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愛され人形使い!  作者: 天眼鏡
最終章

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504/507

千年前と、現在の相違点

 未来がないから──と、リエナは確かにそう言ったが。


「……何を、言っているのですか?」


 残念ながら、レプターには意図が伝わっていない様だ。


 それもその筈、この世界は望子によって救われたばかり。


 ようやっと希望に満ちた新たな世界が始まると言っても過言ではない筈なのに、どうして未来がないなどと曰うのか。


 ……もしも、もしもだ。


 欠片も理屈は分からないがリエナの言う通りこの世界に未来がないのだとしたら、何の為に望子は魔王を倒したのか。


 何の為に、仲間たちは命を落としたのか。


 全てが、無駄だったとでも言うのか──と。


 言い様のない苛立ちが沸き上がりかけていた、その時。


「まぁ落ち着きなって、そんな調子じゃ話も出来やしない」

「誰のせいだと……!」

「いいから座りな、まずはそれからさね」

「……ッ、はい……」


 落ち着きを失わせている張本人からの宥めに、クルトの気持ちが分かる様な気がしたレプターだったが、それはそれとして『話を聞かない事には何も始まらない』とも分かっていた為、リエナを椅子に座らせ、自身はベッドに腰掛ける。


 それからリエナは、どうせ自分の家だからと言わんばかりに一切の気兼ねもなく煙管キセルに火をつけ、紫煙を燻らせつつ。


「さっきの言葉を覆す様で悪いけどね。 『未来がない』たぁ言っても、もうすぐ世界が終わるとかそういうんじゃないんだ。 あたしが言ってんのは、()()()()()()()()()()の話さ」

「……何故その様な事が分かるのですか?」


 レプターを動揺させた一言、『未来がない』とは今すぐ訪れる終焉ではなく、リエナ基準かそうでないかはともかくとして、いずれ確実に訪れる終焉を指しているという事は分かったが、では何故そんな事が分かるのかはまた別の疑問で。


 短期間とはいえ、これまで築いてきた信頼が、ともすれば瓦解しかねない程の猜疑心を抱きつつあるレプターに対し。


「千年前と百年前に勃発した魔族との戦。 それぞれの戦争には()()()()()()()があった。 どれか一つでも分かるかい?」

「……〝召喚勇者の存在〟、でしょうか」

「そうだね、それが最大の相違点だった。 けれど、それと同じくらい致命的な点があったんだよ。 一言で言うなら──」


 質問に質問で返すという何とも良識に欠けるリエナの応答に対するレプターの解答は、どうやら的を射ていたらしく。


 最高戦力にして全ての種族を束ねる旗印でもあった召喚勇者ユウト=マイゾノ──もとい舞園勇人の存在の有無は戦力の一つと切って捨てるには、あまりに致命的だった様だが。


 実は、それと並ぶ程に重要な点もあったのだという。


「──〝束の間の平和を享受した事による堕落〟、さね」

「……?」

「今も昔も〝最強の亜人族デミ〟なんてあたしは呼ばれちゃいるけどね、あたしにこそ及ばずとも有象無象の魔族程度なら蹴散らせる力を持った奴らは千年前にゃゴロゴロ居たもんさ」

亜人族デミに限った話ではなく?」

「そう。 人族ヒューマンや獣人は勿論、魔獣や魔物にさえ」


 それはリエナ曰く、半端な平和が訪れたがゆえの弱体化。


 元々この世界にて知恵と技術で持って文明を築き上げてきた種族たちは、コアノルを始めとした魔族が現れて侵略を開始するまで、これといって大きな戦を勃発させる事もなく。


 リエナに及びこそせずとも、それに並び立つ程の力を持つ者たちが現れる様になったのは、それこそ魔族の侵略が始まってからだという程度にはこの世界はぬるま湯だったのだ。


 しかし、それでも千年前の戦はまだマシだった。


 他でもない、勇人が居たからだ。


 誰しもにとっての希望であり、目指すべき姿でもあった彼の存在があったからこそ、現在より遥かに強者が多かった。


 とはいえ、そういった者たちの大半は千年前の戦にて命を落としたか、或いは普通に寿命を全うして老衰しており。


 役目を終えた勇人が居なくなった事もそうだが、かつての大戦を語り継ぐ者が殆ど亡くなってしまったが為に魔族の脅威を、そして『あくまで〝封印〟だという事を忘れないでほしい』という勇人の言葉を胸に刻みつけ、いずれ来るその刻に備えて力を蓄える者さえ居なくなってしまったのだとか。


 ……その点についてはレプターも理解したが。


「それが先程の話とどう繋がるのです?」


 それはそれとして『未来がない』という本題に一体どの様な形で繋がってくるのかが分からず、リエナに問いかける。


 いずれ魔族の様な敵が襲来した際、立ち向かう事が出来る程の力を持つ者が居なくなるから──というなら理解出来なくもないものの、それは理由として薄い様な気がしたのだ。


「……千年前の戦が終わってから魔王の封印が解かれるまでの九百年と、そこから現在に至るまでの百年。 単純計算とはいえ合わせりゃ千年近くもの時間が経ってる訳だけど──」


 そんな推測込みの疑問に対し、リエナはコツンと煙管から灰を落としつつ、これまでとは違う呆れと諦めが混じり合った様な複雑極まる表情を浮かべたかと思えば、ここに至るまでの約千年間を振り返るかの如く指折り数えたのも束の間。


「──この世界は何にも変わっちゃいないんだよ。 千年もありゃ変わって然るべきものが、ずーっと停滞してんのさ」

「え……?」


 停滞、という言葉を明らかに悪い意味で使ったリエナの声音の低さと、それを発する彼女が浮かべた苦笑の意味が分からずレプターはまたしても疑問符を浮かべるしかなかった。

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