たとえ涙は零れずとも
与り知らぬところで、一人と一頭が命を落とした。
自分を助けに他の大陸から来てくれた、仲間たちが。
その事実を受け入れ切れていないからか、それとも受け入れようとしているからか、よろよろとした足取りで近づき。
「おねえさん……しお、ちゃん……そっ、か……」
ぺたん、と地面に座り込みつつ一人と一頭の死を悼む中。
(何つーか、ちと意外だな)
(? 何がだ)
ふと、カリマが違和感を抱く。
望子を想うなら抱かずとも良かった、その違和感とは。
(仮にもアイツの為を想って駆けつけたヤツらが死ンじまッたンだぜ? ミコなら、もッと泣いて哀しむと思ッたんだがよ)
(……まぁ、確かに……)
そう、〝仲間思い〟や〝お人好し〟が人間の形をしている様なこの少女が、おそらく自分より先に望子と出逢っていたのだろう仲間の死を前に涙を流さない事への違和感だった。
……別に、『泣けよ』なんて言いたい訳ではない。
ただ、望子なら泣くだろうと勝手に思っていただけだし。
もっと言うと、たまたま命は助かりそうだから良かったものの、もしポルネが一人と一頭同様に命を落としてしまっていたとして、こんな風に黙って悼まれたら、何かこう──。
──……寂しくね? と思ってしまっただけだし。
(つってもよ、今は魔王との死闘を終えたばっかだろ? 泣いたり哀しんだり出来る程の余裕がねぇんじゃねぇか……?)
(ン〜……まァ、そういう事なら──)
とはいえ、それを聞いたルドの言葉もまた正論であり。
一年近くも異世界を旅し、やっとの思いで成し遂げた魔王討伐──まだ死んでないっぽいが──の直後である事を思えば、いきなり『仲間が死んだ』と言われても気持ちの整理がつかないのは無理もない事なのではと結論付けんとした時。
「──そういう事ではないのだ、カリマ嬢」
「うお!? き、聞いてたのかよ……!」
突如、二人の背後から会話に割り込む少女然とした魔族。
つい先程まで望子の傍に居た筈のローアが何の気配も前触れもなく現れた事自体に、カリマが目を剥くその一方で。
「……そういう事じゃない、ってのは?」
ルドは一人、抱いた疑念をそのまま疑問にしてぶつける。
彼女の発言をありのまま捉えて解釈すれば、『余裕がないから』とか『気持ちの整理がついていない』とか、そんなありきたりな理由で泣いていない訳ではないという事になり。
更に言えば、それらとは全く異なる理由が原因で涙を流さずして哀しんでいるのだという事になる以上、最早ヒソヒソ声でも何でもない声量で問い返してしまうのも致し方なく。
「ミコ嬢が哀しみながらも落涙しておらぬのは最早、流したくとも流さぬ為である。 何しろ、既に枯れ果てておるゆえ」
「枯れ、果て……?」
「どういうこッたよ」
それどころではない様子の望子の耳に届かなかったから良かったものの、ともすれば陰口とも捉えられかねない会話を切り上げる為か、或いはその先へと進める為か、またしても気になる事を言い出したローアに二人が問い返したところ。
「この場に居らぬ聖女カナタ、そしてあの人形たちが──」
次にローアが口にした、あり得てほしくなかった事実に。
「──魔王様の心臓を破壊する過程で、落命したがゆえに」
「「ッ!?」」
二人は今日、最大の衝撃を受ける事となった──。




