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愛され人形使い!  作者: 天眼鏡
第三章
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いざや領主のお屋敷へ

「──はい、これで申請は完了しました! ますますのご活躍を期待しております! ミコちゃんも頭目リーダーとして頑張ってほしいけど……無理はしちゃ駄目ですよ?」

「うん! ありがとう!」


 バーナードの話を聞き終えた望子たちは、受付にて一党パーティ結成の申請をエイミーに依頼し、そう時間もかからない内に彼女は一党パーティの名が記された免許をそれぞれに手渡しつつ、四人の中で最も等級クラスの低い望子が頭目リーダーになると聞いていた為、心配そうに声をかけるも当の望子は満面の笑みを浮かべて嬉しそうに返事をする。


 ……分かっていない訳ではないのだろうが、『お友達』というだけでなく『仲間』になる事が出来たのが嬉しいという気持ちの方が強かったのかもしれない。


 そんな中、ギルド内の酒場にて酒や肴を嗜みつつも望子たちとエイミーの一連のやりとりに聞き耳を立てていたらしい冒険者たちが一様に──。


「お、一党パーティ結成だってよ!」「おぉ、めでてぇじゃねぇか!」「ねーちゃんたち! 奢ってやるからこっち来て呑めよ!」「ミコちゃん、こっちおいでー!」


 酒が入っているというのもあって先程のアドライトよりも上機嫌な様子で新たな一党パーティの誕生を祝福し、やんややんやと騒ぎ立てながら酒の席へいざなわんとする。


「よーし! 今日は呑むぜー!」

「お腹減ったー!」


 それを受けたウルとフィンが我先にと喜び勇み、酔っ払いの仲間入りをせんと飛び出していく一方。


「……本当に落ち着きがないわね、あのたちは」

「げんきなのはいいことだとおもうけど……あはは」


 三人の亜人ぬいぐるみの中では唯一と言ってもいい冷静なハピと、そもそも飲酒が出来る年齢ではない望子は、かたや呆れて溜息をつき、かたや苦笑いを湛えて早速とばかりに飲食を始める二人を遠巻きに眺めていた。


「……あっ、そういえばハピさん。 ついでにミコちゃんも、ちょっとお話しいいですか?」

「? 何かしら」


 その時、ふと何かを思い出した様にエイミーが未だ受付前に残っていた望子たち二人に声をかけると二人は同じ様に首をかしげ、ハピが代表して聞き返す。


「実はですね? 領主様が今回の決闘の件について詳しく話を聞きたいと仰られてまして……」


 するとエイミーは、この街……ドルーカの領主であり、つい一週間程前に出会ったクルトからの呼び出しがあった事を二人に告げて、『結構な騒ぎになってしまいましたからね』と苦笑いを湛えていた。


「領主って──あぁ、クルトさんね。 それは別に構わないけれど……日時は指定されてるの?」

「出来れば早めにと伺ってます。 何やら頼み事もある様で、近日中にお屋敷の方へ赴いて頂ければと」


 一瞬、『領主?』と疑問符を浮かべたものの、すぐに若年の貴族を思い出せていたハピの問いかけに対してエイミーが懇切丁寧に返答する中で──。


「たのみごとってなぁに?」

「うーん……ギルドマスターが話を聞いたそうなんですけど、その内容はハッキリ言わなかったらしくて」


 同年代の女子と比べても身体の小さな望子にとっては少し高い位置にある受付に、『ん〜』と唸って両手と顎を乗せた状態で、エイミーの言う『頼み事』について尋ねるも、どうやら彼女はそれを知らされていないらしく困り気味の笑みを望子とハピに向ける。


「そうなんだ……とりさん、どうしよっか」

「望子が決めていいのよ? 頭目リーダーなんだもの。 あの酔っ払い二人も望子の決定なら嫌とは言わないわ」

「あ、あはは……」


 そんなエイミーの話を聞いた望子は、いつの間にか自分を抱っこして適当な高さまで持ち上げてくれていたハピに意見を求めたのだが、ハピとしては『望子の決定こそ絶対であり、自分の意見は二の次だ』と言わんばかりに完全に出来上がっているウルたちを見遣りつつ、苦笑する望子の二の句を待っていた。


「えっと、じゃあ……あした、みんなでいく?」

「そうしましょうか。 あんまり早朝だと失礼でしょうし、お昼頃にしようかしらね。 先方に伝えておいて」

「はい、お任せ下さい!」


 ハピの言葉に苦笑しながらも望子は自分なりに思案した後で予定を決めて、そんな望子の決定を受けたハピは目を細めながら、可変式の鋭い爪を収めた手で望子を撫でつつ領主への連絡をエイミーに一任する。


