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あたしのお姫さま

作者: 犬丸

あたしはお姫さまが大好きだ。


小さい頃から絵本の中に出てくるお姫さまが大好きだった。

可愛くて、優しくて、きれいで、愛らしくて、自分とは正反対のそれにひどく憧れた。

あたしだけのお姫さまがほしい。

その思いはどんどん強くなって、次第に人形集めが趣味になった。

お姫さまのような人形を集めては綺麗に飾り立てて大切にした。

でも人形は動かないし話さない。

段々と人形じゃない本当のお姫さまが欲しいと思うようになった、


そして、あたしはあたしだけのお姫さまを手に入れた。




カーテンから漏れた日差しが顔に当たって目が覚めた。

いつも通りの朝だ。

顔を洗って朝食の支度をしないといけない。

まあ実際に支度をするのはあたしじゃないけど。


「キース呼んで、お姫さま起こさなきゃ」


寝台の上で身体を伸ばしてから部屋を出た。

玄関に向かい隣に住んでいるキースを呼びに行くが…


「おはようございます、姐さん」


呼ぶまでもなく家の前で待機している。


「準備して」

「はい、失礼します」


こいつは姐さんと呼ぶのをやめろと言ってもやめない。

苛ついて叩き潰したこともあるけどそれでもしつこいので諦めた。

勝手に配下面されるのはむかつくけど、こうやってお姫さまを世話するための下僕としてはまあまあ便利だから大目に見ている。

さあ、お姫さまを起こさないと。



* * *



「朝だよお姫さま」


ラウの声で目が覚めた。

目を開くとすぐ近くに顔が見える。

黒い髪に黒い目、傷のある浅黒い肌。

ああ、今日もラウが側にいる。

そのことに私はひどく安心する。


「おはようラウ」


身を起こしながら挨拶をすると笑顔で返してくれた。

私のことをいつも可愛い可愛いと褒めてくれるけどラウの笑顔だって可愛いと思う。


「今日はユーチェンのところに行くんだっけ?」

「うん。お茶に誘われているから」

「お姫さまを送ったらあたしは北区で仕事だからキース…は駄目だからノーニャを連れて行ってね。終わったら迎えに行くね」

「分かった。お仕事、気をつけてね」

「うん!ありがとう」


話しながらもラウは素早く私の身支度をしていく。

服を着せ、髪を梳かして編み込む。

化粧はあまり好きじゃないみたいだから紅を引くだけ。

自分のことには拘らないのに私のことには手を抜かない。

私を買った頃と比べると髪を編むのもとても上手になった。

鏡の向こうに真剣な顔をしたラウがいる。

お姫様というものは多くの人に傅かれて世話をされるものなんだろう。

そういう意味ではラウは私の侍女のような存在なんだろうと思うけど、私にとっては王子様や騎士でむしろ傅きたいような気持ちさえする。

最初の頃は私の世話だなんで何が楽しいのかと思っていた。

でも私もラウの世話をしてみたい。

好きな人に尽くすって、きっと幸せだ。


「よしできた」


髪が結い終わったらしくラウが満足気な顔をしている。

この表情を見るのが好き。

自然の微笑みが浮かんだ。


「ありがとう、ラウ」

「うん」


ラウは出会ってから今まで、いつだって私に対する愛情を隠さずに表現してくれる。

私はお姫様だからラウの世話はできない。

だからせめて私は完璧なお姫様でいたい。

あなただけのお姫さまでいるのが私の愛情だから。



* * *



「おはようキース」


朝食の準備がほとんど終わった頃に姐さんと姫様がやってきた。

姫様の身支度も済んでいて、相変わらず美しい微笑みで挨拶をしてくれる。


「おはようございます。もう準備は終わりますから召し上がってください」

「いつもありがとう」

「いいんだよキースなんかにお礼なんて言わなくて」


姐さんは今日も上機嫌だ。

そもそも姫様を買ってからというもの不機嫌だったことの方が少ないが。

