さらば、翼人と鷲獅子
それから、その光の一粒一粒が完全に空へと溶けて風と一つになったのを見守り終えた望子や翼人たちは、すっきりした様子で儚い笑みを見せたアウラと、そんなアウラを幼いながらに気遣う子供たちが巣へ戻っていくのを見届けた後。
円環の魂葬では祭壇として利用したそれをそのまま櫓に転用、ルドとスピナの帰還と望子たちの再訪を祝う宴を催す。
さっきの今である為、ショストの時と同様いまいち望子はノリ切れていなかったが、リエナの蒼炎とスピナやレラの薫風を掛け合わせた美しい光景の下、選抜された翼人の雌たちが織りなす〝空中演舞〟に段々と望子も魅了されていき。
その祝宴は、それなりに楽しめたからか眠気に負けてしまった望子が就寝してからも、夜が明けかける頃まで続いた。
そして、翌日の朝──。
「──もう、行くんだな? ミコ」
「うん、おせわになりました」
「……世話になったのはこっちの方さ」
望子たち一行の、出立の時が訪れていた。
早寝早起きの望子は勿論、程々で切り上げたレプター、そして今の今までスピナと酒を酌み交わしていたリエナも食べ疲れや呑み疲れは感じず、元気そのものといったところだ。
当然、ルドたち頭領一家にもそれらは見られない。
酒に呑まれる様な馬鹿はしないという事なのだろう。
「この子の言う通りよミコちゃん、この世界を救ってくれて本当にありがとう。 元の世界での貴女の幸せを祈ってるわ」
「どういたしまして……で、いいのかな」
『そりゃあそうさ、アンタは救世主なんだからね』
「……うん、そうだよね」
望子たちとの邂逅以降、本当に頭領として相応しくなってきた息子に感慨深くなりつつも望子への感謝を忘れないレラに、スピナもまた小鳥姿のまま娘の感謝に同意し称賛する。
「もうちょっとの間この世界に居るんだろ? 手土産の果物や乾物も食い切れるよな、無駄にならなさそうで良かったぜ」
「ありがとう、みんなでおいしくたべるね」
そして、そんな風に若干の照れを見せる望子の従者が如く立つレプターの右手には果物の入った籠が、左手には魚の乾物の入った籠が提げられており、もうすぐで帰るとはいえ食べ切るには充分な時間があるからと望子が受け取った様だ。
……〝みんな〟といっても、もう四人だけなのだが。
会話もそこそこに、いよいよ別れを告げんとした時。
「おーい! ちょっと待ってー!」
「えっ?」
「親父? どうした」
遠くの空から風を切って現れたのは、ルイーロ。
ルドの父親にして、レラの夫である翼人。
普段あまり大声を出す事も、そして高速で飛ぶ事もしない父親が何をそんなに慌てているのかとルドが問うたところ。
「アウラが、ミコちゃんに用があるらしくてね。 もう出立するっていうから、急いで僕が巣まで報せに行ってたんだよ」
どうやら急いでいたのは己の為ではなく後ろから飛んできた鷲獅子──エスプロシオの妻、アウラの為だったらしく。
「ど、どうしたの? なにか、あったの……?」
『……グルオォ』
「えっ? これって……」
『……驚いたね、鷲獅子が〝飾り羽根〟を渡すなんて』
「何か特別な意味が?」
あまりの速度に驚いていた望子がおそるおそる近づいたのも束の間、アウラは己の右の翼に嘴を突っ込んで何かを引き抜き、そうして渡されたものが飾り羽根とは分かっても何を意味しているのかまでは知らないレプターが聞いてみると。
「〝感謝〟と……それから〝天恵祈願〟といったところかしらね? アウラは思った以上に貴女を気にかけてたみたいよ」
「どう、して?」
「命を懸けて助けてやりたいとまでエスプロシオが言った相手が、あんなにエスプロシオの死を悼んでくれたんだ。 エスプロシオの分まで幸せにと願うのはおかしい事ではないよ」
「そっ、か……」
それに秘められた意味であるところの、感謝と天恵祈願。
もう二度と会う事のない少女を相手に、この世界においても特にプライドが高いとされる鷲獅子が己の身体の一部を譲り渡した事実に翼人たちが驚く中、彼女の夫を間接的に殺めてしまったのにと望子はまたしても気持ちを沈めかけた。
……が、しかし。
「……だいじに、するね。 みんなも、げんきでね」
『グルルゥ』
『『『グルアァ!』』』
きっと今は、そういう場面じゃない。
幼いながらに空気を読んでみせた望子からの低い位置での抱擁を受けたアウラと、その後に三頭纏めてギュッと抱きしめられた子供たちに、こちらこそとばかりに感謝を告げた。
「元気でね、ミコちゃん! 貴女たちの事は忘れないわ!」
「色んな経験を積んで、大きくなるんだよ!」
『アンタなら何があっても大丈夫、自信持って生きな』
「うん! じゃあね、みんな!」
そして、望子たち一行はリフィユ山を後にする。
翼人たちと鷲獅子たちによる感謝の声を聞きながら。
「……母様、親父、婆様」
「「『?』」」
「俺……相手、見つけるよ」
『……いいのかい?』
「いつまでも引き摺ってちゃあ頭領は務まらねぇ、だろ?」
「……立派になったね、ルド」
「それじゃあ早速だけど、あの娘なんかどうかしら!」
「……気が早ぇなぁ母様は」