「それじゃあ、私たちもご飯を食べましょう。 あそこにいる冒険者たちが奢ってくれるみたいだし」

「うん! たのしみだなぁ」


 その後、望子たち二人も一夜の宴に加わり、いつの間にかアドライトやバーナード、果てはリエナやピアンまで参加していたその宴は……眠気に負けた望子をハピが優しく宿まで運んだ後も続いていたのだった。



 ……ゆえに、と言うべきか。



「あ"ー……呑み過ぎたぁ……気分悪ぃ……」

「ボクは食べ過ぎかも……みこ、お腹さすって……」

「馬鹿ねぇ、貴女たちは……」


 眠気に負けた望子や、その望子に付き添う形で宿屋に戻っていたハピとは違い明け方まで残っていたウルとフィンは、それぞれ重度の二日酔いと食べ過ぎにより、そこそこ柔らかなベッドに転がっていた。


「ふたりともだいじょうぶ? きょうはやすんでる?」

「ん〜……みこの手、ひゃっこくて気持ちいぃ……」


 昨日よりも更に深い溜息を溢して呆れ返るハピとは対照的に、あたふたとしながらも望子は二人を心配しつつ言われた通りにフィンの白いお腹を撫でる。


「ま、待ってくれ。 二日酔いにもあれが効くんじゃねぇかなって思うんだが……っと、これだこれ」


 そんな二人をよそにウルはベッドに転がったままの姿勢で自分の革袋に手を伸ばし、あらかじめフィンに分けてもらっていた瓶詰めの蜂蜜水玉ハニースフィアを取って、その一つを潰さない様に手に取り口に含んだ。


「……お、割と楽になったぞ。 やっぱ便利だな。 ほらフィン、お前も食っとけよ」

「あー……んぐ。 むぐむぐ……あぁ、ちょっと軽くなったかも……ほんと、ちょっとだけど……」


 すると、怪我を負っている訳でもないのに彼女の身体が淡い光を放った事で明らかに気分が良くなったのを自覚したウルは、そんな自分より更に苦しそうなフィンの口に蜂蜜水玉ハニースフィアを押し込み、フィンが寝転がったままそれをむと彼女の声音も気持ち明るくなる。


「だいじょうぶ? とりさんとふたりでもいいよ?」


 そんな二人を見てもなお、あくまで二人を労わる姿勢を崩そうとしない望子が『おるすばんしてる?』と提案するも、彼女たちはググッと起き上がって。


「……過飲過食で行けませんは流石に不味いだろ。 いくら見知った相手っつってもな」

「それに……! ハピと二人でお出かけなんて駄目だよ……! 這いずってでも行くからね……!」

「……? むりはしないでね?」


 ウルが『心配してくれてありがとな』と望子の頭に手を乗せてはにかむ一方で、どうやらフィンは昨日の宴の後で宿に戻った際、望子とハピが同じベッドで寝ていた事を根に持っているらしくハピをジロッと睨んでいたのだが、ウルの方はともかくフィンの言葉の意図を掴みきれない望子は首をかしげてしまっていた。


(何かするとでも思われてるのかしら……心外だわ)


 それを遠巻きに聞いていたハピは、『貴女じゃあるまいし』とフィンを翠緑の瞳で少しだけ睨み返す。


 ……下心が全くなかったかと言えば、嘘になるが。


 結局、全員で出発する事になった望子たちは、一週間前の暴食蚯蚓ファジアワームの一件で顔が売れていたからか、それともこの一週間で様々な依頼クエストを四人でこなしてきたからか、何度か街の人々に呼び止められて感謝されたり食べ物を貰ったりはしたものの。


「……ここが領主様のお屋敷ね」


 何の気なしに呟いて『ふぅ』と溜息を溢したハピの言葉通り、彼女たちは無事に他と比べて明らかに豪華で大きなシュターナ家の屋敷へと辿り着いていた。


 そんな望子たち一行が近づいてきているのが見えていたのだろう、いかにも騎士然としつつも先日のカシュアよりは軽装で細身な女性の警備兵がタタッと近寄り、綺麗に踵を揃えて敬礼したかと思えば──。