でもそれは俺だって同じだ。

姫様が来てくれたおかげで姐さんが俺たち黒犬を使ってくれる機会が増えた。

こうやって朝食を作ったり護衛をしたりに限らず、仕事に同伴させてもらえることも格段に増えた。

姫様様だ。


「お姫さまを乙女まで送ってから北区に行って、終わったら迎えにいくから代わりに手続きしといて」

「分かりました」

「お願いしていたお菓子はどう?」

「用意してます。ノーニャに持たせてありますんで」

「ありがとう」


姐さんに尽くすのは当然で、姐さんが尽くす姫様に使えるのも当然のことだ。

それでもお礼を言われて嫌な気になる奴なんてそうそういない。

そういう意味では姫様は仕えがいのある人だと言える。

俺は2人が朝食を食べ終わるのを見ながら、このままいい関係が続いて欲しいと考えていた。



* * *



「ユーチェン様、黒狼の姫がご到着です」

「そうか。出迎えなければな」


もうそんな時間か。

今日は姫とお茶の約束をしていた日だ。

机上の書類を片付けて玄関へ出迎えに向かった。


「やあラウ、姫、よく来てくれた」

「こんにちはユーチェン。お招きありがとう」

「久しぶりだねユーチェン。今日はお姫さまのことよろしく」

「ああ。私の名にかけて確かに約束しよう。ラウは仕事か。今度はぜひ2人揃って遊びに来てくれ」

「うん!それじゃ、また後でねー」


ラウは手を振りながら帰って行った。


「それでは姫、お手を」


微笑んで手を乗せる彼女は美しい。

金糸の髪に紺碧の瞳、白い肌はほんのりと淡く桃色に色づいている。

これでまだ13歳だっただろうか。

あと数年もすれば立派な傾国になるだろうが、本人はラウのことしか見えていないらしい。

どれだけ熱視線を送られても本人は少しも気にかけるそぶりを見せず、それこそ高貴な姫気味のようだ。

私はそんな2人がとても可愛くてこうやって定期的にお茶に誘うが、今回はラウの仕事と被ってしまったようで残念。


「今日はフェラルーラの焼き菓子を持ってきました。お口に合うといいのですが」

「私もあそこの菓子は好きだよ。ありがとう」


姫をエスコートして温室まで案内する。

中にいるのは私と姫と姫の護衛と給仕だけだ。

ラウが来れない時は黒犬の護衛が付いてくるが、乙女のことを気遣ってかいつも女性の護衛を連れてくる。

まあ男を連れて来たところで屋敷には入れないから当然の判断だろうが。

姫と私が席に着き、給仕がお茶を淹れ始める。


「さあ、楽しいお茶会の始まりだ」



* * *



「なんでガロウがここに居るの?」


仕事に行ったらあんまり見たくない顔がいた。


「なんでとはひどい言い草じゃあないか。ええ、黒狼よ」


煙草を吹かしながらガロウがにやにやしている。

臭いから煙草は嫌いだ。


「ここは獅子のシマじゃないじゃん。てっきり天秤からの依頼だと思ってたのに」

「それも間違いじゃない。天秤の依頼でもあり、俺にも関係あるってことだ」


まあ座れ、と視線で椅子を勧められた。

断る理由もないし座る。

ガロウとはそれなりに長い付き合いだけどあまり好きじゃない。

面倒くさい仕事ばかり持ってくるからだ。

こいつの部下に比べたら百倍ましだけど。


「それで、仕事は?余所者を追い出せって話じゃなかったっけ?」

「ああ、それで合ってるさ。こそこそと商売してる悪い子が増えてきたから叩き出す。それは間違いねえ。俺から頼みたいのはサルガッチェの事だ」


あたしの今の顔は恐らくかなり歪んでいる。

見たくない顔の次は聞きたくない名前が聞こえた。


「なんであいつがでてくるの…もうやだ面倒くさい!」

「すまんなぁ。どうも共犯ではないみたいだが商売に興味があるのか顔出してるみたいでな。ちょいと懲らしめて俺んとこ連れてきてくれや」

「自分の部下くらい面倒みてよ。あいつ問題ばっかりだしそろそろ潰したら?」

