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愛され人形使い!  作者: 天眼鏡
第十二章
291/495

邪神の、邪神による、邪神の為だけの世界

 望子が喚んだ二体の半透明な有翼虫螻ビヤーキーに呑み込まれた瞬間、ウルとイグノールの姿はかき消えてしまい。


「──……き、消え、た……?」


 呆然としつつも目の前で起きた事実をカナタが呟くが、その呟きに対しての返答は一つとしてなく──。


「……望子? あの二人は何処に行ったの……?」

『え? えーっと──……うーん』


 その代わり──という訳でもないものの、この事態を引き起こした張本人である望子に対し、ハピが詳しい説明を求めるべくおずおずと尋ねたまではいいが。











『──……わかんない』

「「「えっ」」」


 未だに風の邪神ストラの姿を保ち、そのまま子供っぽい仕草で首をかしげる望子の他人事の様な返答に。


 ハピ、カナタ、ポルネの真面目組は驚いてというか呆気に取られてというか──それっぽい反応をする。



 そんな無責任な──などと責めるつもりはない。



 が、イグノールはともかくウルまで姿を消したとなると流石に放置しておくというのも不味い気がする。


『あっ、えっとね? どこにいるかはわかってるの。 でも、そのばしょのなまえがわかんなくて。 ごめんね』

「あ、あぁそうなのね。 それなら──……えっ?」

『ろーちゃん? どうしたの?」


 そんな三人の考えを決して明るくはない彼女たちの表情から察したのか、あわあわしながらも望子は『二人が何処へ行ったのか分からない』という意味ではなく、『行き先は分かるが名前が分からない』と釈明。


 それを受けたハピたちは『成る程ね』と納得し、だったら自分たちが気にする事ではないかと話を締めにかかろうとしたが、そこに割って入ったのはローア。


「……ミコ嬢。 その場所とやらの特徴は?」

『とくちょう? えーっと──』


 明らかに知的好奇心から薄紫の双眸を爛々と輝かせている彼女は、おそらく邪神を模倣した今の望子にしか干渉出来ない場所の特徴を問い、その問いかけを受けた望子は目を閉じてから脳裏に情景を浮かべ──。


『──……うみ』

「海?」


 たった一言、文字なら一文字で表記可能な大きな大きな水溜まりの名を口にし、それが『海』だと分かっていても念の為に『膿』ではない事を確認するべくローアが問い返すと、こくんと頷いた望子が口を開き。


『うん、うみ──……しかないの。 ずーっと、ずーっとうみ。 で、そこにおおかみさんといぐさんがいる』


 改めて、もう一度その脳裏に映る何処までも何処までも青く蒼く碧い大海原だけが広がる奇妙な光景を俯瞰視点で覗き込み、その大海原から少し浮いた状態でぽつんと空を飛んでいる二人の姿も在る事を伝えた。


「一面が海って事? いいなー、楽しそう」

「この船の外も海だよ?」

「もう飽きたんだよねぇ」

「あァ分かる分かる、この辺の海つまンねェよな」


 そんな望子の言葉を聞いて、『ウルやイグノールがどうなっているのか』とか『どうして海しか存在しないのか』とかではなく、フィン、キュー、カリマの能天気組が海そのものについて語らい合い出す一方で。


「……やはり、存在したのであるか……」

「……何か知ってるのね?」


 神妙に神妙を重ねた様な表情と声音を以て、ローアが何かを独り納得したかの如き呟きを漏らしていたのを聞き逃さなかったポルネが問いかけたところ──。


「……千年以上も前から、その存在自体は研究部隊リサーチャーでも考察を続けていたが……どうしても邪神の力がなければ解析はおろか干渉も出来ず半ば諦めていた──」


 ポルネの、そして一行の予想通りに彼女はウルたちが飛ばされた場所を封印される以前から知っており。


 ローアの古巣である研究部隊リサーチャーを纏めていた時も部下とともに研究対象としようとしたが、どうやっても自分たちでは存在を感知する事が出来ず、これなら他の研究に時間を費やした方が有益だと判断された──。


「──()()()()()()()()()()()()()()()()()

「せ、世界……?」


 まるで何処ぞの格言か何かであるかの様に彼女の口から称された、『世界』というあまりに大きな規模の話に思わずカナタが疑念を込めて呟くと、ローアはカナタのみにとどまらず全員の姿を視界に収めてから。



