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愛され人形使い!  作者: 天眼鏡
第二章

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彼女がふらふらだった理由

 地球と同じ様に東から煌々と日が昇り、その青々とした草原が少しずつ鮮やかな色を取り戻し始めた頃。


「──……ん、ん〜っ……ふあぁ……」


 この世界に召喚された時に着ていた空色のパジャマの袖で目を擦りつつ、もぞもぞと小さな身体を起こしながら背伸びをし、その一連の動作を誰に見られている訳でもないのに望子は随分と控えめな欠伸をする。


(まだ、みんなねてるよね──……あれ?)


 それから寝ぼけまなこで辺りを見回した望子の目には、すやすやと寝息を立てて眠るウル、フィン、ピアンの姿が映っていたのだが──ではハピはと言うと。


『──……!』


 自分より遥かに早く起きたのか、それとも徹夜で見張りをしてくれていたのかは不明であるものの、どう見ても火の番をしているらしいハピが身体を冷やさない為にと白湯を飲んでおり、その後すぐに望子の起床に気づいた様でコップを置いてから近寄ってきた為。


「とりさん、おはよう──」


 寝起きなのだから無理もないが、のっそりとした動きで寝床から抜け出しつつ朝の挨拶をせんとするも。


『────、──。 ──────?』

「……え、なんて?」



 どういう訳か、ハピの声がハッキリ聞こえない。



 ……こちらの声が届いているのかも分からない。



(なんでだろう──……あれ? なに、これ……)


 一体、何がどうなって──と幼いながらに思考を巡らせていた望子の視界が意識の覚醒に伴い晴れていくと同時に、もう随分と勢いが弱まっていた焚き火の光を反射する透明な膜の様な物が映り、それが自分を包んでいるのだと理解した望子がおそるおそる触れる。



「──……ぅわっ」



 すると、それは『ぱちんっ』と音を立てて割れた。



 瞬間、望子の視界が膜があった時よりも更に明瞭となるだけでなく、その聴覚を空を征く鳥の囀りや風が草原を凪ぐ音が刺激する様にもなった事によって、ここで漸く望子はしっかりと朝を迎えられたのである。



 そして望子は、すぐに膜の正体にも辿り着いた。



「──……もしかして、しゃぼんだま?」

「えぇ、そうよ。 おはよう望子」

「あ、おはようとりさん。 やっぱり、そうなんだ」


 自分を覆っていた物の正体──もしかすると、シャボン玉だったのかもしれないと呟いたところ、ハピは先程も口にしていたらしい朝の挨拶とともに望子の疑念を解消させ、それを受けた望子はスッキリとした表情で挨拶を返しながらも完全に寝床から抜け出した。


 その後、テキパキと寝床を片していた望子に対してハピは、フィンに『虫か何かが望子に近寄らない様にしてあげて』と頼み込んだ事による物だと明かし、また中からは簡単に割れる様にもしてあったらしく、もし望子が夜中に目を覚ましても大丈夫だったと語る。


 そんな彼女は、やはり徹夜で見張りと火の番をしていたのだろう、おそらく欠伸をしてしまっている口元を右腕に生えた栗色の翼で何とか隠していたのだが。


「とりさん、ねむい? ぬいぐるみにもどる?」

「う〜ん……うん、そうね。 お願い出来る?」


 それを見逃さなかった望子は、ぬいぐるみに戻ると普通に眠るより快眠出来た感じがすると口にしていた彼女の言葉を覚えていた様で、ハピは少しだけ悩む様子を見せてはいたが結局は誘惑に負けて手を伸ばし。


 伸びてきたその両腕が自分を絡め取る様に抱きしめるのと同時に望子も、ぎゅっと抱きしめ返してから。


「うん、いいよ──……『もどって、とりさん』」


 最早お決まりの合図になっていた、ぬいぐるみに戻す為の言葉を口にした瞬間、ハピの身体が淡く光り。











 ──ぽんっ。



 と、やはり間の抜けた様にしか聞こえない音が鳴るとともに、ハピの身体は完全に梟のぬいぐるみに戻り望子の薄い胸に抱き寄せられる形となっており──。


「──……おやすみ、とりさん」


 そんなぬいぐるみへ慈愛に満ちた笑みを向けて愛おしそうに撫でた望子は、もう自分の寝床は片してしまった為、近くで寝ていたウルの寝床に優しく置いた。


(……あさごはんつくろう。 なににしようかな)


 その後、無限収納エニグマから黒と白が基調の女中メイドの様な可愛らしい服を取り出し、ゴソゴソと着替えてから、ピアンを含めた実に五人分もの朝食の準備をし始める。


(……おやさいもたくさんあるし、くだものがはいったさらだと……あったかいすーぷをつけあわせにしようかな? おおかみさんのために、おにくもいれて──)