「いやあ、馬鹿な子ほど…って言うだろ?あれでそれなりに使えるんだ。馬鹿だが」


サルガッチェはガロウの部下で獅子の幹部だ。

あたしよりは弱いけどそれなりに腕が立つ。

でもプライドが高くて手段を選ばない馬鹿だ。

今回のことも自分で後始末までするつもりだったのかもしれないが、ここは天秤が治める地区だから天秤が問題に思えばそれまで。

サルガッチェが関わっているからって容赦はしないしそもそも大事になれば獅子に面倒をかけると分からなかったはずがない。

自分の力を過信しすぎだ馬鹿。

あたしが呼ばれたのがその証拠。

天秤も直接手を出すのは避けて関係ないあたしに依頼して、こうやってガロウが介入できる余地を残している。

互いのことを考えれば一番いい選択だ。


「報酬は?」

「天秤とは別に500万。あと、これは伝言だが標的の商品は好きなだけ持って行っていいそうだ。」

「仕方ないな…分かった」

「恩にきる」


ガロウが目を細めて笑う。

どうせ断ってもサルガッチェが邪魔をしてくるに決まってる。

結果は変わらないがこれは迷惑料ってことなんだろう。


「標的の居場所は?」

「港の近くだな。ちょこまかと移動したり荷を分けたりと捕まえにくいらしいが、お前の鼻なら大丈夫だろう」

「犬みたいな言い方やめて」

「悪い悪い、黒狼よ」


どっちにしても犬みたいなものだ。


「情報屋にも話を通してあるはずだ。夜中に片付けてくれ」

「分かった。一ヶ月はまともに動けないからね」


サルガッチェが。


「分かったよ」


苦笑いで了承した。

よし、八つ当たりさせてもらおう。


「じゃあ帰る。報酬に関してはキースとまとめておいて」

「じゃあな」


キースとガロウを残して北地区を出て行く。

中央区に戻って情報屋に話を聞かないと。

ああ、お姫さまを迎えに行くのが遅くなる。

夜に仕事ならそのままユーチェンのところに居てもらった方が寂しくないかもしれないから後で黒犬の誰かを使いに行かせよう。

情報屋の家に向かいながらお姫さまになにか買ってあげるものはないか店を覗いていった。

可愛い服、綺麗な装飾品、美味しい食べ物、珍しい本――あまりあれが欲しいと言うことがないから私が見つけては買ってあげている。

それこそ物語の中のお姫さまが持っているものは何でも揃えてあげたい。

でも最近は何か目新しさがない。

何か足りないものはあっただろうか。


「おいラウ」

「ん?」


うんうん考えていたら情報屋の家の前を通り過ぎていた。

くると思って待っていてくれたのか呆れた様子の情報屋がこっちを向いている。


「考え事してたら通り過ぎちゃった」

「そうか。今日の夜の件についてだろ、入れよ」

「おじゃましまーす」


情報屋の家にはよく来るから勝手に座る。

話を聞きながらついついさっきまで考えていた続きに頭が向かってしまう。

お姫さまといえば、ドレスとか宝石とか…あとは花かな。

でもどれも今だってあるものばかりだ。


「話聞いてるか?」

「うーん…ねえ、お姫さまと言えば何だと思う?」

「聞いてないな」


情報屋がため息をついた。


「だってずっと考えてて答えが出ないから集中できない」

「それはお前のお姫のことか?」

「違うよ。いろんなお姫さまのこと」

「気になるなら絵本でも読め。とりあえずもう一度説明するから聞いてくれ。三度は説明したくない」

「うん」


そうか、確かにお姫さまのことならお姫さまが出る絵本を参考にしたら早いかもしれない。

やっぱり情報屋は頭がいい。

ても今までたくさん読んできたけど何か新しい発見とかあるかな。

ひとまず解決してすっきりしたので今度はきちんと話を聞いた。


「標的の潜伏場所はここと、ここと、ここだ。同時に潰すのがいいんだろうが、お前なら異変に気づかれる前に片付けられるだろ。問題はサルガッチェがどこに来るかだが、一番港に近いここだろうな。人数はここが9人、あとは7人ずつだ。あとはお前にとって大した情報じゃないな」

