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愛され人形使い!  作者: 天眼鏡
最終章
472/491

振り向くな

「喰らい尽くせ【闇呑清濁ダクドランク】、勇者の望みを叶える為に」

『オ"ォォ! ギャゴオォオオオオッ!!』


 今なお制御に苦戦する望子を支えるべく、ローアが助け舟として顕現させた巨大な口は最早、真空状態でも作り出そうとしているのかと思ってしまう程の吸引力を発揮しつつ。


 それでいて何もかも無造作に吸い込むのではなく、ローアの指示通りに鱗と牙だけを的確に吸い込み、喰らっていき。


 呑み込んだ先から魔力と神力に変え、望子に還元。


 再び飛散し始める鱗と牙を吸い込み──……と。


 一見、順調そのものに思える程にスムーズだったが。


『っ、また……! どうすれば、ひとつになるの……!?』

「心を、平静に。 焦りを露わにしたところで価値はない」

『そ、そうだよね……! がんばる……!』


 肝心要の〝四つを一つに〟が全く上手くいっておらず、ローアが還元してくれた魔力や神力を再び鱗や牙として無駄に飛散させてしまっている事実を、これでもかと恥じる望子。


 しかし当のローアがあくまで冷静に、『急いて仕損じるくらいならば』と優しい声音で望子を落ち着かせようとするものだから、釣られる様に気を取り直さんとした望子が一瞬だけでも振り返ってローアの顔を見ようととした、その時。


『ウ"ッ!? グ、ボゥ……ッ!!』

『えっ? いまの──』


 ローアの、というより二人の頭上で今もなお鱗や牙を吸い込み続けていた巨大な口が、明らかに──〝嘔吐えずいた〟。


 ともすれば、ここまで吸い込み呑み込んできた全てを勢いのまま吐き出してしまうのではと思えてしまう程、露骨に。


 異常事態でない訳がない、それくらいは望子にも分かる。


 今の何? と問おうとするのも当然と言えたが。


「〝外〟の連中も救うのであろう? 集中せねばならんぞ」

『……だいじょうぶ、なんだよね?』

「問題ない、そのまま続行を」

『う、うん……』


 詳しい事は何も知らない望子からすると『問題ない』と言われてしまえば、そして何より今も〝外〟で戦ってくれている筈の仲間たちの事を持ち出されてしまえば最早それ以上の問答に時間を費やす訳にもいかないのは自明であり。


 疑問を残したまま前に向き直ろうとした、その瞬間。


「──……ッが、はぁ……ッ!!」

『!? ろーちゃ──』


 突如、ローアが喉を押さえた状態で俯き──吐血した。


 喀血ともまた違うドス黒い色は勿論、量を鑑みても尋常ならざる事態にある事は疑いようもなく、それを前へ向き直ろうとした視界の端で捉えていた望子は、ここに何をしに来たのか、何をすべきかも全て差し置いて振り向かんとしたが。


「──振り向くなッ!!」

『っ!』


 その心配から来る行動は、当のローアに止められた。


 これまで望子に対して声を荒げる事など殆どなかったローアからの怒号、思わず望子が怯えてしまうのも無理はなく。


「今は、ただ……為すべき、事を……」

『〜〜……っ、うん!』


 それを反省してか、それとも単に痛みで大声を出せなくなっていたのかは定かでないものの、『為すべき事を』という途切れ途切れの言葉が正論である事くらいは望子にだって理解出来ていた為、心配から涙目になりながらも前を向き。


 〝四つを一つに〟を完遂させんとする望子の背後で。


(やはり、無理が祟ったか……終幕まで保てば良いが……)


 ローアは独り、らしくない無茶な道を選んだ己を嘲笑う。


 尤も、この展開は全てローアの想定通りでもある。


 ローアが選んだ無茶な道、もとい選択肢とは──。


 彼女自身の〝口〟と、【闇呑清濁ダクドランク】の──〝直結〟。


 彼女が誇る三つの超級魔術の内の一つ、【闇呑清濁ダクドランク】は他の級位の魔術を含めても唯一、僅かながらに意思を持つ。


 基本的には術者ローアの命令に従うが、どうしても嫌な事であれば無視する時もあるし、場合によっては反旗を翻す時もあるという、超級らしく非常に扱いにくい魔術であるらしい。


 先刻の〝嘔吐えずき〟などは、まさにそれであり。


 絶対に失敗が許されないタイミングで吐き出されでもしたら、もう二の矢は存在しないし、それを考える時間もない。


 ゆえの、〝直結〟。


 この巨大な口の意思がどうであれ、〝吸い込み〟、〝咀嚼し〟、〝呑み込む〟という普段の【闇呑清濁ダクドランク】であればこなせて当然の機能全てを術者が担う事で、タイミングを問わず〝魔力・神力の嘔吐〟なる最悪の失敗を未然に防ぎ切る。


 それが目的の行動だったのだが、ローア自身の口と繋げるという事は、厚き女神の加護で過剰な程に強化された三属性を持つ魔力と神力が彼女の口内や喉を侵すという事であり。


 魔族だった頃であったなら或いは耐えられたのかもしれないが、今のローアは知識豊富なだけの脆弱極まる人族ヒューマン


 当然ながら闇の魔力で口内や喉を多少なりとも保護してはいるものの、その程度では足りなかったからこその惨事。


 ……しかし、それが何だというのか。


(我輩は己が意思で自殺行為にも等しい愚行に身を投じているのだ……この程度の苦痛、ミコ嬢の未来の為とあらば──)


 誰に命じられた訳でもなく、あくまで自発的に動いた結果である事もそうだが、やはり望子の為だと思えば本来なら耐え難い苦痛にも抗える──と、そんな思考が巡った瞬間。


「──……ッく、くく、ははは……!」

(ろーちゃん、わらってる……?)


 ローアは、力なく笑った。


 魔族らしい〝嗤い〟ではなく、心からの〝笑い〟で。


 その理由は、たった一つ──。


(我輩もまた魔王様同様、ミコ嬢に魅せられているのだから)


 同じ穴の狢だったのだと、今更ながらに知ったから。

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