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愛され人形使い!  作者: 天眼鏡
第六章

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帆船に乗るぬいぐるみ

「青い空、白い雲……で、青い海! 船旅っぽいね!」


 港町を離れてしばらく経った頃、船首の近くでふわふわふわ浮いていたフィンがぐーっと背伸びしつつ快晴の空を見上げ、海賊が巣食っているとは思えない程に穏やかな海を覗き込んでそう言うも──。


「ぽいも何も初めてだろ」


 干し肉をガジガジと齧りながら、何言ってんだお前はと心底興味無さげにウルが口を挟んできた。


 瞬間、先程までの晴れやかな表情は何処へやら、フィンは一気にげんなりした様子を見せる。


「……いやまぁそうなんだけどさぁ。 何て言うんだろう……おもむき? 情緒? みたいなの無いの?」

「ねぇよそんなもん」


 ボクもよく分かんないけどと付け加えてからジトっとした視線をウルに向けたが、そんな彼女の睥睨へいげいなど何処吹く風という様にウルは残りの干し肉を一口で頬張り、ペロッと舌を出して形の良い唇を濡らした。


「……ねぇハピ! ハピなら分かるよね!?」


 一方、納得のいかないフィンが少し上を向いて、大きな白い帆の張られた船檣マスト付近で風を読み、扱いに慣れがいるという操舵輪に頼らずとも常に追い風となる様にしていたハピに声をかける。


「……? 何か言ったかしら」

「聞いてなかったらしいな、船動かすのに夢中で」

「くうぅ……味方がいない……」


 しかし、帆船の操舵は風が命だとオルコから聞かされていたハピは一切彼女たちの無駄話など聞いておらず、それを見抜いたウルは半笑いでそう告げる。


 出発から一刻いっこく、既に望子が恋しくなっていたフィンは悔しげにぎゅっと唇を噛みつつも、さっさと終わらせて帰ろうと密かに決意していた。


「何話してたのか知らないけれど……少しは緊張感持ちなさいな。 縄張り、近いんじゃないの?」


 そんな彼女たちの元へ羽音を全く立てずにふわっと降り立ったハピが、深く溜息をつきながら心底呆れ返った様子で二人に話しかけつつ、一番思慮深そうだからという理由で渡されていた海図を広げると──。


「あー、そうだな。 確か……もう少し進むと無人島があって、その近くまで縄張りが広がってるらしいぞ」


 ウルはオルコから聞いていた目印についてそう口にしつつ、遠くを見る為か片手を目の上に添えた。


「あぁ、あの島の──あら?」

「ん? どうした」


 その一方で、小さくではあるがその眼で島の姿を視認出来ていたハピは島の方角へ光る眼を向けて呟こうとしたのだが、何故か彼女は途中で言葉を止めて首をかしげてしまい、それに違和感を覚えたウルは覗き込んだ彼女の顔と青い海を交互に見遣って問いかける。


「……フィン、ちょっとこっちに」

「え、なになに? 何か見つけたの?」


 だがハピは、そんな彼女の問いかけには答えぬままにウルでは無くフィンの方を呼び寄せ、呼ばれた彼女は興味深そうにウキウキとハピの元へ泳いでいき、ハピが指差す──島があるのだろう方角へ目を向けるとフィンもまた彼女と同様に、あれ? と首をかしげてその口を閉じてしまっていた。


