説明求む
自身に戦闘能力はないものの、〝人の上に立つ者に相応しいカリスマ性〟は充分すぎる程に備えている領主、クルト。
そんな彼が魔術師と見られる二人の少女を護衛として従えた状態で、どういう訳かリエナの店の前で待ち構えていて。
「門番から聞いている筈だぞ──」
何故ここに、と疑問を抱かれても仕方ないとクルト自身も思っていたのか、そう聞かれる前に先手を打った彼の言は。
「──知っているんだろう? 先の異変についての全てを」
「それを知りたいが為の待ち伏せかい、よくやるよ全く」
「流石は領主、殊勝であるな」
己が治める街をも苛んだ、あの漆黒なる異変に関する全てを話せ、というリエナたちが全貌を把握している事を前提とした要求であり、その為だけに──と切って捨てるには及ぼした規模が大きすぎるが──わざわざ領主が店の前で待ち構えていた事実にリエナが呆れ、ローアが皮肉をぶつける中。
「ま、取り敢えず入りな。 掻い摘んで話してあげるから」
「勝手に掻い摘むんじゃない、一から十までだ」
「はいはい、融通が利かないとこは変わらないね全く」
「……誰の影響だと思って──」
それはそれとして仮にもこの街の領主であり、そして幼い頃はリエナの教え子でもあった彼からの要求を拒絶する程リエナは腐っていない為、互いに憎まれ口を叩きつつも招き入れた後、望子が用意した茶菓子を嗜みながらの説明は進み。
「──先の異変は魔王が原因で、その魔王と戦っていたのが貴女たちで……既に魔王は討伐され、世界は救われた……」
「大まかに言えばそうだね」
「そうか……魔王を、倒したのか……」
魔王との邂逅、戦闘、異変、討伐──その全てを結局は掻い摘んで伝えたリエナの説明を自分なりに噛み砕いて理解したクルトは、自身が呟いた結論を噛み締めながら俯いた後。
「まずは感謝をさせてもらいたい、そして謝罪もさせてもらいたい。 君のような少女にこの世界の闇を一身に背負わせただけでは飽き足らず、その偉業を知らしめられない事を」
「い、いや、それはべつに……」
「目立たせたくないというのも分かるし、そもそも目立たせられないだろうというのも分かる。 だから、せめて私の屋敷で貴女たちを饗す事を許してほしいのだが、どうだろうか」
「全てはミコ様次第かと」
「え? う、うーん……」
貴族とは思えない程に深々とした礼をしつつ、この世界を救ってくれた事と、それを公表出来ない事への感謝と謝罪を述べてから、ならば代わりにと己が出来る最高の饗しをさせてほしいと提案したものの、望子は返答に困っている様子。
勿論、勇者として世界を救いたいという想いはあった。
しかし望子の本質は、あくまでも〝元の世界へ帰る事〟。
本音と建前──とまでは言わないが、ほんの僅かな後ろめたさが目の前で恭しい態度を取るクルトからの提案を受けるかどうかを悩ませてしまっていたものの、それも一瞬の事。
「いいんじゃないかい? もうすぐアンタは元の世界へ戻る事になるんだからさ、最後に贅沢したって罰は当たらないよ」
「そう、かな……」
「英雄にも善意の報酬を享受する権利はあると思うがな」
「……うん。 じゃあ、おことばにあまえます」
「よし。 それでは明日、迎えを寄越そう」
リエナの言う通り、間もなく望子は元の世界へ帰る。
なら最後くらい贅沢しても神は咎めないし、それだけの偉業を成し遂げたのだというリエナとローアの言葉を正論と捉えた望子が了承した事で、明日の予定が決まったのだった。
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それから数時間後、望子が眠りについてしばらくした頃。
「……レプター、ちょっといいかい? 話があるんだけど」
「? えぇ、構いませんが」
まだ起きていたレプターの元に、リエナがやって来た。
神妙な表情を湛えて現れた最強の亜人族を見て、『まだ何か厄介ごとでもあるのか』とレプターに緊張が走る一方で。
「アンタは、もう決めたんだっけね。 行くか、残るか」
「……心残りがないかを考えているくらいには」
リエナが問うてきたのは、今後のレプターの身の振り方。
つまるところ、〝望子と共に地球へ行くか、残るか〟。
とはいえ、レプターの心は半ば決まっている。
かつて忠誠を誓った国も王族も、もう居ないのだから。
「そうかい。 なら、後押しさせてもらおうか」
「え?」
「アンタはミコと一緒に行った方がいい。 何せ──」
そんなレプターの覚悟や決意を見抜いたがゆえか、それとも元々そうするつもりだったのか、リエナが口にしたのは。
「──もう、この世界に未来なんざないからね」
「……はっ?」
少なくとも、ここよりは未来があるだろう世界に行くべきだという、リエナなりの心遣いから来る後押しだった──。