「ようこそ、奇想天外ユニークの皆様。 当主様がお待ちです……が、念の為に免許ライセンスの提示を願えますか?」


 彼女たちの一党パーティ名を言い当て、おそらく彼女たちが屋敷を訪れた理由も把握してはいるのだろうが、それでも『規則ですので』と身分証明を要求してきた。


「あぁ、はいはい……これでいいかしら」

「おねがいします……ふたりとも、はやく」


 望子とハピは『もし身分証明を要求されてもいい様に』と考えて、あらかじめ準備していた免許ライセンスを手間取る事なく手渡せていたのだが──。


「後で整理しねぇとな……あぁあった、ほら」

「はいこれ……ぅ、もう一個食べとこ……」


 他の二人は随分もたついており漸く見つけ出して警備兵に渡すも、フィンは喉奥から何かがせり上がってきたのか指先に蜂蜜水玉ハニースフィアを浮かべて口に運んでいた。


「……はい、確認が出来ました。 お手数をお掛けしまして大変申し訳御座いませんでした」

「うぅん、だいじょうぶだよ。 おつかれさま」

「は……っ、はい! ありがとうございますっ!」


 そんな折、確認を終えて免許ライセンスをそれぞれに返却しながらも、わざわざ手間取らせてしまった事に頭を下げる彼女に対して、望子が彼女を労うかの様に慈愛に満ちた笑顔を向けた事により、警備兵は顔を赤らめながらも他の兵に声をかけて鉄製の柵門をけさせる。


 ……召喚勇者だからこそなのか、それとも望子だからこそなのかは……ここにいる誰にも分からない。


「じゃあ、行きましょうか──」


 その後、先頭に立っていたハピが隣にいる望子を除いたウルとフィンの二人に声をかけんと何の気なしに振り返るも……二人は全く別の目的で動いており。


「……色目使ってんじゃねぇぞ」

「沈めるよ? 血の海に」

「ひっ!?」


 いつの間にか赤い爪と球状の渦潮をそれぞれが展開して望子と接触した警備兵を脅し、赤らんでいたはずの警備兵の顔は真っ青になってしまっていた。


「……馬鹿な事やってないで行くわよ」

「ぅぐぇっ! 引っ張るなぁ!」

「爪! 爪が食い込んでるぅ!」


 そんな二人に心から呆れ返った様子のハピは、わざわざ自分の手の可変式の爪を展開し、叫ぶ彼女たちを引き摺りながら門をくぐって屋敷へと向かっていく。


「あはは……また、かえりにね?」

「ぁ、はっ、はいっ! ごゆっくり!」


 一方の望子は、恐怖からか尻餅をついてしまっていた警備兵にヒラヒラと手を振って挨拶してから、ぎゃあぎゃあと騒がしい三人を追いかけていった。


 大きな門をくぐってからも割と長い道があり、見るからに絢爛な屋敷へと続くその道を歩いていると、四十代程に見える壮年の男性が扉の前に立っており。


「お初にお目にかかります。 当家で執事バトラーを務めております、カーティスと申します。 お見知り置きを」


 見目麗しい人族ヒューマン女中メイドを何人か引き連れ、貴族然とした礼とともに自己紹介をしてみせた。


「ご丁寧にどうも。 こちらの紹介は不要かしら?」

「えぇ、既に伺っておりますから」


 四人の中では唯一、礼節というものを理解しているハピが粛々とした礼で返して尋ねると、カーティスと名乗った白髪の執事バトラーは至って物腰柔らかに、『当主がお待ちです』と望子たちを主人の部屋へと誘導する。


 冒険者ギルドなどとは比較にならない程の長く絢爛な廊下を歩く望子とフィンが、『ひろーい』『凄いねー』などと言っている間に、他の部屋のものと特に差異はなく、それでいて嫌味には感じない……粋を凝らした意匠デザインの扉をカーティスがノックした。


「クルト様、奇想天外ユニークの皆様がお見えになりました」

『──あぁ、通してくれ』


 そして、いかにも壮年であるところの嗄れた声で扉の向こうにいるのだろう主人に声をかけると、彼女たちの耳に聞いた覚えのある若い男声が届く。


 その声に小さく返事をしたカーティスが、『どうぞ皆様』と率先して扉を開けると……そこでは。


 いかにも貴族の部屋といった風なカッチリしつつも絢爛さのある部屋で、クルトが大きな机に添えられた肌触りの良さそうな椅子に座りながら招聘者ホストたる者の笑顔を見せる一方、傍らに立つ従者のカシュアがこちらに……正確には亜人ぬいぐるみたちに睨みを利かせており。


 ──そして。


「──おや、昨夜あれだけ食って呑んで酔っ払ってたのに、ちゃんと遅れず来るとはねぇ。 感心感心」

「おはよう四人とも、今日も良い日和だね」


「リエナ? それにアドも……何やってんだここで」


 何故か魔道具店主のリエナと森人エルフの冒険者アドライトが、我が物顔でソファーに腰掛けていた。

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