「うむ。 その名は──」



 その、『世界』とやらの名を──。


────────────────────────


 一方その頃、望子によって消された二人は──。



「──……ぅ、お、おぉ……っ?」


 突如、視界が黄緑色の光一色に包まれてからというもの、しばらく何も見えない状態だったウルの身に次に起こったのは、あまりにも唐突すぎる──浮遊感。


「っと……? おいおい、マジかよ……」


 当然ながら、その浮遊感はイグノールをも襲いはしたが、そもそも彼は下級とはいえ魔族である為、背中から生えた一対の羽を大きく広げてふわりと浮かぶ。


 その羽は他の魔族とは全く異なり、まるで龍の如き鱗が生えているものの、それ以外は普通の羽の様だ。


(此処は……()()か……? そうか、()()()()()──)


 更に、その薄紫の双眸に映る何処までも何処までも青く蒼く碧い大海原を見た彼は研究部隊リサーチャーの被験体となっていた間に噂で聞いた『邪神の世界』と、『さっきの望子の姿』という二つの情報を重ね合わせた結果。



 ……ローアと同じ結論に至っていた。



「う、海っ──ぅ、おあぁああああああああっ!?」

「あ? 何だ、うるせ──」


 翻って、いきなり襲ってきた浮遊感に抗いきれなかったウルは、その悲鳴の主を鬱陶しげに見遣るイグノールの視線の先でみるみる大海原へと落下していく。



 ……人狼ワーウルフなのだから当たり前ではあるのだが。



「……お前、飛べねぇのかよ……仮にも勇者の所有物なら飛行の一つくらい出来とけっての、ったく──」


 そんな彼女に対し、それこそ虫螻を見るかの様な興味なさげな視線を向けて、そこに追い討ちをかけるかの如く『それでも勇者の仲間か?』と純粋な疑問を抱きつつも意識を下に持っていき、その羽を広げるも。


「……っ、てめぇの手なんか借りてたまるかぁ!!」

「おっ? 何だ、やっぱ飛べんじゃねぇか」

「あ、当たり前だろうが!!」


 意地か虚勢か自尊心か──もしくは、その全てが収束したかの様な声音を以て叫んだ瞬間、ウルの両の靴底から真紅に輝く魔方陣が出現するとともに、まるで推進補助装置ブースターの代替であるかの如き直線状の業炎が放出された事で、どうにかこうにか落下だけは防いだ。


 それを見て、イグノールは『やれんなら最初からやれよ』とばかりに意識を大海原に戻したが、その言葉詰まりなウルの叫びを聞けば大体の事は分かる──。


(飛ぶ、っつーか浮いてるだけだがな……つっても前よりは制御出来てる気が──……これも神の力か……?)



 ……そう、これでも割と賭けだった様で。



 リエナとの修練の頃から何となしに『飛行』をイメージした魔術の草案はあったものの、どうにも上手くいかず諦めていたというのが、つい十日前までの話。


 植物を司る女神、ダイアナの加護を授かった今の彼女は、フィン程ではないとはいえ相当な実力を得ており、それこそ飛行もある程度可能になっていたのだ。



 その名も──『飛炎ひえん』。



「──……で? 何処だよ此処は」

「あ? あー……」


 その魔術を以てして浮遊し続ける事に成功していたウルは、やっとの事で『疑問を解消するターン』に移れるくらいには落ち着けた様で、この奇妙な場所は一体と彼に問うたところ、イグノールは髪を掻きつつ。


「俺も噂程度にしか知らなかったんだがよ、この世界にゃ四柱よにんの邪神が創造した(つくった)──『裏の世界』とやらがあるらしくてなぁ。 多分、此処がそうなんだろうぜ」

「……ミコが、邪神の姿になってたからか?」


 正直、確証はねぇ──と前置きしてから語り出した彼の話の中に出てきた『邪神』の存在に、ウルは半ば確信を持って望子が自分たちを飛ばしたのかと問いかけるも、やはりイグノールは『多分な』とだけ返す。



 無理もない、イグノールだって初めてなのだ。



 邪神の、邪神による、邪神の為だけの世界なんて。



「……ちなみに、名前とかあんのか? 此処は」

「あ〜……確か……あぁ、そうだ──」


 この様子だと聞くだけ無駄かもしれないが、それでも──と考えたウルが此処の名前を試しに尋ねてみると、そんな彼女の予想を良い意味で裏切って彼の記憶の奥底に眠る、その『世界』とやらの名を口にする。



 そして、今──。











「「──幻夢境ドリームランド」」



 生ける災害(リビングカラミティ)研究中毒者リサーチジャンキーの声が図らずも同調リンクした。



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