「敬礼!!」
魔王が討伐された──という全く同じ事実を伝えられたというのに、メイドリアとショストでは雰囲気が大きく違い。
歓待ムードだったあちらとは正反対──とまでは言わずとも、やはり町の纏め役かつマスコットの死を遺体や遺品の一つもなく突きつけられた衝撃が大きかったのか、とてもではないが祝宴を催す様な空気ではなくなっていた事もあって。
「……もう、行かれるのですね。 勇者様御一行」
「う、うん。 おせわに、なりました」
望子たちは翌日、早くもショストを発つ事に決めた。
「……申し訳ありません。 本来ならば町を挙げて皆様を歓迎し、その世界的な功績を称賛するべきだったのでしょうが」
「未だにアイツの死を引きずってるヤツも居るからなァ」
「き、きにしないで? そのきもちも、わかるから……」
実際、メイドリアと比べてしまうと雰囲気の温度差で風邪すら引きそうだが、ファタリアの死を引きずっているのは望子も同じな訳で、それを思うと『歓迎しろなんて言わないけど、せめて喜んでほしかった』と希望する事さえも難しく。
気にしないで、そう宥める以外に出来る事はなかった。
「次に向かうのは……やっぱリフィユ山か?」
「あの山を通るのが一番の近道だからねぇ」
「俺たちの集落もあるしな」
そんな中、リエナが答えたのは次なる目的地。
翼人の集落も存在する、リフィユ山。
かつては風を司る邪神の影響に苛まれていた忌むべき山だったのだが、望子たちによってその影響がなくなってからは不思議と前より山の恵みが豊富に採れるようになったとか。
おそらくは、その邪神が望子を認めて力を託した事が功を奏し、マイナスの影響が反転した──ローア談──のだろうが、本当のところはそれこそ邪神に聞かねば分からない。
とにもかくにも、スピナとルドにとっては棲家への凱旋となる上、最終目的地への近道となるのではあれば中継点としない理由はないと断言する最強の亜人族、リエナを見て。
……ふと、疑問に思ったかもしれない。
何故、転移の術──【天津御狐】を使わないのかと。
魔大陸へ向かう際に使っていたのではないのかと。
結論から言えば、使わないのではなく使えないのだ。
原因は、二つ。
魔王との戦いで魔力も気力も体力も尽きている事と。
……寿命すらも、間もなく尽きようとしている事。
何せ彼女は今の世界で最も長い千年以上を生きる亜人族。
まだ数年の猶予はあるが、それでもリエナ換算だと瞬く間に過ぎてしまうのだろう事を思えば、どれだけ見た目が若々しいままだとしても老衰が迫っている事は疑いようもない。
とはいえ未だ世界最高峰の実力を保っている事も間違いではなく、それこそ【天津御狐】ほどの高位の魔術や武技は使えずとも、あと数年は正しく頂点に君臨し続けるのだろう。
過去と現在、二人の救世主を知る唯一の亜人族として。
「それじゃあ、もういくね……さよなら、おにさん」
「じゃあな、ミコ。 元気でやれよ」
「スピナ様、これからもよろしくお願いします」
『あぁ、こちらこそね』
「頭領は俺なんだが……まぁいいか」
「……まちのみんなも、げんきでね──」
その後、幾らかの会話を交わし終えた一行が見送りに来てくれたオルコとグレースに、そしてショストに別れを告げ。
次なる目的地へと足を進めようとした、その瞬間──。
「──総員、敬礼ッ!!」
「「「応ッ!!」」」
「えっ?」
突然その場に響いた張りのある大声と、それに呼応する複数の返事に驚いた一行が振り向くと、そこにはオルコと共に最上級の敬意を示す礼を一糸乱れず連携して行う海運ギルドと冒険者ギルドの組合員たちが、いつの間にか並んでいて。
何か言いたそうだ、そう察した望子が足を止めた時。
「俺らは絶対お前らの事を忘れねぇ!! 未来永劫、小さな勇者とその一行の冒険譚を〝伝説〟として語り継いでいく事をここに誓う!! もう二度と逢えないとしても、俺らが覚えてりゃあ本当の別れにはならねぇ!! そうだろお前ら!!」
「「「応ッ!!」」」
「おにさん……みんな……っ」
オルコが叫び放ったのは、誓いの言葉。
何しろ世界を跨ぐのだ、もう何があろうと再会は叶わないとしても、お互いがお互いを忘れさえしなければそれを別れとは呼べない筈だと晴れやかな笑みを湛えるオルコに対し。
望子は、その誓いの意図を察したが為に涙ぐみつつも。
「わたしもぜったいわすれないよ! きれいなうみも、おいしいごはんも、ふぁたちゃんのことも! だから、だから──」
「──……っ、またね!」
「あぁ、またな!!」
敢えて、再会を願う旨の挨拶を交わして別れたのだった。
これが永遠の別れだと、お互いに分かった上で──。




