情報共有
それから望子たちは、お互いに情報を共有し──。
望子は、イグノールとの和気藹々とした食事や実戦以上に激しい手合わせ、そして何より彼から譲り受けた龍化と腐化という二つの超級魔術の事を話した。
尤も魔術についての説明は望子には少し難しかった為、知能を取り戻したイグノールが詳細を伝え、どうにも分かりにくい部分はローアが補足する形を取り。
偉いね、凄いよ、流石です──などといった亜人族たちによる止めどない称賛の嵐が望子に注がれる中。
それが終わると、フィンとも僅かに面識のあるフライアが──あまりの変貌っぷりで、すぐには分かってもらえなかったが──この場所には望子を迎えに来たのだと明かしつつ、されど本音としては望子に危険な目に遭ってほしくはないと真摯な態度で正直に告げ。
望子を連れていく──その一点だけは絶対に許せないフィンとレプターが女神の加護で更に圧を増しに増した覇気を纏う一方、カナタだけは俄かに息を呑む。
自分と全く同じ想いをフライアが抱いていたから。
その薄紫の双眸が、嘘をついていなかったから。
今のフライアには、どれだけ甘く見積もっても中級と同程度の力しかなく、この中で最も弱いかもしれないファルマにも劣りかねない事からも、フィンを始めとした絶対強者たちの覇気に思わず身体を震わせる。
実を言うと、ファルマも勇者一行のついでに植物の女神の加護を受けており、そこまで優れている訳でもなかった彼女の治療術は、ダイアナ譲りの植物を素材とした毒にも薬にもなる万能な力へと進化を果たし。
加えて、カナタには劣りこそすれ神力までもを獲得していた為、神官としての格も相当に高まっていた。
流石に魔王討伐の旅に同行出来るレベルには到達していないが、それでも元より中級のヒューゴや中級以下まで堕ちたフライアであれば勝てる可能性もある。
ファルマか、フライアかなど議論する必要もない。
この場で最弱なのは間違いなく──フライアだ。
……だからだろうか。
勇者一行で自分が最も力も意志も脆弱な存在だと自覚していたカナタだからこそ、フライアの本音を誰よりも信じ、そして誰よりも理解出来てしまったのだ。
望子という小さな勇者を、もし可能ならば戦いの場から遠ざけてしまいたい──そう思っているのだと。
しかし、そんな彼女の葛藤など知る由もない一行を代表し、この中で最も頭も口も回るローアが望子と離れた後の一週間で起きた出来事を詳らかに語り出す。
イグノールに敗れた後、メイドリアという名の漁村の民に介抱してもらった事、遠視持ちの村長と真偽持ちの男性に召喚勇者一行であると明かした事、キューの進化を促しフィンを魔族の呪縛から解放する為に女神が座していたという滅びた森を訪れていた事──。
そして、何より──。
「──……そっか、めがみさまにあったんだ」
「うむ。 貴重な経験であったよ」
ダイアナ──という名前には当然ながら聞き覚えはなかったものの、お気に入りだった絵本に女神なる存在が記されていた事からも望子は概ね一行に起きた出来事を理解しており、そんな望子による締めの言葉を肯定する様にローアは長い銀髪を揺らして首を振る。
「……っ」
一瞬、望子は何かを言いかけたものの──。
「……いるかさん、とかげさん、かなさんがつよくなったのも……きゅーちゃんがおとなになったのも、めがみさまのおかげってことだよね? すごいなぁ……」
「ふふん! 何たって、キューのお母さんだからね!」
すぐに気を取り直してから、フィンやレプター、カナタたちが一週間前よりも更に強くなっている事、キューが大人に──というか神樹人へ進化した事が全て女神の加護のお陰なのだと再確認しようとし、そんな望子をあすなろ抱きにしているキューが母親と言っても過言ではないダイアナの凄さに得意げになる一方。
「……おかあさん、かぁ……」
お母さん──もう数ヶ月以上も離れ離れになっている最愛の母を思い返し、しゅんとする望子だったが。
「……あれ? ろーちゃんは? つよくなってないの?」
「あぁ……それは──」
