無駄を喰らう大口
「ミコ嬢。 そも、光線が一つとならぬ理由がお分かりか?」
『え……? ご、ごめん、わかんないかも……』
「構わぬよ、責めておる訳ではないゆえ」
二人して覚悟を決めた矢先、ローアから投げかけられたのは〝四つを一つ〟が実行出来ない理由についてを問うものだったが、そちらに思考を割いている余裕がない事以上に、そもそも心当たりがなかった為、ただただ謝るしかない望子。
「制御しながらで良い、ミコ嬢が放っておるもの以外の光線を見てもらいたい。 相違点──違いが見て取れる筈である」
『ち、ちがい……? えっ、と……』
しかしながらローアは、そんな望子を糾弾する事など決してしないどころか、わざわざ分かりやすい言葉に言い換えてまで助言を送り、ここで漸く光線に視線を遣った望子は。
『……あっ? な、なにあれ……なんか、とびちって……?』
すぐさま、訓練の時に放った光線との違いに気がついた。
ウル、ハピ、フィンのぬいぐるみから銘々放たれている一筋の光線に纏わりつくかの様に、煌びやかな光沢を放っていたり鋭く尖っていたりする、〝何か〟が飛散している事に。
「左様。 アレはおそらく〝鱗〟、或いは〝牙〟。 ウル嬢らに起きた変異の影響で強化された魔力や神力がミコ嬢の制御下より飛び出し、【四位一体】の完成を阻んでいるのだ」
『わたしが、へたなせいで……』
「……そういった見方も出来なくはない」
ローア曰く、ウルたちが恐化を発動した際に姿を変える恐竜や翼竜に生えていた鱗や牙を象徴として模られたのだろう魔力と神力が、その強大さのあまり望子の制御下から逃れようとするだけの余地を得てしまっているらしく。
望子の制御が甘いせいで、というのも強ち間違ってはいない事については研究者として誤魔化す訳にはいかないが。
「しかしながら、あの鱗や牙が威力の向上に一役買っている事もまた事実。 故に我輩、アレを一先ず喰らおうと思う」
『く、くらう? たべるの?』
「然り。 それを可能とするのが──」
そもそも望子だから心臓部を破壊するに足る力を発揮出来るのであって、あの鱗や牙は〝乗り越えられる壁〟兼〝利用すべき強化素材〟でしかないとのフォローは忘れず行い。
乗り越える為に、そして利用する為に必要となる──。
「──……一刻の猶予もない、詠唱は省略させてもらおう」
『おっきい、くち……?』
「如何にも、【闇呑清濁】である」
何もかもを呑み込み喰らう禍つ牙を顕現させた。
……時間もない為、詠唱破棄で。
「鱗と牙を喰らい、咀嚼の後に呑み込んだ魔力と神力はそのままミコ嬢の肉体に還元──……あー……戻すのである」
『そしたら、また……っ』
「然り。 ゆえにミコ嬢が為すべき事はただ一つ」
再び望子に分かりやすく言い換えた策は、つまるところ。
『……ろーちゃんがたべてくれる、うろこときばがまたとびちっちゃわないように……えっと──がんばる! だよね!』
「素晴らしい。 さぁ征こうかミコ嬢──」
ローアが喰らった鱗と牙を魔力や神力に戻した上で望子の肉体へ還元、再び鱗と牙の形を得て飛散しようとする魔力や神力を制御し、【四位一体】を完成させろという事だった。
それさえ成し遂げる事が出来れば、きっと──。
「──先代にも成し得なかった、魔王討伐の向こう側へ」
『うん!!』
父親の偉業を超えた、その先の未来へ辿り着ける筈だと。
二人の瞳は今、希望に満ち溢れていた。
……片方は、好奇心が有頂天に達したからだが。




