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愛され人形使い!  作者: 天眼鏡
第一章
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Prologue:Viewing the Moon

天眼あまめみらと申します!

初投稿です!

よろしくお願いします!


「──……ねぇ、おかあさん」

「なぁに?」

「おつきさま、きれいだね」

「……ふふ、そうね」


 煌々と光り輝く中秋の月を中心として絨毯の様に広がる満天の星空に、そんな仲睦まじい親子の呟きが辺りに響いて聞こえる程の静けさに支配された夜八時。


 濡羽色の長い髪と吸い込まれそうな黒い瞳が特徴の娘と、そんな娘とは違って亜麻色の長い髪と栗色の瞳が特徴の母親、共に美人である事は疑いようもなく。


 ビル群や住宅地から少し離れた場所にある、この親子二人だけが暮らす家としては中々に広い舞園家の緑豊かな庭にて、お月見がしたいと言ったのは娘の方。


 誕生日を少し前に迎えて八歳になっていた娘の望子みこが、テレビでやっていた特集を見て『おつきみ、やってみたい!』とお願いしてきたのが切っ掛けだった。


 満面の笑みでお願いしてくる望子に対し、そんな望子が産まれた瞬間から溺愛している母親の柚乃ゆのは『それじゃあ、お団子作らないとね。 あぁ、ススキも用意しなくっちゃ』と即座に了承しつつ準備に移り──。


 今、縁側に置かれている親子二人で作ったお団子と柚乃が買ってきたススキのお陰で、すっかりお月見ムードに浸りながら温かい緑茶を嗜んでいた、その時。


「……おかぁさん」

「? どうしたの?」


 もう夜九時も近いという事もあってか寝ぼけまなこを擦り、ふわふわとした口調で声をかけてきた娘の姿に心から愛おしさを覚えていた柚乃が二の句を待つ。


「おとうさんも、あのおつきさまみてるのかな……」

「……っ」


 ……一瞬、言葉に詰まってしまった。


 柚乃の夫であり、そして望子の父親にもあたる勇人ゆうとは望子が物心つく前に、この世を去っているからだ。


 柚乃は、この哀しい事実を望子に伝えていない。


 お仕事で遠く離れた地にいると嘘をついていた。


 ……親としては決して褒められた事ではないし、いずれは知らなければならない事だとも分かっている。


 それでも、この事を伝えて今の望子の顔が曇ってしまうくらいなら、もう少しだけ後回しにするべきだ。


 そう考えた結果、五年近く真実を言えないでいる。



 だから、今日も──。



「……えぇ、きっと。 きっとね……」


 おそらく崩れていただろう笑みを何とか戻して、お世辞にも快活とは言えないその声音で答えてみせた。


 この子に真実を告げられるのは一体いつになるだろうか、と僅か八歳の愛娘の綺麗な黒髪を撫でながら自らの意気地のなさに呆れていると、『ふあぁ』と望子が可愛らしく控えめな欠伸をこぼしていた為に──。


「望子、もう眠い?」

「ぅん、ねむたぃ……」

「そうよね、それじゃあ──よいしょ」


 ちょっと作りすぎたお団子を残さない様にと沢山食べてくれた事もあるだろうと判断して声をかけたところ、その呂律の回らない声音で答えた望子を柚乃は優しく抱きかかえて洗面所へ向かい、歯磨きをさせる。


 もうお風呂には入った後だった為、水色の下地に星が散りばめられた意匠のパジャマを着た望子を、そのまま部屋のベッドまで運んだ柚乃はそっと寝かせて。


「あっ、今日は絵本はいい?」

「ぅん、ねむたいから……」


 いつも眠る前に読んであげているお気に入りの絵本の事を思い出していたが、どうやら今日の望子は眠気の方が勝っている様で、これは必要ないらしかった。


 その後、『じゃあ、おやすみ』と小声で告げて部屋を出ようした柚乃が、『おかあさん』と同じ様な小さな声で引き止めんとする望子の声で振り返ると──。


「……『みんな』は、どこ……?」

「……あぁ、えぇと──ここにいるわ。 はい」


 望子は、『みんな』と何かを指して欲しているかの如く腕を伸ばしており、その何かを当然ながら知っていた柚乃はオレンジ色の小さな光が照らす薄暗い部屋を見渡して、『みんな』を見つけて望子に手渡した。


 狼、梟、海豚──三種の動物のぬいぐるみだ。


「……ぇへへ」


 やはり眠気の方が強いのだろうが、それでも心から嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめる我が子に再び笑顔を向けた後、柚乃はパチッと部屋の電気を消し──。


「ふふ……おやすみなさい、望子」

「ぅん、おかあさんもおやすみ……」


 およそ何十回、何百回と繰り返してきた筈の日常にも幸せを感じ、柚乃はふわふわとした気分になった。











 ──だから、柚乃は気がつかなかった。



 最愛の娘に忍び寄っていた、その手に。



 ──だから、柚乃は後悔する。



 そんな当たり前の日常が、今日で最後だった事に。

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