下山中の一幕
ここから五章です!
この章のみ、物語が別の視点で動きます!
召喚勇者として異世界に喚び出された望子を始めとした一党、奇想天外は魔王を討伐し地球へと帰る為に、他の大陸にある魔王城を目指す旅をしていた。
そんな中、港町ショストへ行く為にリフィユ山を越えようとしていた彼女たちの前に舞い降りた鳥獣の亜人族、翼人との交流の末、彼らを襲う黄色の風の正体を調査する事となり、その元凶であった風の邪神ストラを何とか討伐した望子たちは、彼らからのもてなしを充分に受け、集落を後にしたのだった。
「……そういえばウル、ルイーロさんと何か話していた様だけれど。 治療術士がどうのとか」
地球であれば丁度おやつの時間という事もあり、望子の作った焼菓子をサクッとかじった鳥人のハピが、同じく小腹が空いたからと干し肉をガジガジしている人狼のウルにそう声をかける。
「ん? あぁ、ちょっとな……フィンの回復薬も少なくなってきたし、一党に治療術士を加えるべきじゃないか? ってアドバイスされたんだよ」
すると彼女は下山する足を止める事無く顔だけをハピに向け、翼人の頭領ルドの父親、ルイーロとの話の内容を簡潔に纏めて答えてみせた。
「あー、回復役かぁ。 でもなぁ……まだ増やすの?」
そんな折、海豚の下半身に大きな水玉をつけて、ふわふわと浮かびながら山を下りる人魚のフィンが、自分が作った回復薬を話題として挙げられた事によって会話に加わり、こちらも望子お手製のサンドイッチをもぐもぐと食みつつ首をかしげる。
「まぁ確かに……ここにレプが加わるとして治療術士入れると合わせて七人だろ? 基準を知らねぇから何とも言えねぇが……ちっと多く感じるよなぁ」
するとウルは、言いたい事は分かるぜとばかりにそう口にして、ブチッと干し肉を噛みちぎっていた。
「……ろーちゃん? どうしたの?」
「む? あぁいや……」
その時、それまで輪に入らず黙々と話を聞いていた白衣の少女、上級魔族のローアを不思議に思った望子が、おなかすいたの? と自分が食べていたパンを差し出し、彼女の顔を覗き込む様にして問いかける。
しかしローアは何でも無いといった様子で苦笑し、首を緩やかに横に振ってみせたのだが──。
「……おいローア、気になる事があんなら早めに言っとけよ。 またいきなり邪神とか嫌だからな」
ジロっと彼女を睨みつけ、懸念を心の内に秘めがちなローアを咎める様にウルがそう言った。
「そ、そうであるな。 といっても大した事では無いのであるが……ミコ嬢は、召喚勇者であるな?」
「……え? う、うん。 そう、みたいだね」
するとローアは流石に同じ轍を踏むのはまずいと感じたのか慌てた様子で頷いて、何故かそんな事を確認する様に望子に尋ねた事により、なんでいまさら? とは思いつつも望子は頷き彼女の問いかけを肯定する。
「召喚勇者という事は、ミコ嬢やウル嬢たちをこの世界に呼び出した者がいるという事である。 召喚術士しかり賢者しかり──聖女しかり」
「「「!」」」
それを見たローアが顎に手を当てつつ、望子が異世界に呼び出されたという事実と、それを行った何某かの存在を示唆していくつかの候補を挙げると、亜人たちの脳裏に極端な程自分たちに怯えていた神官姿の金髪少女の姿が浮かんだ。
「その反応……心当たりがお有りか?」
「……あぁ、三つ目の奴にな」
ほぼ同時に目を見開いた三人を見ていたローアが望子から受け取ったパンを口にしながら問い、代表してウルが渋面を隠そうともせず答えると──。
「という事は……聖女であるか? ならば話は早い。 聖女であれば大抵の場合、ある程度の治療術を修めている筈であるし、勇者召喚を行使出来る程の魔力があるならこの一党、奇想天外でも充分通用するのではと思うのであるが──如何に?」
……彼女自身、かつて聖女と呼ばれた存在に出会った事があるらしく成る程と頷きつつも、当代の聖女の事は知らぬがと付け加えてから彼女たちへ提案する。
「つってもよぉ……ミコを異世界に強制的に連れて来た奴だぜ? ハッキリ言ってあたしは嫌なんだがな。 そもそも何処にいんのかも知らねぇしよ」
望子はいまいち話の流れが掴めておらず疑問符を浮かべていた為、ウルたち三人が主となって考えていたが、真っ先に口を開いたウルがそう主張すると、ハピとフィンもほぼほぼ同意見だったのか無言で頷いた。
「むぅ、そうであるか。 悪くない案だと思ったのであるが……それならば仕方あるまい」
折角の妙案が却下された事に若干の不満を抱きながらも、ローアは大人しく引き下がる。
(わたしをここにつれてきたおねえさん……あのひとのせいでおかあさんにあえなくなって……でもそのおかげでみんなとはなせるようになって……んー)
一方、望子はウルの言葉で漸く話を理解し、王城で見た聖女の姿を思い出しつつ、パンをもぐもぐとしながら自分なりに色々と考えていた。
「そもそも何て名前だっけ。 聞いた気もするけど……やたらビクビクしてたって事しか覚えてないや」
怯えていた原因が自分たちに……もっと言えば自分にあるという事を全く自覚していないフィンがそう口にすると、ハピがふと声を上げて──。
「えぇと確か……『カナタ』だったかしら」
……そして、物語は望子たち一行が新たな仲間としてローアを連れ立ち、ドルーカの町を後にしたところまで遡る──。
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