繋がりを断つ為に
──〝進化〟。
それは、この世界における亜人族たちが生を受けた際の種族から一段階上、つまりは上位種へ変異を遂げる現象の事。
蜥蜴人が龍人、兎人が有角兎人、といった様に。
大抵の場合、身体能力の向上や内在魔力の量と質の増強と共に下位種の状態で得ていた特性が更に強化されるが、それとは別に全く新たな能力を獲得する事も稀にあるという。
それこそ、まさに恩恵を授かるかの如く。
『どういう事? 進化とボクらに何の関係があんの?』
そこまで望子に関係のない事象となると途端に頭が回らなくなるフィンはともかくとしても、ハピはその現象と今ここでそれに触れる意味を朧げながらにでも理解しており。
『……私たち三人が上位種に進化する事が、魔王を討伐する事に──延いては望子を元の世界に帰す事に繋がるのね?』
『流石はハピ嬢、物分かりが良い様で何より』
たとえ命を散らしてでも進化を遂げなければ、コアノルの心臓部を護る結界を破壊出来ないのだろうと、逆に言えば自分たちの進化こそが正しく〝鍵〟なのだろうと半ば確信めいた推論を語るハピを、ローアが素直に称賛する一方。
『……そんで? その進化とやらをするのに何でボクらが死ななきゃいけないの? 生きたままだと駄目な理由があんの?』
己の理解力のなさが原因とはいえ、まるで除け者にされている様で不愉快だったのか、フィンからの露骨に苛立った早口での詰問に対し、ローアは『然り』と首を縦に振りつつ。
『結論から申せば、お主らと召喚勇者との間に存在する繋がりを断つ為である。 先代の召喚勇者、ユウトとの繋がりを』
『へ? 先代の? それって確か……』
『望子のお父さんよね? 彼と私たちに繋がりなんて……』
同じ召喚勇者でも、フィンたちから見て最愛の存在である望子ではなく、どういう訳か望子の父親である勇人と自分たちの間に何らかの繋がりがあり、それを断つ為に一旦その命を散らさなければならないと明かしたローアだったが。
フィンのみならず、ハピの頭上にも疑問符が浮かぶ。
当然と言えば当然だろう。
フィンたちから見た勇人とは望子の父親かつ先代の召喚勇者でもある事以上の知識も感慨も一切なく、そんな他人も同然の相手──フィンだけは彼を義父だと勝手に思い込んでいるが──との繋がりなど身に覚えがある筈もないのだから。
そんな困惑に塗れる二人に、ローアは問いかける。
『そも、お主らの所有者とは?』
『みこだよ』
『望子ね』
まず、ぬいぐるみたちが誰のものなのかを問い。
言うまでもなく、二人の答えは一致する。
『次に、お主らの創造主とは?』
『それもみこでしょ』
『そうね……で? 何なの、この質問は』
続いて、ぬいぐるみたちを作ったのは誰かを問い。
やはり、二人の答えは一致したが。
ただでさえ時間がないのに要領を得難い言い回しの質問をぶつけてくるんじゃない、と流石のハピも苛立ち始めた時。
『では、お主らを亜人族たらしめている力の出処は?』
『……だから、みこだって──』
その言い方から察するに、おそらくはこれこそが本命なのだろうという事までは分かれど、つい先程までの問いと何が違うのかと言わんばかりの投げやりな答えを返したフィンだったが、ここで珍しく何かに思い当たって己の発言を遮り。
『──待って、まさか……』
「漸くであるか」
『じゃあ、本当に……?』
よもや、と彼女が勘づいた頃には既にハピも辿り着いていた様で、その時間差に呆れながらもやっと本題に触れる。
「ミコ嬢が成しているのは、あくまで人形遣いの力を用いての〝解錠〟と〝施錠〟のみ。 そして、単なる人形でしかなかったお主らに亜人族としての命と力を封じ込めたのは──」
現状、ぬいぐるみたち三人の所有者自体が望子である事に間違いはなくとも、では亜人族としての覚醒を人形遣いの力で促せる様に仕掛けておいたのが誰なのかと問われれば。
「一時的にといえど、かの恐るべき魔王様をも千年近く封じ込めた先代の召喚勇者、ユウトであると我輩は結論付けた」
『『……ッ!?』』
十中八九、勇人の差し金である筈だと言い放った。




