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愛され人形使い!  作者: 天眼鏡
第四章
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翼人たちの会合

 食事を終えた後、勇者一行はスピナたちの家に泊まる事になり、自然と抜け落ちたのだという羽毛の詰まった布をベッドにして眠り、一夜を明かす。


 ……そして翌日の朝、ルドからの提案で集落の者たちに正式な協力者として紹介する為、定期的に行われているらしい彼らの会合に参加する事となった。


 太陽が真上に昇る頃、ルドの案内で大樹の回廊を下り、太い幹の中央辺りにある会議室らしい場所に通され、『ここで待っていてくれ』と言われた望子たちは何かの毛皮が敷かれた床に座って大人しく待機する。


 しばらくするとその部屋に、一人、また一人と翼人ウイングマンたちが入室してきた事で、漸く会議が始まるのだろうという事は望子でさえ理解出来た。


 おそらく会合に参加する権利を持つ個体が全て集まったのだろう、それを見計らった様なタイミングでルドが、スッと立ち上がってから全員に目を向けて。


「全員が参加してくれている様で何よりだ……犠牲者を除けば、だがな。 今日の議題は……例の風について一つ進展があった。 諸君らにも伝えておこうと思う」


 初めて望子たちと会った時とは全く異なる、頭領としての一面を見せながら語り出した彼の姿に、『ちゃんとおさやってんじゃねぇか』とウルは多少なり驚きながらも感心する様子を見せていた。


「おぉ、ついに……!!」「……しかし、一体どの様な?」「過度な期待はしない方が……」「待て、あそこに座ってるのは誰だ?」「昨日の客人だろ……?」


 一方、彼の発言を耳にした翼人ウイングマンたちはというと、ルドを頭領だと認めていない訳ではないが……これまで一切の進展がなかった事に加え、彼の後ろに座っている望子たちに興味が移ってしまう者がいた事もあって口々に声を上げた事により、一瞬で騒がしくなる。


 ──その時。


「──静粛に」


「「「「「!!」」」」」


 レラがこの場に居合わせる翼人ウイングマンたち全員に向けて威圧する様に呟いた事で、先代頭領である彼女の強さも怖さも知っている彼らはほぼ同時にその口を噤んだ。


「すまない、母様かあさま……まず、諸君らに紹介しなければならない者たちがいる。 さぁ、自己紹介を」


 静寂に包まれた部屋の中で、ルドは不甲斐ない自分をフォローしてくれた母に感謝し、協力者を紹介する為に望子たちを片手で差し示しつつ声をかけた。


 日本にいた時でさえクラスの自己紹介で苦戦した経験のある望子は、ガチガチに緊張しながらも──。


「……ぁ、えっと……みこ、です。 これでも……ぼうけんしゃです、よろしく」


 途切れ途切れの言葉で何とか最低限度の情報を伝えて頭を下げた後、『ふへぇ』と息を吐いて床にペタンと座り込み、それに続く様にウルたちも、昨日レラやルイーロ相手におこなった簡素な自己紹介をしてみせた。


 一方、統一性が微塵も感じられない彼女たちからの自己紹介を受けた翼人ウイングマンたちはというと。


人族ヒューマン、だよな? あれ」「あんな小さな子たちが冒険者? 冗談だろ」「あの人狼ワーウルフたちは強そうだが」「美形揃いだな」「どんな組み合わせなんだ」「静まれ! レラ様の──あぁいや、頭領の御前だぞ!」


 先程より一層ガヤガヤとし始めてしまったが、最後の一人がハッとなって指を嘴に当てた事で、どうにか落ち着きを取り戻す事に成功していたのだった。


「……各々、言いたい事も聞きたい事もあるのだろうが……結論から言えば、進展とは彼女たちの事だ。 これは昨日、俺や母様かあさまたちで決めた事だが、俺たちが直面している危機を乗り越える為に──」


 望子たちに協力を要請する事となった経緯いきさつを簡単に語る彼の声以外には、その他一切の音も聞こえてこない程の静寂と緊張の中にありながら──。


「──彼女たちの手を借りる、とでも言うの?」


 ……そんなルドの言葉を遮って、高いとも低いともつかない良く通る声で割り込む者がいた。


「……その通りだが、それがどうした? 俺の決定に異論があるなら聞くぞ──ファズ」

「……」


 一方、ルドが自分の説明を遮ったその声にも、特に癇に障った様子もなく至って冷静に返答すると、彼からファズと呼ばれた雌の翼人ウイングマンは、そんな彼に勝るとも劣らない鋭い視線を向けている。


(あれ誰?)


 そんな折、つい気になってしまったフィンがなるだけ小声で、レラとは違い彼女たちの近くにいたルイーロに問いかけると、彼は少しだけ顔を寄せてきた。


(あぁ……彼女はファジーネ。 ファズというのはルドがつけた愛称で──そうだ、僕たちの集落の頭領は世襲制じゃないというのはもう聞いたかい?)

(そういえばそんな事も言ってた様な。 それが何?)


