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愛され人形使い!  作者: 天眼鏡
最終章
462/491

それは、まるで預言書の様な

 〝絵本〟──それ自体は、こちらの世界にもある。


 尤も地球の絵本とは違い画風は至ってシンプルで、いわゆる〝萌え〟などとは全くの無縁なのだが、それはさておき。


 この時この場で望子が独り言の様に呟いた『あの絵本』というのが何を指しているのか、ローアには分からない。


「ミコ嬢。 『絵本と同じ』とは一体……?」

『……えっ? あ、うん……えっとね──』


 ゆえに、望子が呟いた言葉をそのまま疑問に変えて投げかけてみたところ、ほんの数秒の沈黙こそ必要としたものの。


 たどたどしい口調で、自分が感じた疑念を語り出す。


 母親が女神であり、その寿命が軽く一万年を超えている関係上、同世代の子供たちより成長も遅く口調も幼い望子。


 しかし、精神性や学習能力に限って言えば同世代かつ同じ学校に通っていた子供たちより──いや、ともすれば教師たちより優れた素質を生まれ持ったと言っても過言ではない。


 ……が、それはそれとして母親に甘えたいという子供ならではの感情も強くあった為、一緒のベッドで眠る事も多く。


 望子自身の部屋、いわゆる子供部屋にて独りで眠る日があっても入眠寸前まで傍に居てもらう事が殆どだったという。


 そんな甘えん坊の望子が最も好んでいたのが。


 お気に入りの絵本の、読み聞かせであった。


 それは、どこにでもある様なありふれた冒険譚。


 世界の危機に立ち上がった一人の青年が、世界に破滅をもたらさんとする巨悪を討つべく旅をして、その道中で出会った多種多様な姿と力を持つ者たちを仲間にし、力を合わせて巨悪を討ち倒す──といった内容の至って月並みな冒険譚。


 当然ながら、これは子供が読んでも分かりやすい様にと可愛らしい挿絵がところどころに描かれた絵本である為、内容自体も非常に簡潔に纏められており、文体も砕けている。


 だからこそ、望子は幾度となく自分で読み返す事が出来ていたし、幾度とない読み聞かせも飽きずに楽しめていた。


 内容の全てを、空で言えてしまうくらいには。


 ……閑話休題。


 今回の主題である、〝絵本に登場しているらしいぬいぐるみと、今のウルたちの形状が一致している件〟について。


 その絵本に描かれた物語の結末は、見事に巨悪を討ち果たし英雄となった青年が、その旅の中で恋仲になった一人の女性と契りを交わし、数年後に産まれた愛らしい女の子と三人で仲睦まじく暮らした、といった具合になっているのだが。


 どうやら、その数年後に相当する場面の挿絵に描かれた三人家族の中心、両親に抱かれて愛らしく微笑む娘の腕に。


 ぬいぐるみが三体、抱きかかえられていたらしい。


 それらは一見すると狼と梟と海豚である様に思えたが、それぞれ何らかの特徴を与えられた様な部品も付いていて。


 一つは、おそらく凶暴な〝牙〟を模した綿が。


 一つは、おそらく荘厳な〝翼〟を模した綿が。


 一つは、おそらく雄大な〝鰭〟を模した綿が。


 しっかりと縫い付けられていた様だ。


 ウル、ハピ、フィンが本気を出した時の姿と同じ。


 ──暴君竜ティラノサウルスの〝牙〟。


 ──翼竜プテラノドンの〝翼〟。


 ──海竜モササウルスの〝鰭〟。


 それらが、どういう心境からか縫い付けられていたのだ。


 何故だろう、と考えても答えは出ない。


 何せ、その絵本には作者の名が記されていなかったから。


 登場人物の心境を推し量る事など、出来はしないのだ。


 ……しかし、そうなると──。


────────────────────────


『──ろーちゃん? だいじょうぶ?』

「……あぁ、うむ。 説明、感謝する」


 拙い口調ながら頑張って語ってくれた望子に謝意を示しつつも、ローアは完全に思考の海へ飛び込んでしまっている。


 彼女の脳裏を埋め尽くす疑念の根源は、たった一つ。


 ──〝創作〟が先か、〝召喚〟が先か。


 ここに来て、最難関の謎に出遭ってしまったローアは。


「……くひっ」


 ……嗤っていた。


 それでこそ、と言わんばかりに──。

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