かの存在からの提案
そもそも、カナタは望子と同じ世界から来た異世界人。
この世界の何処で弔おうと、『せめて故郷の土で眠らせてやりたい』という細やかな願望すら叶う事はない為、場所は関係ないと言ってしまえば確かにそれまでではあるのだが。
「リエナ殿が言ったが、私にとってカナタは大切な友人だった。 出来る事なら私の手で埋葬したいとも……でだ、そんな私を差し置いて君の都合を優先する謂れがあるとでも──」
場所云々はまだしも、カナタの友人として彼女を葬送するという一生に一度の別れを、いくら神への崇拝にも等しい情景を抱いていたといっても他者に任せる訳にはいかないと主張するレプターの言は何も間違っておらず、そんなつもりはなかろうと語気が強まってしまうのも致し方ないと言えた。
『──元を辿れば私の提案です、忠実なる龍人よ』
「「「なッ!?」」」
「ダイアナ様!? この様なところまでお越しを……!?」
……それを提案したのが、女神でなければ。
「女神、ダイアナか。 存在は知ってたけどね」
『あぁ、あたしも逢うのは初めてだよ』
『火光に、瑞風ですね。 お初にお目にかかります』
「……あたしらを知ってんのかい?」
『えぇ、かつての戦を天上より観ておりましたので』
『はッ、いい御身分だね』
「ちょ、婆様……!」
途方もない刻を生きているがゆえ、この世界に根を張る全ての植物を司る女神の存在自体は把握していたらしいリエナとスピナの事を、どうやらダイアナもまた知っていた様で。
千年前、そして百年前に勃発した魔族との戦を天から俯瞰していたと何の気なしに曰う女神の他人事ぶりにスピナが皮肉気味に返し、いくら何でも女神相手にその不遜な態度はと孫が制止せんとするも、ダイアナは気にした様子もないまま。
『先程の提案についての意義、私が説明いたします──』
ファルマに代わり、神妙な表情と声音で語り出す。
この地をカナタの眠る場所とする理由と意義を。
そもそもの前提として、如何に〝神〟という絶対的な上位存在と言えど〝天上〟以外の居場所──〝神域〟があり。
ダイアナにとっては、このヴィンシュ大陸に位置する〝ディアナ神樹林〟こそがそれに該当──尤も、そう名付けられたのは彼女がその森を神域と定めてからだが──していた。
当然ながら他の大陸や海底、果ては雲の中などにも神域は存在するが、かつて世界が魔族の──延いては魔王の支配に堕ちかけた時代、人々が神への信仰心など抱いている余裕もなかった為に各地の神域は徐々に徐々に範囲を狭めていき。
雄大な森林一つという広範囲を神域として残している神は最早、世界規模で見ても現状ダイアナしか存在しておらず。
それだけでも、聖女の墓地とするには充分すぎた。
が、しかし。
もう一つ、より重要な意義が存在する。
何と、ディアナ神樹林にはもう一柱の神が森林の一部を間借りする形で神域を展開、現世に居場所を作っていたのだ。
その神の名は、医神〝アスカラ〟。
聖女カナタが信仰し、治癒の術を授かった神である。
かの神は今、生ける災害が及ぼした被害の影響で神域と神力の殆どを害され、ダイアナ同様この場に顕現する事は敵わなかったが、ダイアナ曰く誰よりカナタの死を憂い、誰よりカナタの最期を誇りに思っていたのだという。
つまり、先の提案はダイアナが大元というより。
アスカラこそが大元であったのだろうと推測出来る。
望子にこそ劣れど神々の加護厚き聖女であったカナタが眠る場所として、ここ以上に適している地があるとも思えず。
「──……アンタの好きにしな、レプター」
「……」
条件は良好、最終的な判断は友人だったレプターが下すべきだろうと考えたリエナの声で、レプターは数秒近く俯き。
そして、何かを決意したかの様に顔を上げてから。
「……どうか、カナタに──我が友に、安らかな眠りを」
「あ……ありがとうございます! お任せください!」
『感謝を申し上げます、博愛に満ちた龍人よ』
この地に、この神官にカナタの亡骸を託す事に決めた。