 彼女が自分と同じくその現象に気がついたのだろうと理解したハピは、こくんと首を縦に振る。


「気づいたみたいね。 あれ、どういう事だと思う?」


 風による操舵を一度中断しつつ、緑色と黄色の瞳を妖しく光らせ海を見遣って意見を求めたのだが──。


「んー……分かんない。 でもさ、あれが原因なんじゃない? 海賊たちが悪さを続けられるのって」


 少しばかり唸ったフィンは、ボクに聞かれてもねと首を横に振りながらも、彼女なりに思いついた推測を口にして、どうかな? とハピに尋ね返す。


「私もそう思うわ。といっても……何でああなってるのかが分からないんじゃ意味が──」


 ひるがえってハピが首をゆっくりと縦に振って彼女に同意しつつも、結局詳しい事は何一つ分かっていないという事実に辟易へきえきしていたそんな時──。


「……なぁ、さっきから何の話してんだ?」


 完全に蚊帳の外になっていたウルが悩める二人の間に割って入る様に口を挟むと、ハピとフィンは互いにきょとんとした顔を見合わせ首をかしげてしまう。


 首をかしげた理由としては、何で話についてこれてないの? と思ったからであったのだが──。


「……あー、そっか。 ウル見えてないんだっけ」


 その理由に心当たりがあったフィンが、ドンマイと口にして慰めと──何なら憐みまでこもっていそうな表情で、彼女の肩を軽めにポンポンと叩く。


「は? 見えないって──もしかしてあれか? あの……海精霊ネレイスとかいうやつの……」


 ウルはそんな彼女に若干イラッとしつつも、見えないというワードに、先日波打ち際で自分とローア以外には見えていた精霊の名を思い出していた。


「えぇそうよ。 実はね? あの島の向こう……っていうより、島の手前から既に海精霊ネレイスが全く見えないの。 今この船の周りには結構な数がいるのに」


 そんな彼女の言葉を受けたハピは至って真剣な表情で頷きながら視線を海へ向けて、ウルには見えてないとは分かっていつつも情報の共有はしておこうと考えて、島のある方角を指差して告げる。


「ボクにはまだ島は見えてないけど、何かこう……ぐるっと囲うみたいに精霊たちがいる場所といない場所が分かれてて、あの辺に近寄りたくなーいって言ってる感じ……かな? 分かんないけどね」


 その一方で、ハピ程の視力は無い為か島は大して視認出来ていなくとも、海精霊ネレイスたちの妙な動きはハッキリ見えていたフィンが彼女の説明を補足した。


 事実、波に揺られる海精霊ネレイスたちは線を一本引いたかの様に島とその向こう側に近づこうとしていない。


「……ほーん。 あ、そういやファタリアが何か言ってたよな。 何だっけか、神がどうのこうのって」


 されど、それが見えていないウルは二人の説明を理解しているのかいないのか分からないそんなふわっとした反応を返していたのだが、その時ふと葉巻を咥えた妖人フェアリーのギルドマスターの名を挙げて、彼女が口にしていた憶測を思い出してそう言った。


「『神、或いは神に近いものの加護を得てる』かもって話だったわね。 それが原因だと?」


 勿論、それについてはハピもその場に居合わせて直接聞いていた為、思い出すまでも無くファタリアの言葉をなぞりつつ彼女へ問いかけたものの──。


「さぁな。 そもそもあたしにゃ見えねぇんだし、聞かれても分かんねぇよ。 とりあえず行ってみようぜ」


 結局のところウルとしても確かな事は何一つ分からず、ゆえに滅多な事は言えないと判断してひとまず現場に向かう事を二人に提案する。


「そうだね。 どのみち海賊は倒さなきゃいけないんだし、精霊うんぬんは後回しでいいんじゃない?」

「……まぁ、そうかもね。 そうしましょうか」


 それを受けたフィンはうんうんと頷き彼女の意見に賛同し、未だに軽く俯いて浮かない表情で思案しているハピに対してニコッと笑みを向けると、二対一となっている以上、特に否定する理由も無い為かハピは苦笑いでそう答えて再び操舵へと戻っていった。


(……また邪神だなんて、思いたくも無いのだけれど)


 ハピは左手で風を操り自身の黄色い右眼を右手で覆いつつ、無事に終わります様にと脳内でそう願いながら、深い深い溜息をついたのだった。


 ──そんな右眼の黄色い輝きが少しずつ、本当に少しずつその強さを増している事に……ウルたちは勿論、彼女自身も気がついていない。

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