「ダンジョン主だと?」
「ダンジョン主だと?」
驚愕の事実にざわめく。
「このダンジョンのすぐ近くに、別のダンジョンがあるなんて・・・・」
黒髪の麗らかな女性の眼がまん丸になっている。
「だが、その方角は、龍神殿の・・・・・・しかし、下位吸血鬼に手こずるような奴らだ。まぁ、人違いだろうな」
「ダンジョン主がダンジョンを攻めてきたんだ。覚悟はできているだろうよ」
「ああ、戦争だな」
赤髪の女が立ち上がる。
「宣戦布告はあたしに任せておきな」
「よし、リリは宣戦布告に、エリは俺と戦争の準備にかかるぞ」
「はい」
「任せろ」
「さーて、久しぶりの戦争だ。張り切っていこう」
「鈩爺、三日で出来るとか言ってたくせに、5日たってもできねぇじゃねえか」
「全く、殿を待たせるなど。私が一度締めてきましょうか?」
「ふっ、いや、いいよ」
「何を笑われておられるのです」
「いや、なんでも。さて、今日も組手でもしよう・・・・ん?」
ごぼごぼと音をたてて、何かが湖の底から上がってくる。
「なんだ、なんだ?」
小妖怪が騒ぎ出した。
「河童!」
「おうよ!」
河童が湖に入る
「やべえ、なんか、すごいのがくるぞ!」
「すごいの?お前一体何を」
天狗がそういった瞬間だった。
大きな水柱を立てて、赤髪の女が湖から飛び出してきた。
「だれだ、人のダンジョンに勝手に入ってきやがって!」
烏天狗たちが突っかかっていく。
「やめろ、お前ら!」
天狗が叫んだその瞬間、女の姿がぶれ、烏天狗たちが倒れた。
「てめぇら!」
「殿!」
俺はすぐに女にとびかかった。
腰の回転と体のひねりを使い、太ももから膝、足へと力を流していく。
「はっ!」
女が足を蹴り上げる。
俺の攻撃は相殺され、距離を取る羽目になった。
「誰だ?お前は」
「誰だ?うちのダンジョン侵略しておいてよく言うぜ!宣戦布告に来た!」
「はぁ?」
「ダンジョン主同士で争う際、負けた方のコアを吸収、合併するという決まりの元、戦うことがあります。しかし、ダンジョンコアがあるダンジョンの方が珍しいので・・」
「なるほどな。しかし、なぜあいつはコアがあることに気が付いたんだ?」
女が懐からコアを取り出す。
「これを持ってきておいてよかったぜ。コア同士が近づくと、ダンジョンがお互いを侵食しあう。それを宣戦布告という。互いのダンジョンの入り口が完全に開いたところからが始まりだ」
女が池を向く。
「じゃあな。次合うときは戦争だ」
女はこちらをにらみつけると水中に潜っていった。
「河童、追いかけろ!」
天狗が叫ぶ。
「やめておけ!深追いは危険だ。アイツが出ていったかどうかだけ確認しておくんだ」
小妖怪の方を向く。
「お前ら、水を見張っておけ。もし誰か来ても戦うな。俺に知らせろ!」
ダンジョンコアに意識をリンクさせる。
「向こうのダンジョンとこっちがつながるまでどのくらいかかる?」
「20時間ほどでつながります」
「わかった。俺は鍛冶場に行く。お前らは戦える準備をしておけ」
「は」
「ど、どうすんだよ!」
「やべー!!!!!殺されるよぉおお」
すぐにかしずいたのは天狗のみ。ほかの奴らはパニックになって暴れている。
「強くなければ、誰も従わない・・・・か」
突然、壁に亀裂が走る。
爆音の発生源は俺の拳だ。
「落ち着け。あんな奴は俺の敵じゃねぇよ。それになぁ、妖怪が魔物にビビッてどうするんだ。それで強くなるのか?ああ?」
妖怪たちの動きが止まる。
「確かに、下位吸血鬼に俺と天狗は殺されかけた。でもな、妖鬼になった俺はそのあと一撃も喰らわなかったし、天狗は相性が悪かっただけだ。それでも怖えってのか?」
「だがよ、あいつはただの体術で俺たち烏天狗を沈めたんだぞ?」
ボロボロになった烏天狗の一人が声を絞り出す。
ぽろぽろと不安の声が漏れ出る。
「はぁ、どいつもこいつも意気地なしだぜ」
「な、若!何言って・・・」
「そんなに不安ならなぁ!!!百鬼夜行の一匹として俺の後ろについてきやがれ!!!」
「っ!」
「俺は準備がある。お前らも戦う覚悟を決めておけ!!」
「「「はっ」」」
『やはり、殿は妖怪の主となられるお方だ』
天狗は何ができるか、知恵をめぐらすのだった。