辺からずらりと吊り下げられた赤提灯と相俟って、すごく中国らしい。
日本にいるのに、異国に紛れ込んでしまったかのような感覚を味わえるのが面白い。
「ここは二〇〇六年に開廟したばかりなんだけど、恋愛成就の御利益があるって、たちまち有名になったパワースポットなんだ」
「えー! じゃぁ真剣に拝んでいかないと!」
麻倉はそう言って、腕まくりをした。
女子って本当に縁結びとか好きだよなぁ。
麻倉とりこは楽しそうに笑い合いながら、廊堂への道を進んでいく。
俺と澤もそのあとに続いた。
俺たち以外にもうちの高校の生徒が来ていて、どこのグループもはしゃぐ女子たちと所在無さげな男子たちという構図は同じだった。
周囲の参拝客に倣って、俺たちも一応線香を買い求め奉納することにした。
「この煙にもご利益があるんだって」
「じゃあ浴びまくる! ほら、りこ私に煙かけて。そうそう! ……ごほっごほっ」
「わっ、レイちゃん、大丈夫!?」
「全然! 噎せるくらい浴びないと効果でないかもだし!」
麻倉は「高三だからって受験勉強ばっかりやってらんないし、私は隙さえあれば恋したい」などと喚いている。
りこも麻倉と同じで、恋愛に強い関心を持っているのだろうか。
どこかの誰かとの恋愛成就を、りこが神様に頼むのかと考えたら気持ちが沈んだ。
俺にそんなことを思う権利なんてないけど……。
線香を奉納したあと、両手を合わせて熱心に願掛けをしているりこを見て、俺はますます気落ちした。
もしかしたら、もうすでにりこには好きな相手がいるのかもしれない。
「見て! お守り売ってるー! きゃー! かわわ! 良縁セットだってー! 私これ買う! あ、みんなも買ったらー?」
「は、はひっ」
麻倉のあんまり心のこもってない提案に対して、澤が真面目に返事をしている。
麻倉は澤の返しなんて全然聞いていなくて、「おみくじもあるー!」と駆けて行ってしまった。
健気にも澤は麻倉の相槌役として、彼女の後を追っていった。
……俺と二人の時の澤は、どちらかというと傍若無人なキャラなのにな。
まあ、同性に接するのと異性に接するのとで、同じ態度を取れる人間もそうはいないだろう。
それにしても良縁セットとは……。
お守り、赤い糸、祈願カード、り、良縁ぱうだー?
俺が首を傾げていると、隣でりこがふふっと笑った。
「ピンク色でかわいいねえ。私も買っていこうかな。……湊人くんは?」
「あー……俺は……」
さっき気が滅入った想いを引きずっているせいで、神頼みをする気には到底なれなかった。
だいたい俺は自分の想いが恋愛なのかどうかもわかっていないやつだ。
そんなあやふやな想いで願ったって、神様が聞き入れてくれるわけがない。
りこが「男女お揃いのものあるよ」と言うのと、俺が「俺はやめとくよ」と言うタイミングは、ほとんど同時だった。
「あ、か、買わないか。そかそか」
あれ。
りこ、なんだか悲しそうじゃないか?
……もしかして、俺が気乗りない態度を取ったせいで、この目的地を選んだ自分の責任だって思わせちゃったのか……!?
やばい、と、とにかく楽しんでる感じを出さないと……!
「やっぱりせっかくだし健康祈願のほうを買っていこうかな……!」
「えっ。……健康祈願?」
「そっちはご利益あんまないかな」
「……ううん! 大丈夫だと思う!」
「あ、健康祈願も青赤二色あるのかー」
まあ、ここは青かな。
そう思って青色のお守りを手に取る。
「……私も同じの買ってもいい?」
「俺は全然いいけど、でも、りこは恋愛成就のほうがよかったんじゃないのか?」
「うっ、ううん! 私も健康を祈願したかったの! すっごく……っ」
「え? どこか体調悪いの? 大丈夫?」
「大丈夫……!」
問題ないならいいけど……。
りこはやけにそわそわした態度で、俺と色違いのお守りを手に取り、会計をすまさた。
俺も同じように購入する。
「……お守り買えて良かった。遠足っていいね……!」
「うん? そうだね」
そんなに健康祈願のお守りが欲しかったのか。
でもまあ、遠足に対する意見には同感だ。
りことこんなふうな時間を過ごすのなんて初めての経験だし、楽しい思い出がいっぱいできた。
今だってそうだ。
お守りの入った袋を胸にキュッと当てて、うれしそうにニコニコしているりこ。
こんな笑顔が見られたのも遠足のおかげじゃないか。
気になってる女の子と一緒だと、どうってことなかった時間がこんなにも特別なものになるんだな……。
さっきまで、りこに好きな人がいるんじゃないかと気落ちしていたのに、微笑みかけられただけであっさり幸せになれるんだから、俺も単純だ。
とはいえ今日という日を楽しい気持ちで終えられそうで良かった。
もし「りこすき!」「りこがんばれ!」と思ってくださいましたら、
スクロールバーを下げていった先にある広告下の☆で、
『★5』をつけて応援してくれるとうれしいです
感想欄は楽しい気持ちで利用してほしいので、
見る人や私が悲しくなるような書き込みはご遠慮ください( *´꒳`*)੭⁾⁾