 無限収納エニグマに収納されていた沢山の食材を手探りで取り出しながら、どうにか望子の手に合う小さめかつ切れ味の良い短刀ナイフを以て肉や野菜、果物を刻み、ハピが番をしてくれていたお陰で着いたままの焚き火を使って昨日からフィンが用意していた水を温め、そこに具材と調味料を投入していきながら細かい調整をする。


 完全に屋外である事を除けば日常的ともとれる調理の音や料理の香りが辺りに漂い始めた事により、ウルの嗅覚とフィンの聴覚が刺激されてしまったらしく。


「──んぁ……? 何か、美味そうな匂いが……」

「とんとん、ことこと──……朝ご飯……?」


 割とすぐに寝ぼけまなこな状態から覚醒した望子とは違い、うっすらとしか目が開いていない二人が身体を起こしつつ匂いと音の発生源へ顔を向けると──。


「あ、おはよう。 おおかみさん、いるかさん。 あさごはんもうちょっとでできるから──まっててね?」

「ふあぁ……おはよう、みこ──あっ」

「?」

「今のやりとり、新婚さんみたいじゃなかった?」

「し、しんこんさん……?」


 調理する手は止めぬままに望子が微笑みながら二人へ顔を向けつつ朝の挨拶を交わす一方、フィンは朝食を作る望子の姿と今の一連のやりとりに感銘を受けているらしく、どうにも寝ぼけているのかそうでないのか判断しにくい発言をした為、望子は首をかしげた。


 そして朝食作りの手伝いを申し出た二人のお陰もあり、いつもよりも早く上手に完成させた望子は──。


「……よし、できた! ふたりとも、ありがとう!」


 如何にも温かそうな湯気を立てる肉と野菜のスープと、サーカ大森林で収穫した柑橘系の木の実を添えた野菜のサラダを見ながら、ウルたちに感謝を告げる。


「野菜は多めだけど美味そうだな! じゃあ早速──」

「あっ、まって! まだふたりがおきてないから!」

「……お、おぅ。 そうだな……」


 そんな中、我先にと朝食に手をつけようとしたウルを止めた望子が、ぬいぐるみに戻っているハピと何故か魘されているピアンを指差して『待て(ステイ)』を指示した事により、ウルはピタッと止めて手を止めて木製のフォークを皿の上に置きつつ、ピアンの方を向き──。


「……おーい、ピアーン。 起きろー、朝だぞー」

「『おきて、とりさん』。 あさごはんできたよ」


 たまたま自分の近くで寝ていた事も、ウルが寝床を片さずにそのまま寝床を椅子にしていた事もあり、この中では最も距離的に近かった彼女の細い身体を揺すって起こそうとし、それを見届けた望子は重なって聞こえる声でハピを起こすべくぬいぐるみを覗き込み。


「ん〜っ、おはよう望子──……ってこれ二回目ね」

「ぇへへ、そうだね。 おはようとりさ──」


 煌々とした緑色の淡い光とともに、ぬいぐるみは次第に栗色の鳥人ハーピィの姿へと変わっていき、その変異が完了してからすぐ背伸びをしつつハピは朝の挨拶をするも、それが二度目だと気づき互いに笑い合っていた。



 ──まさに、その瞬間。











「──ひゃあぁああああっ!?」

「うぉあぁああっ!?」

「ひぇっ!?」


 視界の端の方から、どう考えても爽やかな朝には似つかわしくないピアンの悲鳴と、その悲鳴に驚いたのだろうウルの女の子らしさの欠片もない叫び声が響いてきた事に望子は驚き、ハピの後ろに隠れてしまう。


「……どうしたのよ一体、望子が驚いてるわ」


 そんな突然の事態にも驚いている様子のないハピが望子の濡羽色の髪を撫でつつ、『何事か』と問うと。


「い、いや、こいつが──……おい、大丈夫か?」

「あっ、あ、あぁ……?」


 ウルは、またも望子に叱られてしまうのではと考えたのか戦々恐々といった具合に吃りながらも、とにかく宥めない事にはとピアンに対し可能な限り優しく声をかけたところ、そのお陰か正気に戻ったピアンは。


