その声の主は
(どうしよう、どうしたらいいの……っ)
望子は今、焦りを覚えていた。
どれだけ頑張っても、少しずつしか進展しない事に?
心臓部を護る結晶に、ヒビ一つ入れられない事に?
それとも──?
おそらく、そのどちらも原因の一端ではあろうが。
最も望子の焦燥感を掻き立てているのは、間違いなく。
この世界へ来てから最初の、そして一番の〝お友達〟であるローアが今にも死んでしまいそうになっている事だろう。
原因は、何となく分かってはいる。
詳細はともかく、いつまで経っても不甲斐ない自分を支えようとしたが為に死の淵へ追いやってしまっているのだと。
血筋も相まって、望子は八歳でありながら相当に聡い。
だから、分かっているのだ。
いくらリエナやキューといった力も知恵も優れた存在が居るとしても、あの恐るべき魔王を相手に犠牲なしで勝つ事など限りなく不可能に近いという事も──そして、何より。
これだけ大きな音を立てて、これだけ強く空気を震わせているというのに、ローアや当の本人曰く『疲れて眠っているだけ』の聖女カナタが全く目覚める様子がない事実から。
(かなさん……っ、ごめん、ごめんね……っ)
既に、この世を去ってしまっているのだという事も。
これ以上、誰にも死んでほしくはない。
もしかしたら、もう〝外〟では誰かが犠牲になってしまっているのかもしれない事を思うと、余計に強くそう思う。
他者を蘇らせる力を持つ者は、もう居ないのだから。
どうしよう、と焦ってしまうのも宜なるかな。
『う、うぅ……もう、だめ……っ』
「ミコ、嬢……! 制御が……ッ」
打破の糸口が見えない困難にぶつかった事を自覚してしまったからか、それとも単に経験の浅さが如実に出てしまったからかは定かでないが、そんな事はもうどうでもいい。
……確かな事は、ただ一つ。
もう、あと数秒も保たないという事。
そして今、図らずもそれを証明する様に現状維持だけは出来ていた【四位一体】が望子の制御下から逃れようと鱗や牙を散らし、それらが望子とローアに文字通り牙を剥こうと飛来、【闇呑清濁】が吸い込んで護ろうとするも時既に遅し。
全てが、終わる。
もう、帰れない。
この世界も、救えない。
……お母さんに、逢えない。
押し寄せる様な絶望に、望子の瞳から光が失せかけた。
──……その時。
『──望子!』
『ぇ……』
「ッ!? 今の声は……!?」
何者かが発したとされる声が、望子を呼んだ。
望子自身でない事は勿論、ローアでもカナタでもない。
ローアに分かるのは、女声であるという事と。
どこかで聞いた事がある様な気がする、という事だけ。
……だが、どうやら望子は瞬時に辿り着いた様だ。
その声の主の、正体に──。
『──おかあ、さん……?』
「何ッ!?」




