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愛され人形使い!  作者: 天眼鏡
第七章
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牢屋敷前の合議

 望子たちと合流した三人に対して、原因たるハピが先程の黄緑色の光について簡素に説明すると──。


「あの光はそういう……まぁ、あんたたちは色々規格外だからねぇ。 別に驚きはしないけど」

「ははは! 確かに──ん? どうしたグレース、随分と顔色が悪ぃ気がするが……」


 かたやファタリアは大して表情も崩す事無く葉巻をふかし、かたやオルコは自分が驚いてしまっていた事を棚に上げつつ高笑いしていたが、彼女がふと目線を下に遣り、やたら静かなグレースに目を向ける。


 すると、当のグレースはひたいに手を当て溜息をつき、呆れの感情を隠そうともせずに口をひらいた。


「……それはそうでしょうね。 何せ、皆さんやあの二人が邪神と……話でしか聞いた事の無い存在と接触してて、挙句その一角を討伐していたなんて……正直言って、私の理解の許容範囲をとうに超えていますよ」


 彼女はこの中で唯一、望子たちやカリマたちが邪神に遭遇していたという事実を知らされていなかった事を愚痴の様に漏らしてしまっていた。


「ごめんなさいね。 貴女にも話しておくべきか迷ってはいたのだけれど、余計な心配ごとを持ち込む必要は無いんじゃないかって思ったのよ」


 そんな中、思い切り当事者であるハピが望子の黒髪を撫でながらそう言って軽く頭を下げる。


「……そのお気遣いは大変嬉しいのですけどね。 まぁいいです。 本題に移りましょう」


 それよりもとグレースは彼女の謝罪を手で制し、話題を切り替えるべくその場の全員を見回した。


 全員の目が自分に向いた事を確認したグレースは、いかにも町長然とした精悍な表情を湛えて──。


「結論から言っておきます。 私は、先程フィンさんから聞いた提案に賛成は出来ません」

「……町長だから?」


 フィンの飛声とびこえにて執務中の彼女の耳に届いた無計画の提案を否定し、それを受けたフィンは、責任ある立場だからかと彼女を青い瞳で射抜き、問いかける。


「それもありますが……海賊たちの犠牲になった方たちの中にはショストの住民も含まれています。 そちらの……カナタさんでしたか? 貴女を始めとした神官の方が海霊ネビルを天へと還して下さったそうですが、それでも遺された方たちが報われる訳ではありません」

「……だから処刑すべき、か」


 一方のグレースはフィンの言葉を肯定しつつも、自分は町長である前に一人のショストの住人であり、遺族の事を考えるのなら生かしておく選択肢など無いのだと告げた事で、その気持ちは分からないでも無いレプターがうんうんと頷いていた。


 ──それもその筈、ドルーカの街にて望子を揶揄した挙句ウルとの決闘に敗北し、一月以上も喪失状態にあった冒険者たちを殺そうとした過去があるからだ。


「……とまぁ、ここまで語りはしましたが、私は単なる非力な人族ヒューマン。 貴女たちが意思を貫かんとするのなら私にはそれを止めるすべがありません。 ですから──」

「……俺らに、委ねるって? ずりぃなお前は」


 そんな折、自分の意見を語り終えたグレースが、ふぅと息をついたかと思えば突然自嘲気味に苦笑し、さもお手上げだという様に両手を肩の辺りまで上げてファタリアとオルコを見遣ると、それで察したオルコがおずおずと彼女に問いかけると──。


 ──当のグレースは、お願いしますと頷いた。


 その後、オルコがうんうん唸って思案する一方、ファタリアは紫煙をくゆらせつつあっさり口をひらく。


「あたしは別にどっちでもいいよ。 前にも言ったと思うけど、あたしはこの町に来て日が浅い。 ショストにも住人たちにも大して思い入れは無いからね」


 興味も無さそうに空中で胡座をかきながら、以前もウルたちに話した、自分がこの町のギルドマスターとして就任させられた理由を思い返してそう語った。


 それを受けたオルコは、組んでいた腕を解きつつも渋面を湛えたままの表情で望子たちを見つめる。


「俺は……本音を言うなら、あいつらに生きていて欲しくねぇ。 欲しくはねぇが……他でも無いこの町の恩人のお前らが言うんなら、受け入れねぇ訳にも……」


 グレースとほぼ同じ様に正直な主張を口にしながらも、お前らに感謝しているというのも事実なんだよなと告げると、ファタリアと違って真剣に悩んでいるのだろう事が理解出来たウルたちも、本当にこれでいいのかと思考の海へと飛び込みそうになってしまう。


 その時、こほん、と随分わざとらしい咳払いが辺りに響き、全員がそちらへ目を向けるやいなや──。


「で、あれば。 取り敢えずくだんの二人をミコ嬢が人形パペットに出来るかどうかを試してみるのはどうであろうか」

「え……?」


 その咳払いの主であり、いつの間にか望子の隣に立っていたローアがニヤリと笑って提案するも、当の望子は要領を得ていないらしく首をかしげていた。


「あぁ、それいいかも。 ぬいぐるみに出来たら連れていく。 出来なかったら……って事で。 どうかな?」


 一方、それを聞いたフィンはうんうんと頷いて、彼女の提案に補足する形で三人に確認する。


「あたしはそれでいいよ」

「まぁ……俺もいいぜ」


 ファタリアはあっさり、オルコは若干渋ってからフィンとローア合同の提案を了承してみせた。


 そして、全員の目がグレースに向いた事で、彼女はこの状況で否定は難しいかと判断したのか──。


「……分かりました。 私はそちらの……ミコさん、でしたか。 貴女の力を直接見てはいないので、何とも言えませんが……とにかく、入りましょうか」


 目の前にいる黒髪の少女が人形使い(パペットマスター)だという事は聞いていたものの、本当に聞いていただけだった為、やってもらおうじゃないですかとばかりにそう口にしつつ、牢屋敷の扉の方へ向かっていった。


「っし、じゃあ行くかミコ……ミコ? どうした」


 全員が彼女に続いて牢屋敷へと向かう中、何故か望子がその場に立ち止まっている事に気がついたウルがきょとんとした表情で問いかける。


「……ぇ、あ、う、うん」


 彼女の言葉でハッと我に返った望子は、繕った様な笑みを浮かべて返事をして、首をかしげながらも自分を待ってくれているウルについていくが──。


 ──望子は、今更になって悩んでいた。


 望子の知る『海賊』とは、お気に入りの絵本の中に登場する柔らかなタッチで描かれた、悪者ではありつつも何処かひょうきんな者たちの事。


(……そんなに、わるいひとたちなの?)


 八歳である望子でさえ!誰かが死んでしまっているのだという事は理解出来ていた為に、もしかしたら今から会う海賊たちは思っている以上に悪い人なのではないかと考えてしまっていた。


 ──だとしたら。


(ぬいぐるみにできる、のかな……?)


 仲良くなってないと駄目なのではと自分なりに推測していた望子は、小さな胸に不安をいっぱいに詰め込んで、グレースがひらいた扉の向こうへと歩を進める。

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