四つを、一つに?
そして、いよいよその刻が訪れる。
ぬいぐるみと化したウルたち三人を優しく、されどしっかり抱きかかえた望子は、すーっ、はーっと深呼吸をした後。
『……ろーちゃん、〝あれ〟をやればいいんだよね?』
「うむ、稽古通りにやれば良い」
こういう展開になる事も想定して備えていたのだろうローアによる指導の下、練習した通りにやれば問題ないと確信していてもなお問うてくる望子を安堵させる様に頷くローア。
その表情は、これでもかという程の好奇心に満ちていた。
翻って、望子の表情は途轍もなく強い決意に満ちており。
『よし、それじゃあ……やるよ、みんな』
それまで小さな腕に抱えていた三体のぬいぐるみを、かつてイグノールがそうした様に魔力の糸で繋げて浮遊、空中で陣形を構築するかの如く自分を含めて菱形になる様に配置。
糸を通して魔力と神力をぬいぐるみたちに流し込むのと同時に、ぬいぐるみたちに宿る魔力と神力も自分に流し込み。
まさに、ぬいぐるみたちと一つになった──その瞬間。
『まおう、とうばつ! 【よんみいった──』
前に発動した時は一人足りなかった【三位一体】。
その完全版とも言うべき、【四位一体】を発動し。
魔王の心臓を護る結界を破壊せんとした。
……そう、破壊せんとしたのだ。
だが、しかし──。
『──い】っ!?』
「!?」
望子の両手から放たれた六色の光と、三体のぬいぐるみたちから放たれた真紅、深緑、紺碧からなる三色の光を放つ極大の光線は本来、一つの光線となって貫く筈だったのだが。
『ろっ、ろーちゃん……! れんしゅうと、ちがう……っ!』
「案ずるなミコ嬢! 〝四つを一つに〟!」
『わ、わかってる、わかってるんだけど……!』
望子の言う通り、訓練とは違い全ての光線が纏まる事なくバラバラに結界へ照射されるという異常事態が発生した。
勿論、訓練を始めた当初はこんなものだったし。
実際に光線を一つに纏め、それが標的に着弾するまで制御するのに随分と苦戦したものだが、高い知能と適応能力を持つ望子は最終的に十回中十回、百パーセントの成功を収め。
流石だな、完璧よ、凄いね、と絶賛の嵐の中心に居た筈。
なのに、ここに来て異常事態を招いたという事は──。
──……嫌でも考えてしまう。
(僥倖ではなかったという事か?)
ぬいぐるみたちに起きた変化は〝思いがけない幸運〟ではなく、〝避けられなかった不運〟だったのでは──……と。
しかし、こんな状況でも明らかな幸運が一つだけあった。
その幸運とは、バラバラに照射し続けている四つの光線が持つ威力が、かつての訓練にて一つに纏めた光線のそれと同程度か、或いは上回りかけているかもしれないという事。
(……好機か危機か、現段階では判断しかねるが……少なくとも、ここで止めるなどという選択肢が有り得ぬ以上は……)
おそらくは、ぬいぐるみたちに起きた変化がウルたちが持つ火、風、水の魔力の強化をもたらしたのだろうが、それ以上の事は何一つハッキリせず、まずは静観すべきか──と。
そんな風に頭を働かせていたのも束の間。
(……ふ、柄にもない事を)
ローアは人知れず、クスリと自嘲する。
静観などという行為を、〝好奇心の奴隷〟を自称するローアが選択肢として残しておく訳がないと自覚していたのに。
ゆえに彼女は一歩、また一歩と前へ進み──。
「手を貸そう、ミコ嬢。 我輩たちで終止符を打つ為に」
『っ、うん!』
後方に控えるのではなく、隣で共に戦う事を表明した。