 するとルイーロは彼女の名前と、誰がつけた愛称なのかを答えつつ……自分たちが住む集落の襲名制度について知識はあるかと聞き返すと、当のフィンは思い出したのかそうでないのか分からない反応を見せてから、再び首をかしげて彼に問いかける。


 ……瞬間、ルイーロは少しだけ苦笑すると同時に、何故か申し訳なさそうな視線をファジーネへ向けて。


(もしルドがいなければ……と、それだけの事だよ)

(あ〜……成る程、そりゃ突っ掛かってくるよね)


 『分かるだろう?』とフィンに語りかけた事で、普段は察しの悪いフィンでも何とか理解出来たらしく頷きながら『やれやれ』と肩を竦め、今にも口論を始めそうな二人に視線を戻したのだった。


「……これは私たち翼人ウイングマンの問題よ。 余所者を介入させるいわれはないわ。 ましてやそんな子供たちまで巻き込むつもり? ……失望したわよルド」

「おい! 頭領に向かってその口の利き方は何だ!?」


 ちょうどフィンが視線を戻した時、ファジーネがその声に確かな怒りを纏わせつつルドを非難すると、先程この場の者たちを静まらせた翼人ウイングマンが彼女を咎める。

 

「いや、構わない。 俺とこいつの仲だからな。 だがファズ──いや、ファジーネ。 一つ言っておくが、彼女たちは一人残らず……俺やお前を上回っているぞ?」

「は……? 亜人族デミはともかく、その子たちも?」


 だがルドは、その翼人ウイングマンを手で制しつつ、席次を争った好敵手ライバルであり、同時期に産まれた幼馴染でもある彼女に、スピナから告げられた事をそのまま口にした。


 するとファジーネは極めて懐疑的な表情を浮かべながらも、視線をルドから望子たちに移し沈黙する。


「あぁ、そうだとも。 だからこそ俺たちは、彼女たちからの協力の申し出を受け入れたんだ」

「……そ、そんな戯言ざれごとを信じろと──」


 その後、ルドは我が意を得たりと頷いて、押し黙る彼女を説得しつつもこの場にいる全員に向けて望子たちが正式な協力者なのだと告げるも、ファジーネは負けじと再びルドを睨みつけて問い詰めようとした。


 ……その時、彼女の視界の端で何かが動く。


「……あー、横から失礼。 我輩から一つ良いのであるか? ルド殿、そしてファジーネ嬢」

「どうした? ローア」

「……何よ」


 自己紹介を済ませてからは大人しく座っていたローアが立ち上がり、論争を繰り広げていた二人の間に口を挟んだ事で二人は彼女の方を向き、口論を止める。


 ……ローアは二人が静かになった事を確認するやいなや、こほんとわざとらしく咳払いして。


「もし、我輩がそちらの立場だったのならば……いくらおさの言葉であろうとも、こんな年端のいかぬ少女二人が自分たちより勝るなど信用出来る筈もない……相違ないであろうか? ファジーネ嬢」

「……えぇ、そうね。 その通りよ」


 まるで役者かとばかりの大袈裟な動作でゆっくりと彼女に近づき、ローアがこうして立ち上がって初めて同じくらいの位置にある顔を見遣ると、その幼い外見に似つかわしくない口調で語る眼前の少女に違和感を覚えつつも、ファジーネは粛々と返してみせた。


 ……するとローアは何が嬉しいのか、人当たりの良さそうな笑みを浮かべて頷いたかと思えば。


「では、そこで提案なのであるが……そちら側の代表者二人と、我輩とこのミコ嬢の二人、二対二で仕合ってみるというのはどうであろうか?」

「ぇ」

「……はぁ?」


 さも妙案だという様に仕合の提案をしてきた彼女に真っ先に反応したのは、ファジーネではなく望子であり、ローアが何を言っているのか理解出来なかったファジーネも、少し遅れてその鋭い嘴から声を漏らす。

 

「ちょ、お前……何を勝手に──」

「……良いわ、やってやろうじゃない。 けど、仕合うのは私一人。 人族ヒューマンの少女二人相手に複数で仕掛けるなんて、誇り高き翼人ウイングマンの名折れだもの」


 望子の安全第一なウルは当然それを止めようとしたのだが、既にファジーネは腕組みをして思案し始めており、『ちょうど良いハンデでしょう』とだけ付け加えて、ローアからの提案を受ける形となった。


(少女っていうか……勇者と魔族なんだけどね)


 ……ちなみにフィンは、何も知らないとはいえ召喚勇者と上級魔族を同時に相手にする事となるファジーネを、憐む様な視線と表情で見つめている。


「くはは、実に廉直れんちょくであるなぁ。 まぁ我輩はどちらでも構わんよ。 さぁ、表へ出ようではないか」

「えぇ、望むところよ……先に下で待ってるわ」


 そんな彼女に対し、一見するとあざけっている様にも思える笑みを向けつつローアが扉の方を手で差し示すと、負けるとは全く思っていないファジーネはゆっくりと立ち上がり、先んじて部屋の外へと出て行った。


 彼女に続いて他の翼人ウイングマンも、これから行われる仕合の観客ギャラリーとなる為に部屋から出て行く中で──。


「ろーちゃん、どうしてこんなこと……」


 ……明らかに不安げな表情をたたえた望子が、ローアにとてとてと近寄って尋ねてくる。


「ミコ嬢、自分の意思を通したいのであれば、言葉などよりも力で示すのが一番の近道なのであるよ。 少なくとも……この世界では、であるが」

「ぅ……わかった、やるよ……」


 しかし当のローアはといえば、彼女としては珍しく極めて真剣な表情で人差し指をピンと立てながら淡々と説明し、そんな彼女に押し負けた望子は渋々といった様子で息をつきながらも了承してしまった。


「うむうむ。 何かあっても我輩がいるゆえ、方舟はこぶねに乗ったつもりでいてもらえれば良いのである」

「はこ……? ま、まぁがんばろうね」

「うむ! さぁ、参ろうか」


 ひるがえってローアはニコニコと笑いつつ、薄い胸をトンと拳で叩いて望子を安心させようとするも、残念ながら『方舟はこぶね』は分からなかったらしく、首をかしげながらも力無い笑みで返した望子に対して力強く頷いた。

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