「分かった。ありかと」


場所と人数だけ分かれば十分。

ちょこまかと捕まえにくい奴らみたいだけど、逃げる前に叩いてしまえば問題ない。

後は夜を待つだけだ。




絵本に出てくるお姫さまと言えば、綺麗なドレスに宝石の装飾品、そしてお城に住んでたくさんの人と豪華な調度品に囲まれて暮らすものだ。

お城は建ててもいいけどちょっと面倒だし、あんまりたくさんの人に囲まれるのも鬱陶しい。

それでも何かお姫さまにあげれるものはないか、うんうん唸っても思いつかない。


「もう少しで思いつきそうなのになあ」


ぽつりと呟いてしまったけど答える人はいない。

標的の潜伏場所を向かいの建物から見下ろして気配を探る。

5、6…9人か。

情報屋の言っていた通りだ。


「仕事をさっさと終わらせないとね」


そして愛しの姫へ会いに行こう。





外の見張りを一撃で沈めて鍵を取って玄関から堂々と侵入する。

この部屋には4人、扉に一番近いのがサルガッチェだ。

気配も煩いからすぐ分かる。

部屋に入ってすぐに奴から潰す。

もちろん急所に入れてやった。

この間抜け面をガロウに見せてやりたい。

これで一ヶ月は痛みも引かないだろう。


馬鹿が床に倒れきる前に残りに取り掛かる。

驚きの声をあげる暇も、仲間に連絡をあげる暇も与えない。

精霊を使っていても発動前に術者が気絶してしまえば何もできないし、気絶を条件に発動する術を扱えるような高度な術者はそうそういない。

残っている他の部屋の4人が気付く前にさっさと終わらせよう。




「これで終わりっと」


最後の隠れ家を潰して仕事が終わった。

後は天秤と獅子が適当に片付けるはず。

こいつらの商品から好きなものをもって行っていいとは言われたけど、見たところ西大陸からの輸入品が多くて、お姫さまには懐かしい物もあるかもしれないと思ったのにあまり趣味がいいとは言えないものばかりでがっかりした。