ふと、この中で唯一これといった変化が見られない者に──ローアに違和感を抱いて尋ねると、ローアは僅かに苦笑して頬を掻き、その理由を語らんとする。
「そりゃ無理ってもんだぜ、ミコ。 そいつは結局、俺らと同じ魔族だからなぁ。 女神に好かれる筈もねぇ」
「そ、そうなの?」
「……まぁ、その通りであるな」
しかし、そんなローアよりも先に口を開いたのは彼女と同じ魔族のイグノールであり、それが分かりきっていた彼の『魔族だから』という至極単純な理由を聞いた望子が顔を向けたところ、ローアは簡単に首肯。
そんな彼女を見た望子は、ほんの少しむっとして。
「……わたしは、ろーちゃんのこと──すきだよ?」
「っそ、そうであるか……まぁ、それはさておき」
ローアの薄紫色の双眸を、その吸い込まれそうな黒い瞳で見つめつつ、さも真剣な愛の告白であるかの様に純粋な好意を伝えた事により、ローアは珍しく褐色の頬をほんのり赤く染めて照れていたが、すぐに咳払いしてから気を取り直して話題を逸らさんとする中。
((ひえぇぇ……))
カナタとファルマ、神官二人は怯えに怯えていた。
何故なら、そんな幼女二人の尊いやりとりを見て。
「……っ」
イグノールと並び、この場で間違いなく最強と言って差し支えない人魚がローアを睨みつけていたから。
確かな敵意と、そして殺意を抱いて──。
「ここにおらぬ、ウル嬢たちの事であるが──」
そんな嫉妬と激情の化身をよそに、ローアはこの場に居合わせていないウル、ハピ、カリマ、ポルネの事を情報共有の締めに持ってくるつもりだったらしく。
「う、うん……ろーちゃんの……あの、ものをいれるまじゅつのなかにいるの? それとも、いっしょにはきてないの? だったら……むかえにいってあげないと」
「心配は無用であるよ、ミコ嬢。 さて──」
それを聞いて居ても立っても居られなくなった望子が話を遮り、そしてキューの腕の中から離れてローアに近寄ってまで矢継ぎ早に問うも、そんな望子を落ち着かせるべくローアは望子の頭に優しく手を置いて。
「『我が声に応じ、その口を開け』──虚数倉庫」
「……!」
もう片方の手を何もない空間に伸ばし、その小さな口から詠唱を紡ぐとともに魔力を込めると、つい先程まで何もなかった筈の空間に穴が空き、ちょうど人形が通るくらいの大きさになったところで、ごそごそと亜空間を漁っていたローアが四つの人形を取り出す。
赤毛の狼、栗色の梟、白色の烏賊、桃色の蛸。
「……よかった、おおかみさんたちもぶじで……」
ローアから四つの人形を──ぬいぐるみを手渡された望子が、さも本物の家族との再会であるかの如く嬉しそうに涙を流しながら、ぎゅっと抱きしめる一方。
(……何でもないかの様に、あんな高等な魔術を……)
完全に蚊帳の外となっていたヒューゴは、ローアが何気なく行使した虚数倉庫に目を奪われていた様で。
何せ魔族の中でも虚数倉庫を扱える、また扱えたのは消失した魔王軍幹部筆頭ラスガルドと、その幹部たちを纏める立場にもあった魔王の側近デクストラ、そして魔王コアノル=エルテンスという強者揃い──。
今一歩間違えれば異界にも手が届きうる──そんな超難易度の魔術を簡単に行使してみせるローアは、やはり異端中の異端だとヒューゴが改めて認識するも。
「……あれ? おおかみさんたちは、めがみさまのちからでつよくなってないの? ぬいぐるみの、ままだし」
「……ふむ……」
無論そんな彼の考えなど知る由もない望子が、ウルたちがぬいぐるみのままのという事はローアと同じく女神の加護を受けていないのではと幼いなりに考えついたらしく、それを受けたローアは少し唸ってから。
「……分からぬが……一切の変化がないという事はない……と思うのである。 フィン嬢たちが加護を受ける際には、ウル嬢たちも虚数倉庫から出していたゆえ」
「……私も、そう思うわ。 あの時、人形たちも黄緑色の神々しい光に包まれていたもの。 きっと何か……」
「そっ、か……」
自分の目で確認していない以上、滅多な事は言えないとはいえ聡明なローアは『全く何も起こっていないとは思えない』と推測し、その推測を後押しする様にカナタが人形たちを包み込む黄緑色の光について言及した事で望子は納得し──その後、何故か少し俯く。
