分相応な歓待
翌日、クルトの屋敷に招かれた望子たち四人は。
「ようこそおいでくださいました。 さぁ、こちらへ」
「あ、ありがとうございます……」
シュターナ家に長く仕える老執事、カーティスの案内にて絢爛でありながらもどこか親しみ深い屋敷の中をひた歩き。
今日ここで開かれる歓待かつ祝賀の宴の場となる広間に通され、突き出された食前酒や簡単な先付けを嗜んでいると。
「待たせてすまない、よく来てくれた」
「いい御身分じゃないか、クルト。 勇者を待たせるなんざ」
「悪かったよ、急な来客があってな」
「らいきゃく……おきゃくさん?」
「今は気にしないでいい、すぐに分かる」
「……?」
それでも主催者か、と思いかけてしまうギリギリの時間を掛けて現れたクルトに、リエナは当然の様な上から目線で苦言を呈するも、彼は彼なりに外せない所用があったらしく。
それが来客対応だったと理解した望子は『タイミングが悪かったかな』と幼いなりに彼を気遣おうとしたが、クルトはクルトでいまいち要領の得ない返しで話を終わらせるだけ。
それ以上は聞いても意味がなさそうだ、とも判断出来るくらいの聡明さが望子にあったお陰でで事なきは得ていたが。
そして今、葡萄酒の注がれたグラスをクルトが高く掲げ。
「では歓待の宴を始めよう。 幼くも勇敢な少女と、その仲間たちが成し遂げた〝魔王討伐〟という比類ない功績に──」
改めて、この上ない偉業を達成した勇者を称える為の。
「──乾杯」
「「「乾杯」」」
「か、かんぱいっ」
ささやかな、されど気持ちのこもった祝宴が開かれた。
調理人や給仕担当は中々の人数が揃っているものの、この宴の卓へ実際に着くのは主たるクルトを含め、たった五人。
よって料理や飲み物、食器や椅子の数は多くなく、味も見栄えも良いが、では絢爛な食事かと問われれば疑問が残る。
「あの異変が起きた後、想像し得る全ての災害に備えて配給を行っていたのでな。 あまり豪勢には出来なかったが……」
「そ、そんなこと……おいしいですよ?」
「そう言ってもらえるとありがたい、存分に味わってくれ」
そんな疑問を口にした訳ではないものの、そう問われるかもしれないという事を想定していたのか、クルトが語ったのは魔王覚醒時に世界全土を覆った常闇への対策が原因で、勇者を饗すには不足なものしか用意出来なかったという答え。
配給という言葉の意味こそ分からなかったが、きっと彼にとって大切な行いだったのだろうとひとまず納得した望子に頭こそ下げたものの、クルトは決して後悔などしていない。
領地があり、そこに領民が居てこその領主なのだから。
そして、それからまた十数分後。
望子は既にお腹いっぱいだったが、レプター、ローア、リエナの三人はまだ余裕といった調子で食事を進めていた時。
「そういやクルト、さっき急な来客とか言ってたけど?」
「すぐに分かる、とも言っていた様であるが」
「……あぁ、そうだな。 そろそろ来る筈だ──」
今の今まで忘れていたとばかりにリエナが口にした〝待たせた理由〟についてを問い、ローアまでもが彼女に同調してみたところ、それを受けたクルトは彼自身が言っていた『すぐ』というのが間もなくだと答え、ふと扉の方へ目を遣る。
すると見計らっていたかの様なタイミングで扉の向こうから急ぎ気味の足音が響き、勢いそのままに扉が開いて──。
「──アドライト!」
「えっ……」
「あれ? アドライトは?」
「えっ、と、その……」
身だしなみは整っているものの、とても淑女とは思えない焦りっぷりで現れた少女が口にしたのは、とある森人の名。
望子は、動揺していた。
何しろ少女が居処を尋ねてきた森人、もとい上之森人は。
魔王との戦の最中、命を落としているのだなら。
その証拠となる遺品一つも、残さずに──。