動物も犬や猫のような愛玩動物じゃなくて猛獣ばかりだし。


「お姫さまも人間はいらないだろうしなあ。」


檻に入れられた人間も数人いた。

子どもが多いからお姫さまの下僕としていいかとも考えたけど、お姫さまが売られた時を思い出して辛い思いをしたら嫌だし、下僕なら黒犬の連中もいるし。

お姫さまも初めて会った時はこんな檻に入ってたんだよね。

今より小さくて可愛かったなあ。


「あの」


お姫さまの事を思い出して幸せな気分に浸っていると檻の中から声がかかった。

お姫さまと同じか、少し上くらいの少年だ。

目と髪の色も似ている。

返事をしないでただ見ていたら、少し口籠ってから続きを口にした。


「こ、ここから出して頂けないでしょうか」

「それはあたしの仕事じゃないからやらない」


断ったけど、縋るようにこっちを見るのをやめない。

整った顔をしているから高く売れそうな少年だ。

お姫さまみたいに賢そうだし、2人で並べたら揃いの人形みたいだろうなあ。

それこそお姫さまと王子さまみたいに…と、そこまで考えて、急に今までの悩みが吹っ飛んだ。


そうだ、お姫さまといえば王子さまだ。


「ねえ、ここから出してあげるからあたしのお願い聞いてくれない?」

「ぼ、僕にできる事なら!」


期待と希望で目が輝いてくる。

素直そうだし、これはいいのを見つけたかもしれない。


「ちょっと王子さまになって欲しいんだけど」


あ、固まっちゃった。



* * *



最近、ラウが傍にいないことが多い。

もちろん仕事や用事ががあるから四六時中一緒に入れる訳はない。

それでも、時間があれば私の傍に居てくれるのに最近は何かしら一人で行動していることが多いみたいだ。

それでも特に不満はない。

だって何をしているかラウが言ってくれているから。


「まだ秘密だけど、お姫さまきっと喜ぶと思うから楽しみにしててね!」


嬉しそうに毎回のように報告してくれるから少し寂しくても不満なんてない。

自室で編み物をしながら時間を潰す。

ラウに贈ったら喜ぶかな、と考えている時間は幸せだ。

そうして幸福な時間に浸っていると、外から足音が聞こえてきた。

待ち人が帰ってきた気配に自然と笑みが浮かぶのが分かる。

ドアが開いてラウに笑顔でおかえりを告げようとした口が、ラウの後ろを見て止まった。



* * *



王子さまを檻から出した後、とりあえずボロボロな状態をどうにかするために黒犬の一人に預けて定期的に様子を見に行った。

元々いい家の子どもだったみたいで見た目通り賢さは合格だった。

というか、多分あたしより賢い。

後は体力をつけてもらう。

別に強くなくてもいいけど、お姫さまの盾になるくらいにはなってもらわないと困る。

あたしもたまに様子をみては鍛えていたけど、本人が真面目に頑張ったおかげで拾ってから一ヶ月ほどで様になった。

キースは何か言いたそうな顔をしていたけど結局は何も言わなかった。

言いたいことがあるなら言えばいいのに。

生意気な子を言ったら許さないけど。


そして、待ちに待ったお姫さまに披露する時が来た。



「お姫さま喜んでくれるかな」


王子さまを連れて家に入る。

お姫さまが喜んでくれる様子を想像するだけで浮き足立って足取りも軽い。

どきどきしながらドアを開けると、確かにお姫さまの笑顔が見えたのにすぐ固まってしまった。


「お姫さまただいま!今日はプレゼントがあるんだ…よ」

「…おかえりラウ。プレゼントって、なに?」


おかえり、と言いながら笑顔を見せてくれるのに、なぜだろう、少し怖いような。


「こ、これだよ!お姫さまといえば、王子さまでしょ!準備したんだ!」


王子さまをあたしの後ろから引っ張り出して前に出した。

これで機嫌が直るはず。


「はじめまして。貴女の王子です、姫。」

「……」

「……」

「……」


なんで沈黙が続くんだろう。

後ろでキースが何か呟いたけどよく聞こえない。

この状況をどうにかできるならもっと大きな声で言え!


「お、お姫さま気に入らなかった?」

「……」

「ごご、ごめんね!これは捨てるから!今度はお姫さまが選んでいいから!」

「ラウは、最近ずっとこの子の世話をしてたんだね」

「うん。ずっとじゃないけど」

「私は一人にしてその子に構ってたんだ」

「え、ご、ごめんなさい?」


どうしようお姫さまの機嫌が悪そう。


「あの、私は結局いらないのでしょうか」

「え?お姫さまがいらないんだったらもういいよ。好きにして」


今は王子さまに構っている場合じゃないんだってば。


「では、私は貴女にお仕えしたい」

「は?」


王子さまが膝をついて私の手を取った。

何してるのこれ。


「そちらの姫がいらないというのなら、私は貴女の王子になりたいのです」

「いや別にいらな」

「ふざけないで!」


お姫さまが立ち上がって王子の手を払った。

こんなに声を荒げるなんて珍しい、というより初めてで固まってしまう。


「ラウは私のなんだから!貴方はいらないって言われたでしょ!どっかいって!」

「好きにしろと言われたのですから、好きにしているまでです」

「何ですって…!」

「お、お姫さま落ち着いて」

「ラウはいいから!これは私とこいつの問題よ!」

「ええ。ここは私達に任せてください」


口も手も挟めないまま二人の喧嘩は終わらない。

どうしてこうなってしまったんだろう。


あたしのお姫様はすこしだけ気難しい。



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