(……それでも人形から亜人族に変化しなかったという事は、ダイアナの力が勇者の力に劣っていたからに他ならぬ。 そしてこの事実は、あの女神程度では──)
一方、推測を話し終えたタイミングで望子と同じく少し俯き顎に手を当てたローアは、ダイアナの加護をウルたちが受けていたと仮定した時、何故この人形の姿が解除されなかったのかという事を考えていたが。
それは、おそらく弱っている事もあろうが望子の勇者としての人形使いの力に、ダイアナの神力が劣っているという何よりの証拠であると確信していた様だ。
もし劣っていなかったのなら、この人形の姿から完全な亜人族の姿へと上書きされても不思議ではない。
と、そんな風に確信めいた推測を立てていたから。
翻って、ローアと時を同じくして俯いていた望子が顔を上げて、ゆっくりと口を開いたかと思えば──。
「──じゃあ、そのめがみさまは……わたしを、おかあさんのところににかえしてはくれなさそうだよね」
「!」
「ミコ様……」
どうやら、この僅か八歳の少女はローアと全く同じ推測を立てていたらしく、ダイアナという女神では自分を元の世界には戻せなさそうだと残念がっており。
それを耳にしたローアが望子の賢さに目を見開いて舌を巻く中、勇者としての望子を誰より敬愛しているレプターは望子の意志が薄まったのかと危惧したが。
「あっ、だ、だいじょうぶだよ! もし、もどれたらうれしいなとはおもったけど……でも! ちゃんと、まおうをたおすってきめたから! そうだよね、みんな!」
それすらも即座に察してみせた望子は、あたふたしながらも勇者として魔王を討伐する意志は変わっていないと主張しつつ、その意志を改めて一行にも問い。
「は、はい……っ! どこまでもお供します!」
「勿論だよ! ボクはみこの物だからね!」
「はいはーい! キューも頑張るよ!」
「私も精一杯、力を尽くすわ」
そんな望子の真剣な表情を見た一行は、それぞれが決意に満ちた声を以て望子に呼応し、その目的意識に一切の曇りがない事を皆で共有する事が出来ていた。
「──へへ、いいじゃねぇか。 あん時、俺に負けて気落ちしてるかと思ってたが……お前らぐらいの大戦力がありゃ、あいつにも……魔王にも勝てるかもなぁ」
「……その事だが」
「あん?」
一方、勇者一行に確かな魔王討伐の意志を垣間見たイグノールは愉しそうに、『そこに俺が加わりゃ魔王討伐も夢じゃねぇ』と口を歪めていたものの、そんな彼の言葉に水を差したのは懐疑的な表情のレプター。
「……ミコ様、本当に生ける災害を──イグノールを同行させるのですか? その男は紛れもなく魔族で、おまけに魔王軍幹部。 ローアの同行を許している時点で何をと思われるかもしれませんが……私は反対です」
「ぇ、で、でも……っ」
どうやら、レプターは望子の話を聞いても──望子が嘘を言っていないと信じているが──既に仲間として認めたローアはともかく、イグノールの同行だけは許す訳にはいかないという思いが強い様で、その主張を受けた望子は彼女の言い分も分かる為、葛藤する。
何しろ、レプターを始めとした一行はイグノールに敗北し、その結果として望子を連れ去られたからだ。
このままじゃ、また──そう望子が弱っていた中。
「……ミコ嬢、ウル嬢たちを亜人族に。 ここは──」
何か妙案でもあるのか、ローアが望子に対して人形たちを亜人族にと指示を出したところ、ローアに次いで聡明となっていたキューが『あぁ』と心得て──。
「──多数決、って事だね?」
「うむ」
「い、いいけど──」
ほぼ確信とも言える、ローアからの提案を先読みして口にした彼女に、ローアは特に表情や声音を変える事なく首肯してみせ、そのやりとりから何となく彼女たちのやりたい事を察した望子は人形を地面に置き。
「──……けんかだけは、やめてね?」
可愛らしく微笑みつつ、そう釘を刺したのだった。
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