邪なる叛逆の遺志
風と水の邪神の力を吸収し、己の力とした望子と。
火と土の邪神の力を吸収し、己の力としたコアノル。
得た属性は違えど、二柱もの邪神の力を手にしたという点だけで言えば結果的には同じ強化を果たした両者であるが。
正確に言うと、そこに至るまでの過程が異なっていて。
望子の場合、風を司る邪神ストラも水を司る邪神ヒドラも双方ともに最初は確かな敵対関係にあったとはいえ、最終的にその力の全てを望んで〝託した〟形となっていたものの。
コアノルの場合、火を司る邪神アグナも土を司る邪神ナイアも激闘の末に下した後、抵抗する事さえ出来なくなった双方の力の全てを存在ごと吸収し〝奪った〟形となっており。
結果は同じでも、きっと邪神側からの印象は違う。
しかし、それを確認する術はもう何処にもない。
彼女たちは一柱残らず消失してしまっているのだから。
だが現状を鑑みれば最早、全てが明らかとなっていた。
アドライトが向こうの意思を無視して原種たちを吸収したのと同様に、コアノルの体内でもまた奪った邪神の力の残滓が体外へ排出されたのを良い事に〝叛逆〟を起こしたのだ。
無論、彼女たちはあくまで己らを殺めた魔王への憎悪のみで抜け殻を動かしているだけであって、別に勇者一行の味方をしようとか、そういう意図は一切ないと見ていいだろう。
とはいったものの、この現象に〝幼き勇者へ二柱の同胞たちが力を託した〟という事実が関係していないとは思えず。
(思いがけない最大の好機……! 畳み掛けるなら今だよ!)
『分かってる!』
上述した全てを瞬時に把握していたキューは、アドライトへは届かない声を代わりにファタリアへ届け、時間稼ぎでしかなかった筈の二分が、より大きな意味を持ち得ると伝え。
『アドライト! 呆けてないで攻勢に移りな!!』
「ッ、あぁ! 征こう、キュー!」
当然、キューに言われるまでもなくそうするつもりだったファタリアからの指示に、ハッと我に返ったアドライトは操縦幹に触れる手へ流していた魔力を更に強め、操縦を再開。
どうせ残り二分と経たずに死ぬのだから、などという後ろ向きな理由ではなく、今も心臓を破壊する為に尽力してくれている筈の望子の為にも、という前向きな理由を胸に。
余力を残さず、全ての魔力を【世界樹人】へ注ぎ込む。
「あ、アドさん! 身体が……!」
……瞬間、彼女の肉体が幽霊の如く稀薄になりかけた。
森人もまた、妖人程でなくとも精霊に近い種族であり。
殺されれば死体は残るものの、寿命を迎えた場合は妖人同様この世界の魔力の一部となる為に霧散してしまう。
つまるところ、アドライトは残り二分弱で身につけた装備を残し、この世界から完全に消えてしまう事になるのだ。
「いいんだ、ピアン……覚悟は、出来てるから……」
「……ッ!」
だが、それも全て覚悟の上。
きっと、彼女の活躍は記録に残らない。
それでも、あの幼き勇者の記憶には残る。
……完全なる死は、辛い記憶になるかもしれない。
確かに、それは唯一の懸念事項ではある。
それについては、生き残った者たちに託すしかない。
悲しむ勇者の支えになってくれる様に、と。
奇しくも、二柱の邪神たちが力を託したのと同じ様に。
(……私も、何か一つくらい成し遂げなきゃ……)




