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シミ取り名人VS名探偵

作者: さきら天悟

ふッ、と藤崎はこぼした。


それは感心したものではなく、

少し小馬鹿にしたような・・・

と男はとらえた。


「藤崎さん、何か言いたいことがあるんじゃないですか」

目を光らせた男は言った。

この男、テレビ局のプロデューサー。

腕利き、というより目利きというべきか。

これまで『ワープ』、『ゴーストバスターズ』、『徳川埋蔵を探せ』

の番組に名探偵として藤崎を出演させている。


「いえ」と藤崎は言い、モニタから視線を戻した。

現在、次の番組の企画会議中、

会議室のモニターには放送中の番組が流れていた。


「ヤラセだと思ってるんですか」

プロデューサーは語気を荒げていった。

自社の番組をバカにされてはいられないとうていで。


「そういうわけじゃ・・・」


「じゃあ、どういう訳ですか」

プロデューサーは藤崎を問い詰める。

本音を吐かせる彼の手口だ。


「シミ取れてないと思って・・・」


「そらじ〇ー、キレイになったじゃないですかーー」

プロデューサーはモニターに指をさした。


番組は、シミ取り名人がそらじ〇ーに付けられたシミを取る内容だった。

カレー、しょう油ラーメン、赤ワイン。

2時間でシミを取らないと、夕方の天気予想出演に間に合わないという。


まず、シミの表面の油膜をはがす。

次にたんぱく質を分解、

最後に色素を壊す。

そして、シミを完全に落としたのだった。


「取れてないって?」

プロデューサーは藤崎に再度、問うた。


藤崎は苦笑いをし、語った。




三か月後のことだった。

『シミ取り名人VS名探偵』ゴールデンタイム番組の収録が始まった。

もちろん、あのプロデューサーの企画だ。


「どんなシミでも取れます。

シミ取りは科学です」

シミ取り名人は静かに語った。


藤崎はプロデューサーの目を見た。

「本当に取れているんですか。

私は探偵です。

自分の目で見たものしか信じられません。

視聴者の中にも疑問に思っている人もいるでしょう。

それを私が解明します」

はー、とため息を心の中でついた。

自己嫌悪だ。

煽れというプロデューサーの目だった。


「任せてください」

シミ取り名人は声を張り上げた。


それを見て、プロデューサーは満足げに頷いた。



新品の純白なワイシャツが掲げられた。

それにカレー、しょう油ラーメンのスープ、赤ワインが。

シミは前回と同じだった。

シミ取り名人は不満そうな顔をした。

バカにしているのか、というように。


「制限時間は2時間。

シミ取り名人、始めてください」

番組MCは作業開始を宣言した。



シミ取り名人は作業を進めていく。


高温スチームを当てながら、生地を叩く。


「加熱により、生地が変質しますから、

非常に難しい技術ですね。

私にはできません」

洗濯専門家が解説する。


シミ取り名人は順調に作業を進めていく。

前回と違いシミの面積が小さいため、

1時間もかからず、最終の色素破壊の段階に入っていた。


藤崎はと言うと、シミ取り名人の作業に見とれていた。

このままでは対戦に負けてしまうが、

シミ取り名人が部分的にシミが取れた所をカメラに見せる度、

「ほー」とか「凄い」とか声を上げた。


シミ取り名人も偽りのない藤崎の表情を見て気分を良くしたのか、

前回放送されなかった秘伝の技を披露した。


それを見た洗濯専門家は解説も忘れ、メモしていた。




30分以上時間を余し、シミ取り作業は終了した。


「見事というしかありません」

と専門家は感嘆した。


「これより色彩の専門家が鑑定します」

MCは結果を科学的に査定する専門家を紹介した。


色の専門家はカメラをワイシャツに近づける。

モニタに純白の生地が映る。

データを取り終えた色の専門家はパソコンを操る。

事前の取ったデータとシミ取り後のデータを比較する。

「99.9%同じ白です」


拍手が起こった。

最初に拍手したのは藤崎だった。


「決まりですね」

番組MCは藤崎を見つめた。


「ちょっと待ってください」

藤崎は立ち上がった。

「まだシミは取れていません」


「真っ白じゃないですか」

MCはシャツを掲げた。


藤崎は歩き出す。

そして、シミ取り名人が作業している台の前に立った。

「シミ、取れてませんね」

藤崎はそれを掲げた。

遠目にもカレーのシミがついているのが分かった。

それはワイシャツのシミを移したタオルのようなものだった。


わっはっはー、大きな笑い声が上がった。

シミ取り名人だった。

「これは1本とられたな。

探偵さんとの勝負は引き分けだな」


藤崎はシミ取り名人の心に大きさに深く頭を下げた。



「シミ取り名人の挑戦はこれからも続いていきます」

MCを番組を締めた。



その後、番組の告知が始まった。

『シミ取り名人がいく』というCSチャンネルだった。

2時間、ただシミ取りをする作業を放送するというものだった。





藤崎が楽屋で帰り支度をしていると、

ノックもなしにいきなりドアが開いた。


「ありがとうございました」

プロデューサーは藤崎の手を取った。


藤崎は苦笑いを隠す。

興奮でプロデューサーの手は汗ばんでいた。


「『シミ取りにはドラマがある』と藤崎さんが漏らしたのを

ヒントにしました」


「でも、シミ取りの2時間番組なんて・・・」

藤崎は心配そうな目をした。


「日本人は2時間マラソンを見ている国民です。

大丈夫です」


「本当に大丈夫ですか」

藤崎は心配を払しょくできない。


「秘策があるんです。

DVDにして売ればいいんです。

主婦やシミ取り業者に売れます」


藤崎の表情は曇ったままだ。


「それに番組を売れると所があるんです」


「番組を売る?」

藤崎は怪訝な顔をする。


「海外です。

言葉はいりません、分かりやすいと思います。

北欧では暖炉の炎の映像をずっと流している番組もあるそうです。

受け入れられるんじゃないですか」



いくつもの料理番組があるなら、シミ取り番組があっても・・・

藤崎は少し納得した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 名探偵が、割と色々とメッキでだということが後半分かって、そのギャップに笑いました。 [気になる点] タイトルの通りのvsな構造が前半、せいぜい中盤で終わっている。名探偵主体の話になってしま…
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