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愛され人形使い!  作者: 天眼鏡
第五章

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龍人との野営

「──ぅ……っ!」


 カナタが突然の龍人レプターに驚き意識を喪失してからしばらくの後、彼女は漸く目を覚ました。


(ここ、は……っそうよ、私あの時……)


 彼女は自分が倒れてしまった事を思い返し、下に敷かれた布と身体に掛けられていた外套がいとうに気づいて、きょろきょろと辺りを見回そうとした時──。


「──ん? あぁ、目覚めたか」

「!? ひゃあっ……!」


 焚火にくべる薪でも探していたのだろう、太めの枝を何本か抱えたレプターが森の奥から戻って来て、それを見たカナタは再び過剰なまでに怯えてしまう。


「……そこまで怯えなくとも、私は何もしない。 何故いきなり倒れてしまったのか、何故そんなにも怯えているのか……聞きたい事は多々あるが──」


 そんな彼女の様子を見たレプターは溜息をつき、カナタにギラリと鋭い視線を向けながらも──。


「まずは……そうだな、改めて自己紹介をしよう。 私はレプター=カンタレス、王都セニルニアにて駐屯兵を務めていた龍人ドラゴニュートだ。 以後よろしく」

「……! 王都の、兵士……」


 おそらく先程の自己紹介は上手く伝わっていないだろうと踏んで、もう一度自分の名前と、つい最近まで自分が就いていた職を簡単に伝えて一礼した。


 ……『兵長』だと言わなかったのは、彼女なりに余計な諍いを招かない為に決めていた事だった。


(それなら私を知ってても……でも、そんな風には)


 レプターの自己紹介を耳にしたカナタは驚きつつも何とか平静を装っていたが、聖女という王都に住まう者なら誰もが知っている筈の自分を知らないという事実に若干だが違和感を覚えてしまう。


 ちなみに、カナタがレプターを王都の兵だと気がつかなかったのは、彼女が殆ど王宮からの外出許可をもらえなかったのもあるし、何よりレプターが王国の紋章が刻まれた腕甲を外していたからというのもある。


「貴女の名も聞かせてもらえるとありがたいのだが」

「え、えっと、その……」

「……」


 そんな彼女の心情などよそにレプターはカナタにも自己紹介を促してくるも、正体を明かすべきか、いや知らぬのなら知らぬままで良いのでは、と脳内で論争を繰り広げるカナタに、何故かレプターは首をかしげるでもなくただ彼女を見つめるだけ。


 その時、レプターの後ろから、コポコポと誰が聞いても湯が沸いたのだと分かる音が聞こえてきた。


「おっと……そうだ、空腹ではないだろうか? 見たところ随分やつれている様だし、保存食で良ければ、だが。 貴女の話を聞くのはそれからでも良いだろう」

「っ……そ、そうね。 ありがとう、頂くわ……」


 それに気づいたレプターがそんな提案をすると同時にカナタのお腹が、きゅるっと可愛く鳴った事で、彼女は少し……いや、かなり恥ずかしそうにしながらもレプターの提案を受け入れたのだった。


 用意された硬めの黒パンと、干し肉と乾燥豆のスープを口にしつつ、カナタは自分の名と聖女である事を隠し、『偶然立ち寄った王都で沢山の怪我人を見て放っておけなくなった旅の神官』だと偽る事にした。


「……そうか、王都で怪我人の治療を……私は不器用だから、怪我人の手当てには加わらなかった……というより加われなかったんだ。 感謝する、旅の神官よ」

「い、いいえ……あの……レプター、でいいのよね? 一つ聞いてもいいかしら……?」

「ん? ……んぐ。 あぁ、何だ?」


 レプターは感心したといった様にうんうんと頷いてからパンをスープに浸してひと齧りし、やっぱりバレてはなさそうねと安堵したカナタが本題を切り出そうと控えめに尋ねると、レプターは口に残っていたパンを咀嚼し、スープと共に飲み込んだ後で反応する。


「私は、その……十日と少しで王都を発ったのだけれど、その後王都はどうなったの? 噂じゃあ、王はもう亡くなられたとか……」


 ──王は彼女の目の前で亜人ぬいぐるみたちに惨殺されている為、そんな事を聞く意味は無いかもしれない。


 だが、彼女は聖女であり、王はともかく、民が、国がどうなったか……それだけは知っておきたかった。


「何故それを……と言いたいところだが、既に噂となっているのなら仕方ないな。 これは本来機密事項(コンフィデンシャル)なのだが……今の私は兵士でも何でもない。 規律を遵守する必要も無いだろう──」


 するとレプターはカナタを一瞬黙って見つめていたが、ふぅと重い息をついて首を横に振り──。


「まず……王は既に身罷られているし、おそらくは宰相……及び臣下たちも、もうこの世にいまい。 そのどれも、私は直接確認した訳では無いのだがな」

「っ、そう、なのね……」


 そう語り出した彼女の言葉に、カナタはレプターに見えない位置で拳を口惜しげにぎゅっと握りしめる。


(やっぱり、宰相様も……あの三人がやったのかしら。それじゃあ王都は、いやこの国はもう……)