「あっ、そっ、そうだ、そうだった……! お、おはようございます皆さん! ご心配おかけしましたっ!!」

「「「「……?」」」」


 自分の中で勝手に何かに納得したらしく望子たちに朝の挨拶をしたものの、あまりの挙動不審な変わり身っぷりに望子たち一同は首をかしげてしまっていた。


「……ま、まぁいいや。 みんな、ごはんにしよう? すーぷ、あったかいうちにのんでほしいし……ねっ?」


 その後、冷める前に食べようと望子が提案した事でウルもピアンも取り敢えず食事の席につき、しばらく食べ進めていた中で、ウルが突拍子もなく口を開き。


「──……なぁ、ピアン。 聞きてぇ事あんだが」

「ひぁ、はい……っ、何、ですか?」


 ただ単に声をかけただけなのに、ピアンの口から返事とともに漏れたのは明らかなる恐怖の感情で──。


(せっかく慣れてきてたのに……ウルがおどかすから)


 それを、ピアンの心音から看破していたフィンは脳内でのみ呆れつつ、フォークごと咥えながらもモグモグと新鮮な野菜や果物を美味しそうに頬張っていた。


「……いや、そんなビビんなくてもよ──……あたしは、ただ単に聞きそびれたなぁって思ってただけなんだよ。 あんな時間に、お前が独りで歩いてた理由を」

「あ、あぁそういえば……」


 その一方、出来るだけ声の圧を落としたウルが口にした、『ピアンが、あんな遅くに独りで居た理由』を聞きそびれていた件について、ピアンは『言い忘れてましたね……』と反省する様に耳をしなだれさせて。


「──……今、話してもいいですか?」

「うん、いいよ」

「ありがとうございます。 えぇとですね──」


 食事中の話題を自分の身の上話に切り替えても良いかと四人に問いかけたところ、これといって断る理由もなかった望子が了承した事で、ピアンが語り出す。


 何でも昨日、彼女は自分が見習いとして勤めている店の主に止められたにも拘らず魔道具アーティファクトの作成にも使える、『とある素材』の調達に出かけていたらしい。

 

 その『とある素材』とは、ドルーカの街を囲う様に広がるこの草原にて群れで生活する──『六角猛牛ヘキサホーン』と呼ばれる大きな牛型の魔獣の角の事であるそうで。


 ピアンが、その素材を求めて朝から散々探し回って夕刻前に漸く群れを見つけたまでは良かったのだが。


 いざ対面すると足が竦んでしまい、このまま引き返そうかと考えた瞬間に群れに見つかり、こうやって望子たちに出会う寸前まで追いかけられていたとの事。


 ほぼ一日中、自分よりも大きな魔獣の群れに追いかけられ続けていたと考えれば、ピアンの疲弊っぷりも何となく分かる様な気がした──そんな勇者一行は。


「ふーん、成る程ねぇ──……なぁピアン。 手伝ってやろうか? その……何とかいう魔獣の素材集めをよ」

「……えっ? で、でも──」


 四人を代表したウルの『素材集めに協力してやってもいい』という突然の提案に、ピアンは一瞬だけ嬉しそうな顔をするも、すぐさま『案内の約束をしましたし』と一行との約束を律儀に守ろうとしていた──。


「別にいいわよ? もしかしたら、それで触媒を作ってもらえるかもしれないし。 やる価値はあると思うわ」

「要は牛でしょ? 終わったら焼肉パーティーだね!」


 とはいえ、ハピは六角猛牛ヘキサホーンの角が魔道具アーティファクトの素材になりうると聞いた時点で力を貸す気でいたし、フィンはフィンで既に涎を垂らし牛肉に思いを馳せており。


「……ゆめにでてくるくらいこわかったんだよね? でも、もうだいじょうぶだよ! ね、『うさぎさん』!」

「……っ」


 そして望子もまた、ピアンの流麗な銀髪を優しい手つきで撫でながら、『わたしは、なにもできないけれど』と補足しつつ彼女を安心させる為に笑みを見せ。


 揃いも揃って息ぴったりに頼もしい言葉をかけてくれた事により、ピアンは軽く嗚咽を上げながら──。


「──……っ、ぁ、ありがとう……ありがとう、ございます……っ! よろしく、お願いします……っ!」


 綺麗な赤い瞳からポロポロと涙を零し、しなだれた耳と同じくらいに深く頭を下げて感謝を告げていた。


 そんなピアンを慰める様に望子とハピが彼女の銀髪を撫でたり、背中を優しくさすったりしている中で。


 ウルとフィンの二人はその輪に入らず、それぞれが抱く全く別の疑問に頭を悩ませている様だった──。











(──……こいつもぬいぐるみにならなかったな。 レプの奴だけが何らかの条件を満たしてたってのか?)











(──……牛、牛かぁ……じゃあ昨日の音は何だったんだろう。 どう考えても牛が走る音じゃなかったよね)

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