初恋の終わり
ただでさえ傷心中の望子の耳に入らぬ様にする為か、それとも単に声を張り上げる様な明るい話題ではない為か、いずれにせよ神妙な声音と声量で語り、それを聞き終えた一行。
「──……マジかよ、じゃあアイツらはもう……」
「然り、二度と亜人族の姿は取れぬ」
「そう、か……じャあ、ああなッちまうのも無理は──」
もう、ウルたち三人がぬいぐるみ以外の姿を取る事は二度とない──望子やレプターに比べれば遥かに付き合いの短い自分でも少なからずショックを受けているのだから、それこそ涙が枯れ果ててしまっても不思議ではないかとカリマが嫌な方向に納得してしまう中、沈黙していたルドが口を開き。
「──……もう、あの姿にはなれないのか?」
「……そう申したつもりであるが」
「絶対に……絶対にか?」
「しつけェな、誰が一番ショック受けてると思ッて──」
ともすれば望子と変わらぬ程の絶望を抱いているかの様な震える声色で改めて現状を確認してくる彼に、ローアは当然ながらカリマまでもが若干の苛立ちと共に黙らせんとする。
「──無理もない。 この子、あの鳥人に惚れてたからね」
「はッ? 惚れてるッて……ハピにか?」
「あぁ。 尤も、とっくに振られちゃいるんだけど」
「……そりャあ、何つーか……」
しかし、その会話にスルッと割って入ってきた彼の祖母にあたる小鳥の様な姿に戻った翼人、スピナの告げ口によってルドがハピに好意を持っていた事と、その想いには応えられないと振られた事を同時に知らされたカリマからすると。
「女々しい、って?」
「まァ、な……」
己には想いの通じ合った恋人が居る事に加え、ハピと違って死んでもいない、そんな事実がある事を踏まえてもスピナの言う通り女々しく感じてしまうのも仕方ないと言えたが。
「……産まれて初めて、誰かを美しいと思ったんだ。 外見も内面も、その全てが俺の心を掴んで離さなかった。 この戦いに加わったのも、世界を救う手助けというより、その──」
……これでも彼は、本気でハピに惚れていたらしく。
現頭領という事もあり、いずれは好く好かないに関わらず後継を産ませる為に誰かを娶らなければならぬとはいえ、これまで恋愛経験がなかった彼は『丈夫な後継を産めるなら誰でもいい』と、ある意味で頭領らしい考えを持っていた。
しかし、ハピと出逢ってからは全てがひっくり返り。
この美しい栗毛の鳥人に出逢い、そして恋をする為に己は産まれてきたのだとさえ本気で信じ込んでいたのだという。
だが、もう彼は二度とハピには出逢えない。
たとえ叶わない恋だと分かっていても、この戦いが終わったら再び心からの想いを告げる──そう、決めていたのに。
……そう決めていたという事は、つまり──。
「──打算ありきだった、って事かい? 情けないね全く」
「す、すまない、婆様……」
世界の為に、勇者の為にと各地から集った他の面々とは違い、スピナが見抜いた通り〝邪な恋心〟を原動力としていたのだと自白した孫をなじりつつもスピナは彼の肩に止まり。
「ま、レラにゃ内緒にしたげるよ。 今は存分に哭きな」
「あぁ……ッ、あぁ……!」
その事実を知ったなら、きっと祖母とは比較にならないレベルで彼を叱責するだろう、先代頭領たる母親には黙っていてやるという心からの気遣いで彼の涙腺はついに決壊し。
淡い初恋が淡いままで終わってしまった事を嘆く中。
(……アタシも一歩間違えりャ、ああなッてたンだろうな)
出逢ったばかりの頃を思ってか、この戦いで恋人が命を落としてしまう最悪の場合を想定してか、カリマは最早ルドに対する苛立ちも失せ、横たわる恋人をただ見つめていた。




