魂と肉体の循環
今年の更新はこれで最後となります!
本作の話数も残り僅かとなりましたが、最後までどうぞよろしくお願いします!
次回更新は1/10(土)です!
それから数時間後、間もなく完全に夕日も落ちてリフィユ山に静かな夜がやってくる時間帯に差し掛かろうという頃。
リフィユ山の頂上付近に位置する翼人の集落であるフルーグは今、奇しくもエスプロシオが如何に家族や集落の民から慕われていたかが良く分かる程の静寂に包まれており。
「それでは、魔王との戦で命を落としたエスプロシオを弔う為の葬礼の儀、〝円環の魂葬〟を執り行う。 皆、黙祷を」
「「「……」」」
『『『……ッ』』』
彼らが短時間で、それでいて懇切丁寧に作り上げた祭壇の様なものに安置されたエスプロシオの遺体を中心には、これから始まる葬儀を取り仕切るルド、エスプロシオの遺族であるアウラと三頭の子供たちを最前列に配置、望子たち一行も含めたそれ以外の全員が祭壇を囲む様に配置されている。
ルドの号令で目を閉じ、一様にエスプロシオの死を悼む彼らの顔は、燃え盛りつつも熱は感じぬ蒼炎に彩られていた。
……他でもない、リエナの炎である。
本来なら葬儀ともなれば〝送り火〟が必要だというのは異世界でも変わらぬ様だが、生憎ここは可燃物だらけの山中。
燃やすべきものとそうでないものを完璧に区別出来るリエナの蒼炎は、この山中での送り火に最適であったらしい。
そして、リエナの蒼炎で葬列者や祭壇が青々と照らされる中、執り行われるのは〝円環の魂葬〟と呼ばれる葬礼の儀。
海精霊流しをショスト特有の、そして〝遺体も遺品もない場合の葬儀〟とするなら、円環の魂葬はこの世界を生きる魔族以外の全種族に〝遺体も遺品もある場合の葬儀〟として広く浸透している、ごく一般的な葬礼の儀であるのだという。
掻い摘んで言えば、捧げられる生物が産まれた地を神域とする神、或いは精霊にその亡骸の肉体と魂を捧げる事で、その地の更なる豊穣と繁栄を願うと共に、かの者の魂が生まれ変わっても再び巡り逢える様にと祈る為の儀式なのだとか。
地球でいうところの、〝循環葬〟に近しいと言える。
相違点を挙げるなら、あちらが散骨などで自然律に返す行為を人力でせねばならぬのと違い、こちらは亡骸を神や精霊に供物として捧げる形となる為、人の手が加わるのは儀式の場を用意し、祈りを捧げるところまでだという点だろうか。
事実、円環の魂葬を取り仕切っているルドとエスプロシオの遺族である四頭の鷲獅子たちを除けば他は全員、号令がなくとも最初から粛々とした様子で弔いの意を示していたし。
「……黙祷、直れ。 これより、エスプロシオの肉体と魂を神に捧ぐ。 アウラたちを除き、言い残した事がある者は?」
「「「……」」」
「よろしい。 では──」
既に集落のほぼ全員がエスプロシオの遺体に哀悼や感謝の意を告げ終えていた事も相まって、もう伝えたい事は全て伝えたと言わんばかりに沈黙で返した民たちに、ルドが得心したといった具合に頷きつつ最終行程に移ろうとしたその時。
「──ぁ、ま、まって……!」
「どうした? ミコ」
背が低いからという事で比較的前の方に並んでいた望子が何か言いたげに顔を上げ、それを不満に思う事は全く以てない様子のルドが『やり残した事があるなら時間を取るぞ』と気遣おうとする一方、望子が声を上げた理由は別にあった。
「わたしも、ちかくでおみおくりしていい……?」
「……どうだ? アウラ」
『グルアァ』
「『是非に』、だと」
「っ、ありがとう……」
そう、アウラや子供たちが最優先だとは幼いながらに分かっていても、エスプロシオが命を落とす事になった間接的な原因は自分にもあると望子は今でも思っており、せめて近くで見送らせてほしいという望子の意志をアウラは受容する。
……あの時。
ルドやスピナと共に魔大陸へと旅立つ事をエスプロシオが決めた時、『あの少女の力になってやりたいんだ』と家族の前で宣言した彼の瞳に嘘や揺らぎが欠片もなかったからだ。
断る理由など、万に一つもなかったのだ。
「では改めて──……風を司る女神カルデア様、或いはその使徒たる風精霊に乞い願う。 この地で産まれ育った鷲獅子が正義に殉じ、落命した。 この勇猛にして鷹揚たる鷲獅子の骨肉と魂を捧ぐ代償に、この地に今暫くの豊穣と繁栄を。 そして何より、エスプロシオの魂を正しき輪廻転生の円環に」
そして今、エスプロシオの亡骸を供物として捧げる代わりに集落及びリフィユ山の豊穣と繁栄を、それに加えてエスプロシオ自身の魂の安寧と輪廻転生をルドが祈願した瞬間。
「っ!? しおちゃんが、ひかりに……!!」
「これでいいんだ、ミコ」
「え……!?」
祭壇に祀られていたエスプロシオの亡骸が少しずつ緑色の光に包まれていき、それが包まれているのではなく光そのものになっていると気がついた望子が手を伸ばそうとするも。
その小さな手は、ルドによって遮られる。
それから彼は、全身が光の粒子となって蒼く照らされたリフィユ山の夜空に溶けていくエスプロシオを見守りながら。
「エスプロシオの肉体と魂は今、風の女神の供物として捧げられた。 どんな形で再会が叶うかは分からない、どんな姿で生まれ変わるかも分からない。 されど我らは翼人、誇り高き鷲獅子の生まれ変わりを見紛う筈もない。 そうだろう?」
「「「応ッ!!」」」
これはあくまでも輪廻転生、形はどうあれまた逢える。
一見すると慰めの様にしか思えないが、この集落の誰一人として頭領の言葉を疑わぬまま一糸乱れぬ呼応で以て返し。
これにて円環の魂葬は終了──と誰もが思ったその時。
『〜〜ッグ、ル……グルアァアアアアアアアア……ッ!!』
「「「!?」」」
『『『グ、グルリィ……?』』』
突如、今の今まで大人しくしていたアウラが──吼えた。
翼人のみならず、三頭の子供たちまで驚く程の声量で。
しかし、その咆哮は断じて喧しいものではなく。
悲哀の意を共感させる様な、〝哭き声〟だった。
(……存分に哭け、アウラ。 今だけは母ではなく、妻として)




