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愛され人形使い!  作者: 天眼鏡
最終章

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505/506

緩やかな終焉

 停滞している──と、リエナは確かにそう言った。


「停滞、ですか……? いえ、意味は分かるのですが……」


 流石に、つい先程の発言よりは理解出来ていたレプター。


 未来がない、などという突拍子もない発言よりは。


 とはいえ、それ以上の事は何も分かっていない。


 何も変わっていないともリエナは言ったが、レプターからすれば『そうでもないのでは?』というのが本音であり。


 蜥蜴人リザードマンの集落で暮らしていた頃、今は亡き王国に忠誠を誓っていた頃、異世界より喚び出された愛らしい勇者に出逢った頃、罪悪感を抱えた聖女と共に勇者を追いかけていた頃。


 合わせておよそ十数年、千年以上もの時を生きるリエナからしてみれば瞬きにも等しい短期間ではあるものの、レプターの脳裏には目まぐるしいとまで言わずとも変化はあった。


 ……あった、筈だ。


 季節の移り変わり、自身を含めた周囲の者たちの成長、寿命か外的要因かを問わぬ他者の生き死に──……などなど。


 そこには確かな変化が見て取れていた筈。


 だが、しかし。


「じゃあ、ここで一つ質問だ。 アンタが生まれ落ちてから十数年、世界中の建造物における様式に変化はあったかい?」

「建築様式に……? それは当然──」


 いざ具体的な例を挙げ、そう問われてみると。


(……いや、まさか……そんな筈は……)


 これといった変化はなかった様な気もしてきた。


 勿論、近辺で手に入る素材の違いや技術の伝来範囲や修得速度によって多少の差異はあれど、そこに目を見張る程の変化があったかと言われれば──……なかった、かもしれず。


「もう一つ聞こうか。 種族ごとの文化体系は?」

「文化体系……」

「先に答えを言っちまうと、この千年間で変わった事と言やぁ亜人族が人族ヒューマンの生活圏拡大の為に棲家を追われたか、もしくは順応して共に暮らし始めたかぐらいのもんなんだよ」

「……ッ」


 更に追い討ちをかけるかの如く問われた種族ごとの文化体系の変化についてを想起し始めるより早く、リエナが答えを告げた事で最早レプターは口を噤む他なくなってしまった。


 事実、彼女が見てきた人族ヒューマン亜人族デミたちにおける価値観や掟、上述した建築様式を含む衣食住や風習などといった文化・文明の再構築を肌で感じた事もなかった様な気がして。


「これで分かったろう? この世界は、〝魔王〟や〝魔族〟っていう共通の敵が現れた事で初めて真に時を刻み始めたのさ。 そしてそれが消えた事で時は止まり──衰退し始める」

「だが、貴女は違う筈だ! 貴女が手綱を取れば……!」


 ぐうの音も出なくなっていたのも束の間、仮にも自分が暮らしてきた世界の存在そのものを虚仮にする様な口調で以て事実と、そして確信めいた推測を語るリエナとは対照的に。


 亜人族デミとしては最強、魔導具師としても最高、加えて世界最高齢という、ともすれば先代の召喚勇者と同等の旗印にも成り得るリエナが居れば、停滞も衰退も終焉も避けられるのではとレプターは叫んでみせたが、ここで話が本題に戻る。


「それが出来ないから『未来はない』って話をしてるんだよレプター、あたしは数年もしない内に老衰するんだからね」

「……!」


 そう、何をどうしたところでリエナの寿命は残り数年。


 旗印になど、成り様がないのだ。


「勿論、あたしが死んですぐに停滞する訳じゃあないだろうさ。 けど、その刻は必ず訪れる。 そうすれば、もう衰退は止まらない。 この世界を待ち受けるのは()()()()()()だけ」

「……具体的には?」

「あ〜……まぁ百年から二百年ってとこかね」

「そんな……」


 そしてリエナ曰く、その刻が訪れるのは百〜二百年後という、長命種のみならず定められた寿命しか持たない者たちであっても場合によっては邂逅するかもしれない微妙な歳月。


 龍人ドラゴニュートと化したレプターの寿命は蜥蜴人リザードマンだった頃より遥かに延びている為、少なくとも彼女自身は終焉の瞬間に立ち会う事となってしまうと自覚し、心底悔しげに唇を噛む。


「まぁとにかく、アンタは絶対にミコと一緒に行った方がいい。 アンタなら向こうでも上手くやってけるだろうし──」


 ……そんな葛藤に苛まれているレプターを見たからか、それとも最初からそう告げるつもりだったのか定かでないが。


「──アンタが残ってたって、どうにもならないからさ」

「……ッ、一晩、考えさせてください……」

「あぁ、そうしな。 じゃあ、おやすみ」

「はい……」


 お前が独りで足掻いたところで何も変わらない──などという、あまりに無慈悲な事実を突きつけられた事でレプターは一層その表情を曇らせたものの、ここでリエナを相手に苦言を呈しても意味はないと悟り、話を終わらせたのだった。


(……最後のは余計だったかねぇ)

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