 無論、王や臣下の死に遺憾の念を感じていた訳ではなく、宰相ルドマンの死によって王都を、王国を纏められる存在が消えた事を悔いていたのだが──。


 ──次の、瞬間。


「貴女は……知っていたのでは? 『聖女カナタ』」

「!?」


 突然、自分の事を知らないと踏んでいた目の前の龍人ドラゴニュートに名を呼ばれた事に驚いたカナタは、思わず持っていたスープをカランと落としてしまう。


 だが、当のレプターはそんな事には目もくれず。


「──やはり、そうなのだな? 貴女があの方を半強制的に喚び出した張本人……! 幸運にもあの方には三人の仲間がいたから良かったものの、そうでなければあの方は……『ミコ様』は今頃たった一人で……!」

「え……!?」


 さも怒りを堪えるかの様にギリっと歯軋りをして、その鋭い眼光を萎縮するカナタに向けてみせた。


(……ミコ、()? まさか、あの子が勇者だと知って)


 その一方で、記憶にあるあの少女に様付けをするレプターに、何故あの子の事を知って、そして勇者だと知っているのと聞こうとしたカナタだったが──。


「──その話、私にも詳しく聞かせてくれる?」

「「!?」」


 突如、森の奥から聞こえてきた妖艶さを思わせるその声に二人はほぼ同時に反応し、かたやカナタはあたふたと辺りを見回して、かたやレプターは腰の細剣レイピアに手をかけいつでも応戦出来る様に臨戦態勢をとる。


 ──だが、そんな彼女たちの反応よりも早く、二人の身体に細い何かが絡みつこうと飛んできた。


「え……ひゃあっ!?」

「これは……っ! 蜘蛛の糸か!?」


 殆ど自衛の手段を持たないカナタは、あっというに簀巻きにされてしまったが、一方でレプターは左腕に巻き付かれるだけで済んでおり、その細い何かを視認するやいなや、そう口にしつつ細剣レイピアで切断する。


 その時、森の奥から何者かがゆっくりと彼女たちに近づいて来ている事に気がついたレプターが、カナタの角灯ランタンを手にそちらを照らすと──。


「──蜘蛛人アラクネ、か……? 何のつもりだ!」


 そこには、上半身が人族ヒューマン、下半身が蜘蛛の姿をした亜人族デミ、混血の蜘蛛人アラクネが立っていた。


「あの子の……ミコちゃんの名前が聞こえたから。 貴女たち、あの子の何を知っているのかしら……場合によっては、ここで止まってもらう事になるわよ」


 何故? とレプターの問いを反復する様に首をかしげた蜘蛛人アラクネは、あぁと声を上げて、切れ長の二つの目と、その周りについた六つの小さな目をギラリと妖しく光らせながら彼女たちを威圧する。


 だが、カナタはともかくレプターは今や龍人ドラゴニュート


「私は……あの方を、ミコ様を追いかけているんだ! ミコ──ちゃんなどと呼んでいるのだから、あの方と親しいのだろう? 今は少しでも情報が欲しい! ミコ様の力になる為にも!!」


 そこらの亜人族デミの威圧で怖気付こう筈も無く、『ミコちゃん』と呼ぶのは失礼だと思ったのか若干言い淀みはしたものの、高らかな声でそう宣言し、頼む! と出会ったばかりの蜘蛛人アラクネに頭を下げた。


「……それを、信用しろと言うの? なら……その力とやらを示してみなさいな、龍人ドラゴニュート


 とはいえ、蜘蛛人アラクネとしても目の前の龍人ドラゴニュートの言う事を簡単に信じる訳にもいかない。


 鋭い爪を有した右手に糸を巻き付けたかと思うとそれは大きな弓の形となり、もう片方の手をかかって来なさいとばかりにクイッと動かしてそう告げる。


「……! 望むところだ! あの方から授かった力……今こそ見せようじゃないか!」


 するとレプターはカチンと来たのか一瞬だけギシッと細剣レイピアつかを握りしめたが、すぐに細剣レイピアの先を蜘蛛人アラクネに向けた事で、亜人族デミ同士の戦闘が確定してしまった。


(どうしてこんな事に……!)


 完全に蚊帳の外となってしまったカナタがそう考えてしまうのも無理はないだろうが、それもこの蜘蛛人アラクネの境遇を思えば仕方の無い事かもしれない。


 ──彼女の名はウェバリエ。


 かつて、このサーカ大森林にて魔族に洗脳されていた所を望子たちに救われ、更には森全体を汚染していた魔素溜まりの除去までしてもらい、レプターと同じくらいには望子を想っている──。


 ──望子の、おねえさん(仮)なのだから。

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